家族6
姉の写真が送られてきた後に、別のメッセージが奏美のスマホに届いていた。
『ごめん、奏美。ドジって捕まっちゃったけど、スキを見て何とか逃げ出せたから安心して。それより、人妖機関にコイツ等の仲間がいてそっちの情報が筒抜けになっているみたい。機関も信用できないから、外で落ち合おう。落ち合う場所は……』
姉の言葉? を信じ、密かに施設から逃亡を図る奏美。
しかし偶然、走矢がそれを目撃していた。
「あれ? 奏美ちゃん、施設の外に出ちゃったぞ?! 一体、どこに行くつもりだ?」
事情を聞くためにとりあえず追いかける走矢、そして息子が施設の外に出た事を感知するエリスだった。
一方その頃、人妖機関の荒事要員で構成された奏美の姉、『綾瀬 舞』救出部隊は指定された倉庫に到着、包囲と捜索を開始していた。
「って言うか罠でしょ、これ」
呟いたのは見た目10代のヴァンパイア、三田村 日奈子。
写真入りのメッセージを一貫して罠だと主張する女性職員だ。
「罠だとして一体誰に向けた物なのか? あの妹さんか、妹さんを保護する我々か? それによって『罠』の意味が違ってくる。それに綾瀬舞が捕まっているのだとしたら、罠だろうと引くわけにはいかない」
淡々と語るのは『気』を使った戦闘術と術式を操る人間の女性機関職員、『蒼条 夏』。
年齢は23歳で日奈子とは年の離れたコンビである。
「も〜、お夏。アタシは別に見捨てろとか言ってんじゃないの。ただ、その前提で動いた方がいざって時、コッチのリスクが抑えられるでしょ?」
「却下。それは人質の危険度を上げる。我々の目的はあくまでも人質の救出。2番目が『敵』の正体を探る事だ」
そう言う夏の元に、彼女の猫型の式神が戻ってくる。
「中には人質らしき女性の他に5人ほど気配を感知できたそうだ。この情報は他の式神とも共有している。部隊長がどういう判断をくだすかだな」
「ぶ〜ぶ〜。お夏、冷た〜い。一緒に石化した中じゃない」
「その話はするな! あんなの文字通り初見殺しじゃないか!」
日奈子の言葉に、それまで一貫して淡々とした口調を崩さなかった夏が取り乱す。
かつて走矢を施設内に匿った時襲撃してきたメデューサ。
そのメデューサの最初の犠牲者が蒼条夏で2番目が三田村日奈子だった。
石化はどうしよも無かったとしても、メデューサの襲撃を施設内の同僚達に伝えられなかった事を、今でも後悔していた。
「あっ、潜入チームが中に入ったみたい」
日奈子の言葉で冷静さを取り戻す夏。
「さて、何を仕掛けてくるか……。なに?!」
「えっ、捕まっていた女の子が別人ってどう言う……?!」
潜入チームからの連絡によると、少女が捕らえられてはいたのだが、それは綾瀬舞では無い、赤の他人だったという事だ。
「罠か。それも偽物を使うとはなぁ」
「無関係の娘をさらって、舞ちゃんに仕立てたって事?」
「それだけじゃない。さらわれた娘を守りながら戦わなければならなくなった」
その頃、夏達が包囲した倉庫を遠目で眺める男が2人。
「十郎め、奴が失敗したせいでとんだ大事になってしまった」
「終わった事を責めても仕方あるまい。こちらはこちらの仕事をこなすだけだ」
そう言って倉庫の周辺ごと結界で包み込み、機関の職員達を閉じ込める。
「連中を始末するか? 兄貴?」
「そこまでの準備はしていない。とりあえずは時間稼ぎだ」
結界の中で戦闘が始まったのを確認して、2人は立ち去る。
「奏美ちゃん!」
廃ビルに立ち入ろうとする奏美を呼び止める走矢。
「佐伯走矢さん……」
走矢の声に立ち止まる奏美。
「こんな所に来て、みんなが心配してるよ? 早く施設に戻ろう」
「でも私、お姉ちゃんに会いたくって……。このビルに身を隠しているそうなんです」
奏美は自分のスマホに届いたメッセージを見せながら言う。
「このメッセージ、お姉さんが書いたって言える証拠とかあるの?」
奏美は首を横に振るだけだった。
「戻ろう、奏美ちゃん」
彼女の手を引こうとする走矢だったが、それを拒否される。
「わかった、俺が見てくるから、奏美ちゃんはここで待ってて」
そう言って廃ビルの中に入ろうとしたとき、
「おっと、男は及びじゃないんだよ」
と言う声とともに、ビルの中から女が2人、現れる。
1人はスーツ姿、もう1人はショートパンツにタンクトップと言う、動きやすそうな服装。
「綾瀬奏美さん。我々がお姉さんに必ず合わせますのでご同行願います」
背後から影井十郎がそんな風に話しかけてくる。
利波凛子と共に。
「奏美ちゃん、こっち!」
走矢はそう言いながら奏美の手を掴み、誰もいない方向に走り出す。
しかし、その進路を利波凛子に阻まれ、窮地に追いやられる。
「手荒な真似はしたくないんですけどね」
そう言いながら中空から剣を取り出し構える影井。
ビルから出てきた2人も戦闘態勢をとる。
「貴方には用がないんで消えてください!」
影井はそう叫びながら剣を振り下ろした。
だが、次の瞬間、剣は砕け、影井は地に伏していた。
倒れた影井を踏みつけ、こちらを見て微笑む1人の女性。
最初は母が駆けつけてきてくれたと想った走矢だったが、それは見知らぬヴァンパイアの女性だった。




