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家族4

「とりあえずの問題は解決したんだから、特別な加護は無しよ」


 人妖機関にモンタージュを作りに家を出るとき、母に言われた言葉だ。


「新矢くんが亡くなった時もエリスちゃんは特別な加護をずっとかけていたの。それで、彼が死んだ原因の1つが特別な加護だとエリスちゃんは思っているのよ」


 同行した祖母が、迎えの車の中でコッソリと話す。


「特別な加護でパワーアップした新矢くんが無理をしたせいで命を落とした。もし、加護が無ければもっと慎重に行動して生きながらえたんじゃないかって……」


 母が今まで特別な加護を自分に使わなかった理由が、何となくわかった気がした。




 走矢とぶつかり、スパルチスに追われていた少女、綾瀬 奏美(アヤセ カナミ)は佐伯家の最寄(もよ)りの駅にいた。


 スマートフォンでどこかに連絡を取ろうとしているようなのだが、(つな)がらないようで、少女にあせりが見える。


「お姉ちゃん、お願い。出てよ……」


 スマホのバッテリーもあまり残っていない。


 中学2年生の少女にはあまりにも心細い状況だった。


 奏美には(マイ)という高校2年生の姉がいる。


 2人は早くに父を亡くし、母と3人で暮らしていたが、1年ほど前に突然母が失踪し、母の知り合いを名乗る人物のツテで『月宮女学院(つきみやじょがくいん)』に入学した。


 学費などは、その母の知り合いが出してくれたのだが、姉の舞はこの人物を胡散臭いと疑っていた。


 姉妹は学園の寮に入り、生活する上での支障は無かったが、学費と寮費2人分は決して安い金額ではない。


 知り合いというだけでそのお金をポンと、出すその人物に、何か裏があるのではと舞は疑っていた。


 そして3日前に事件は起きた。


 寮に忍び込んてきた謎の人影。


 気がついたときには他の寮生の気配は無く、奏美は1人、その人影に連れ去られようとしていた。


『妹を離せ!』


 そこにいるはずのない舞が竹刀を振りかざし、奏美を連れ去ろうとする謎の人物に怪我を負わせ、彼女を助けたのだ。


『逃げるよ、奏美!』


 舞に手を引かれ取るものも取らずに寮を後にする姉妹。


 何とかこの上沢市まで逃げてきたのだが、昨晩その日の宿にしていたネカフェで追手に襲われ、姉とはぐれてしまったのだ。


「あの〜、綾瀬奏美さんでしょうか?」


 スマホの操作に夢中になっていた奏美にスーツ姿の男性が話しかけてくる。


「私は人妖機関の職員、影井 十郎(カゲイ ジュウロウ)と申します。こっちは同僚の、利波 凛子(トナミ リンコ)です」


 影井に紹介されたTシャツにジーンズの女性。


 無愛想で挨拶もなく、奏美に一瞥(いちべつ)くれるだけだった。


 コンビと言うなら、なかなか対象的な2人だ。


「実は、貴女が人ならざるモノ達に追われていたという通報がありまして、我々が調査に乗り出すことになりました。よろしければ、事情をお聞かせいただけないでしょうか?」


 姉とも連らかが取れず、他に頼れる相手もいない奏美に断る理由は無かった。


 が、影井の右手を見て奏美が青ざめる。


 彼の右手にある、火傷のような傷跡。


 それはあの日、姉が助けに来たときに、襲ってきた相手につけた傷だった。


「貴方、あの夜の?!」


「落ち着いてください。我々は貴女の味方です」


 影井は奏美の手を掴み、強引に連れて行こうとする。


「はっ、離して! 誰か!」


 ここは人の()()う駅前。


 声を出せば誰かしら反応するはずなのだが……。


「何がタイミングだ。ただの力ずくじゃないか……」


 呆れたように女が言う。


 すでに人よけの結界が貼られており、奏美は絶対絶命のピンチだった。


「何やってんだテメェら!」


 その時、何者かが怒号と共に影井を蹴り飛ばし、別の何かが奏美を2人組から引き離した。


「大丈夫?」


 少女の手を取ったのは直、怒号の主は桜だった。


「白昼、堂々とふざけたマネしやがって。ろくでもねぇな。テメェら!」


 啖呵(たんか)を切り戦闘態勢の桜。


「ガキが、邪魔しやがって」


 利波凛子と紹介された女が低く(うな)る。


「何がガキよ、良い大人のする事じゃないでしょ」


 その声とともに薄紫色の羽根が舞う。


「不本意ながら乱暴な方法を取らせていただきますよ」


 影井はそう言うと、何も無い空間から、ひと振りの剣を取り出し、構える。


 影井と利波、2人がかりで桜に襲いかかるが、その攻撃は彼女をすり抜けてしまう。


「なんだ?!」


(まぼろし)?! これは相手の術中(じゅっちゅう)ですね……」


 そして2人は攻撃の直後脇から強烈なキックを見舞われ、吹っ飛び悶絶する。


「全く、悪い大人ね」


 いつの間にか現れた眼鏡の少女、春香が倒れた影井を見下す。


「クソッ、何なんだ?! コイツ等!!」


「おそらくヴァンパイア。忘れてましたね、上沢市はヴァンパイア人口が日本で5本の指に入る街でしたね」


「3本よ。修正しておきなさい」


 春香は冷たく言い放つ。


「人妖機関に引き渡してやる。大人しくお縄につきな!」


 利波を蹴飛ばした桜が()えると、


「うるせぇ!!」


 その利波が激昂しながら桜に飛びかかろうとする。


「お待ちなさい。ここは一旦引きますよ」


「猶予が無いんじゃなかったのかよ」


「さすがに想定外が過ぎます。仕切り直しです」


 そう言って上着のポケットから取り出した、牙の様なものを2つ地面に投げると、ソレが骸骨の兵士に変化する。


「せっかく回収したのに、結局使い捨てるのかよ」


「逆です、回収したから足止めに使えるのです」


 リリスに頭部を破壊されたスパルチス。


 その頭部には包帯のような物が巻かれ、動きもどこかぎこちなかった。


「まぁ、応急処置ですし……」


「何だこりゃ!」


「スパルチスって奴ね。ソコソコ高級な使い魔よ」


 驚く桜に解説する春香。


「高級ねぇ……」


 何か言いたげな利波を引っ張り、戦線を離脱する影井だった。




「何があったのか話してもらえる? 何か力になれるかもしれないし、何ならこの街の人妖機関に送って上げるわよ」


 桜たちの手で、頭部以外もバラバラにされたスパルチスを他所に咲花が奏美に話しかける。


「可哀想に、こんなに怯えて……」


「大丈夫だよ、この街の機関には強い人がいっぱいいるから!」


「随分と弱ってんな。一度機関に連れて行って休ませてやった方が良いんじゃねぇか?」


 春香、直、桜が少女を気づかう。


「あの……。人を探しているんです。この街にいるって聞いてたんてすけど、佐伯……。佐伯 清十郎サエキセイジュウロウさんて方なんですけど……」

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