黒幕2
校舎の、結界の外側で事態を見守る神崎 裕翔と西倉 綾。
「相沢先輩、1人で大丈夫かしら……」
綾は高校時代からの愛美の後輩で、常に彼女に依存しているようなところがあった。
「相沢先生は機関の支部の中でも実力者ですから、信じるしかありませんよ。それに全員突入なんてしたらいざという時、脱出できないなんて事も考えられますし、退路の確保も重要な仕事です」
愛美の結界内への突入を手助けした裕翔。
若いが術師としての評価は高く、それ故に外での待機を言い渡された。
しかし綾はそんな裕翔の受け答えが気に入らない様だ。
「どうしてお母さんが不安がっているのに、そんなよそよそしい言い方するの? もうちょっと家族として寄り添ってよぉ!」
「ちょっと前に『学校では先生と呼べ』とか言ったくせに……」
「何か言った?」
「いえ、別に」
裕翔は今年で25歳、一方の綾の実年齢は50歳なのだが、見た目は20代前半。
あくまでも見た目では、息子の裕翔の方が年上に見られるという状況だ。
そして以外とメンタルが弱く、テンパりやすい綾。
そんなときは息子に甘えて平常心を取り戻すという特徴を持っていた。
「相沢先生は僕らの事を信じて、1人中に入っていったんです。その時が来たら、しくじる事なく役割をこなさないとね。母さん」
綾の頭を撫でながら裕翔が言うと、
「うん」
と綾が応える。
(本当に、早く子離れしてください……)
「何か言った?」
「いえ何も」
結界内では愛美の羽根弾で蜂の巣になった栄子がゆっくりと立ち上がりその姿を変えようとしていた。
人の形が崩れ、不定形のナニカに変わりはじめる栄子だったモノ。
「相沢先生、遅刻ですよ。それにしても酷いですねぇ、お洋服ボロボロで、これじゃあ人前にでれないわぁ」
「まだ喋れるようなら1つ、聞いてもいいかしら? 貴女、いつからこんな事をしているの?シンが……。佐伯 新矢がこの高校に通っていた頃から、こんな事をしていたんじゃないの?」
「新矢が?! それってどういう事なんですか?!」
栄子に向けたはずの愛美の質問に、エリスが食いつく。
「私が2回目の調査で見つけた結界石。アレは20年以上前に設置された物だった。佐伯新矢がこの学校に通っていたのもその頃。走矢くんだけじゃなくって、その父親にも何かしようとしていた。いいえ、したんじゃないの?」
「新矢くん、懐かしいわねぇ。距離感のバグった面白い子だったわぁ。私が彼に何かしたって思っているみたいだけど、それは無いわ。神に誓っても良いわよ?私の目的はあくまでも新鮮な妖の血肉だからぁ、彼を餌にして誘き出していただけ。寧ろ、結果的にあの子を守った事だってあるんだからぁ、犯人扱いは酷いわぁ」
「多分、嘘は言っていないと思います。彼女が新矢を殺すメリットはありません。寧ろデメリットなぐらいですから……」
「どういう事?」
エリスの言葉に疑問を投げかける愛美。
「彼女はキメラです。それも不完全な。そのために定期的に後付で血肉を補充しないといけないんです。彼女がの体のほとんどが、他の妖の血肉でできている。俊紅を取り込むと個々の血肉が活性化や再生が始まり、最悪暴走して爆ぜる事になるでしょう」
「そうか、だから走矢の血を浴びて苦しんだり、血のついた部分をえぐり取ったりしたんだ……」
間近で栄子の様子を見ていた咲花が、エリスの説明に納得する。
「貴女、随分と詳しいのね。キメラのお友達でもいるの?」
やはりエリスの『不完全』というワードで顔を曇らせた栄子が尋ねる。
「キメラと言うよりそれを作る奴ね。昔、人妖機関の職員として関わったのは」
エリスはどこか面白くなさそうに応える。
「さて、お喋りはここまで。相沢先生も来ちゃった事だし、そろそろ走矢くん以外には退場してもらうわよ? この世からね」
そう言うと栄子の体は崩れ去り、周囲の空間に溶け込んでいく。
「なに?! これ……」
驚愕する愛美。
栄子が溶け込んだ空間があっという間にウィルウィスプが作った亜空間を満たし、別の亜空間を作り出す。
「おそらくこの空間がキメラの本体。脳も心臓もこの空間が兼ねているんでしょう」
エリスは険しい表情で分析する。
『いくわよ』
亜空間に栄子の声が響き渡る。
空間の一部が実体化し、舌の様な形状をとるとエリス目がけて伸びる。
「気色悪い!」
そう言いながら自分の左手に噛みつき、血を吸い始める。
今日、2回目のリミッター解除だ。
上昇して舌を回避すると、その舌の根元目がけて急降下からのキックを繰り出す。
『ぐあっ?!』
「どうやら実体化ししたところを狙うしかないみたいですね」
栄子の悲鳴を聞いてエリスが対応策を述べる。
「容易な事じゃないけど、やるしかないわね……」
愛美は触手状に伸びる空間を回避しながら、羽根弾をうちこむ。
「直……。これがもし結界の類何だったら、お前の力で何とかならないか……?」
力無く、走矢が直に問いかける。
「確かに直が1番相性良いかもだけど、負傷しているうえに相手がレベチすぎない?」
自分も負傷している春香が否定的意見を述べるが、
「やってみる。確かにそれぐらいしか打開策ないし」
そう言って立ち上がると、翼を後ろに伸ばし、両手を腰のあたりに置いて突きの構えをとる。
「美島流結壊術奥義!」
そう叫びながら諸手突きと両翼の突きを空間の一点に目がけて放つ。
『ぐはぁぁぁっ?!』
今まで聞いたことがないような絶叫が空間内に響き渡る。
見れば直の翼と突きを打ち込んだ空間に穴が開き、さらにその手と翼で穴を広げようとしている直。
『おのれ、よくも、よくもぉぉぉ!』
これまで聞いたことのないような声が響き渡ると、直達の周囲の空間が、最初にエリスを襲った舌のようになり、直に襲いかかる。
「直を守るぞ!」
激を飛ばす桜。
春香と咲花もそれに応えるが、舌になぎ倒され、次々と拘束されていく。
直は最後まで亀裂を広げようと奮闘するも、舌になぎ倒され拘束される。
『やってくれたわね。雑魚だと思って油断したわ。貴女達から始末してあげる!』
空間に飲み込まれ始める桜達。
「咲多さん?! みんな!!」
動揺する愛美の不意をつき、触手が絡みつく。
「しまった?!」
「先生! くっ、スピードが……」
リミッター解除の効果が弱まり始めたタイミングで、エリスも捕まる。
『これでやっと……?! 走矢くん、一体何をする気!』
走矢はウィルウィスプが栄子に食われたとき、彼女が落としたナイフを密かに拾っていた。
そのナイフで自分の両手首を切り、流れ出る血を桜達を拘束する舌にかけて彼女たちを救出する。
「バカお前、そんな状態で何やってんだ!!」
走矢の右手首を握って必死に流れ出る血を止めようとする桜。
「桜……。みんなも、いつもいつも助けてくれてありがとう……。少しだけど、何とかみんなだけでも生き延びて……」
走矢は桜達を救出するとき、少量だが自分の血を口に含ませていた。
今まで自分を助けてくれた事への最期のお礼として。
「桜、そっちの手首かして。止血するから」
いつの間にか春香は自分のスカートを裂いた物で走矢の左手首を止血していた。
「春香は本当に最期まで……」
「俊紅の分はこれで帳消しよ。お礼は後日改めてしてもらうんだから……。あと、最後とか言うな!」
直はすぐさま開いた穴を広げる作業に戻る。
「俊紅もらってパワーアップしたんだから、今度こそ!」
「私も!」
すでに治癒の力を使っていた咲花はさらに力を込める。
そして拘束され、ただただその光景を眺めることしかできないエリスと愛美だった。
『あ〜、コレはもうだめねぇ……。そうだ、いい事思いついたんだけどぉ、貴女達今から走矢くんとエッチしない? そうすれば見逃してあげるわよ? 走矢くんの代わりの俊紅を産んでくれれば、私もハッピー、貴女達は助かってハッピーでWin-Winじゃない?』
その無神経な言葉に全員の顔色が変わる。
「代わり……ですって? 走矢の……代わり?」
一瞬の静寂の後、エリスは全身全霊をかけて拘束を引きちぎる。
「今の言葉取り消しなさい。取り消したところで許しはしないけど、とにかく取り消しなさい!」
静かに強く言葉を放った愛美は自分の力プラス、至近距離の羽根弾で拘束する触手を引きちぎり脱出する。
「浪川先生がそんな、なんて一瞬でも考えた俺が馬鹿だった。まさかこんなクソ野郎だったとはなぁ!」
桜は走矢の血のついたナイフを拾い上げる。
春香と咲花も怒りを顕にする中、直が、
「あれ? あれれれれぇぇぇ?!」
と場違いのスットンキュウな声を出す。
何事かと直の方に視線をやる一同。
直が開けた穴を中心に空間が崩れ去り、人が出入りできるぐらいに穴が広がったのだ。
「ありがとう、直ちゃん。貴女が中から穴を開けてくれたおかげで、簡単に入れたわ」
それは威風堂々といった仕草で亜空間に降り立つぬらりひょん、こと早川 由利歌と……。
「あ〜、入れた入れた」
「アイツの中って考えると気は進まないわね」
「走矢くん! 酷い……。早く手当を!!」
減刑と引き換えに協力する、羽月、紗由理、火織の3名だった。




