家族2
「最初に言っておくけど、あたしの事は『お姉さん』って呼びなさい。いいわね! 叔母さんなんて呼んだら絶対に無視するから!」
翌朝の自己紹介で走矢はお姉さん呼びを強要されていた。
「まったく、呼び方なんてなんだって良いじゃない。実際に叔母さん何だから」
「嫌よそんなの絶対! あたしまだ叔母さんなんて呼ばれる歳じゃないんだから!」
「俺は別に構わないけど……。アリス姉さんで良いんですか?」
「良いけど良くない。姉さんと喋るときみたいに、『アリス姉さんで良いの』よ。もう1回」
2人のやり取りを見てため息をつくエリス。
「それで、一体何のようでこの街に来たの?」
「はぁっ? 何言ってんの? 色々と用事が済んだから、またこの街で一緒に暮らそうって話じゃない?! 手紙にそう書いてあったでしょ?」
『手紙?』
走矢とエリスが同時に言う。
ここ最近のドタバタでエリスの母、走矢にとっての祖母からの手紙は開けられる事なく、新聞紙やチラシの束に紛れて放置されていた。
「信じらんない……。母さん見たら泣くわよ?」
新聞紙の中からようやく手紙を発掘した走矢とエリスリトールの姿を見てアリスがボヤく。
「絶対にママには内緒よ! いいわね!」
ため息混じりにハイハイ、と答えるアリス。
「それで、何て書いてあるの?」
「色々と用事が済んだから、また一緒に暮らそう、だって」
「それ、さっきアリス姉さんが言ったヤツまんまじゃん……」
「だってそれしか書いてないんだもん」
そう言いながらエリスは走矢の顔に手紙を押し付ける。
「うあっぷ、いきなり押し付けないでよ……。ホントだ……。って言うかお祖母ちゃん……。母さんのお母さん、用事って一体何やっていたの?」
「知らない。昔から用事が用事がって言って、よく家を開けていたから。アリス、アンタは何の事なのか知っているんでしょ?」
走矢とエリスの視線がアリスに向くが、
「知ってるけどあたしの口からは言えないわね。母さんが来たら直接聞いてよ。すっごく長い話になるから」
その日は平日なのだが、学校は休校だった。
サキュバスの精神支配に始まり、校庭のガシャドクロ、ウィルウィスプや原口姉妹、そしてキメラの栄子と、人外達が暴れまわった影響が生徒、教員、設備に出ており、とりあえず今日は休みになった。
そして今は6月の後半。
一般的に梅雨と呼ばれる時期で、朝からシトシトと雨が降っていた。
「あら、走矢知らない?」
「あの子ならコンビニに行くって少し前に出かけたわよ。何でも漫画雑誌の発売日だとか……」
「昨日の今日で、オマケに雨まで降っているのに! なんで1日ぐらい家の中でおとなしくしてられないのよ!」
自分に無断で出かけたことに腹を立てるエリス。
だがいらついている理由はそれだけでは無い。
自分の血を吸う事でリミッターを解除する裏技。
その反動で退庁が思わしくないエリス。
普段なら常に走矢の気配を感知していて居場所を把握できのに、今はそれがままならない。
傘を持って外に出るエリス。
いつもの様に走矢の気配を感知しようとするが、モヤがかかったように全てが覆い隠されて、走矢どころか目の前にいるアリスの気配すら感知できない。
「これはまずいわね……」
エリスが知る『走矢がよく行くコンビニ』は2店舗。
1つは商品の品揃えも豊富な人気店。
しかしそれ故に、人気雑誌などは発売日に売り切れると言う事がたまに起こる。
もう1つは昔から有る少し寂れた店舗で、品揃えもいまいちだが、発売日に売り切れると言う事はまず無い。
この2店舗はそれぞれ正反対の方向にあり、もし走矢が居なかったら大きな時間のロスになる。
「考えるのよエリス……。あの子がいきそうなお店を。母親なんだからわかるはずよ!」
意を決してお母さんは翼を広げる。
「さすが人気店だな。母さん喜ぶぞ」
人気の多い人気店に来ていた走矢はエリスの大好きなスイーツを買って帰るところだった。
走矢が人気店わ選んだ理由。
1つはエリスが大好きなスイーツを売ってる可能性が高いから。
もう1つは人通りが多いため、仮に良からぬ考えを持つ者がいても、迂闊に自分に手を出せないだろうと考えていたから。
そもそも、昨日の学校の件で他所からも人妖機関の職員が応援に来ているこの街で、そうそう事件は起こらないだろう。
しかし、その考えは甘かった。
ドン!
曲がり角を曲がったところで、1人の少女と衝突する。
「すっ、すいません! ごめんなさい!」
そう言って走矢のワキを通り過ぎようとする少女。
見た目からして、中学生くらいだろうか?
しかし、その少女を追ってくるような足音を走矢は感知した。
バッ、と曲がり角から飛び出してくる黒と赤のレインコートの人物。
走矢を突き飛ばして少女を追おうとするのだが、その突き飛ばそうとして走矢に触れた手は骸骨のそれだった。
咄嗟に、何か良くないものが少女を追いかけていると判断した走矢は、その手を掴み、一本背負いで投げ飛ばす。
赤いレインコートが脱げ、ドクロの顔を顕にする。
「やっぱり人間じゃない……」
そういえば今朝は特別な加護をかけてもらってない。
普通の加護だけでどれだけやれるのか不安はあるが、この骸骨、今の感じだとそんなには強くなさそうだ。
そして、黒いレインコートの方もその骸骨の姿を晒し、走矢と対峙する形になる。
赤いレインコートの方はまだ起き上がる様子はないし、少女はそのまま走っていってしまった。
とりあえず、一対一の戦いに集中しようとする走矢だったが、その骸骨が自分の肋骨を1本折って構えると、その骨が曲刀に変化する。
素手だと思っていた敵が急に武器を出してきた事で焦る走矢。
「ははは……。昨日みんなに助けてもらって、これで大怪我でもしたら何て言われるか…。」
大きく振りかぶって襲いかかってくる骸骨。
しかし、何者かがその骸骨を真横からドロップキックでふっ飛ばす。
そのドロップキックを放った人物とは銀髪にコウモリの翼の女性。
「母さん……?」
「君、大丈夫? この街も随分と物騒になっちゃったわねぇ」
それは母のようで母ではなかった。
翼や銀髪だけでは無い。
顔立ちまで母そっくりなのだが、母ではないと走矢は断言できた。
そしてその女性も走矢の顔をジッと見続けている。
「あの……」
「もしかして、走矢ちゃん?!」
走矢が何かを言いかけたとき、女性は走矢の名前を呼んだ。
「お祖母ちゃん……。ですか?」
走矢の質問に女性は笑顔で大きく頷く。




