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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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黒幕

 リミッターというのは意味もなく設定されているわけではない。


 限界とはそれを超えて活動すればタダでは済まないというボーダーライン。


 限界以上の力を出し続ければそれ相応の反動がくるため、迂闊には使えない。


 エリスはウィルウィスプの強さと自分の消耗具合を考慮して、その裏技を使う決心をした。




「何だ、この速さと力は?!」


 もし、俊紅を飲んでいなかったら今の一撃で勝負は着いていた。


 ショックを受けたウィルウィスプは、立ち上がるよりも前にエリスから1番遠くにある灯籠と入れ替わる。


 エリスの動きを見てからでは間に合わないと判断したからだ。


「確かにとんでもない力だが、俊紅の様な外的要因によるパワーアップでないなら長くは続かないはずだ。何らかの制約がある力。ならば時間を稼げばいい……」


 しかし、ウィルウィスプがエリスのパワーアップを分析している間に、全ての灯籠が破壊されてしまった。


「そんな……」


 絶望するウィルウィスプの顔面にエリスの鉄拳がめり込む。


 地面を転がるように吹っ飛ぶウィルウィスプ。


 彼女がふっ飛ばされた先は浪川栄子の足下だった。


「まずい、浪川先生!」


「ダメッ、桜! その人に近づいちゃ!!」


 栄子に駆け寄ろうとする桜を咲花が止める。


 それは奇妙な光景だった。


 何かにガクガクと震える栄子から走矢を連れてジリジリと後退する咲花。


 そしてそこに転がるウィルウィスプ。


「その人、ナニカおかしい。なんか、すっごく嫌な気配を出しているの。人とも妖とも言えない、凄く嫌な気配を……」


 その時、突然人が変わったような形相で、栄子がウィルウィスプの胸を踏みつける。


「よくも……。よくも俊紅を私に浴びせたなぁ!」


「黙れ! お前が突然結界を解くから急ごしらえの作戦を立てる羽目になっんだろうが!」


「浪川、せんせ……」


 春香が力無く栄子に問いかける。


 ちょっとおっちょこちょいだが、優しくて気さくなクラスの副担任。


 その栄子がまさか……。


「よくもこんな物を!」


 そう叫びながら栄子は走矢の血のついた(ほほ)を肉ごとえぐり取ると、さらに目にも付着したのかそれも取り出し床に投げつける。


貴女(あなた)は食指が動かなかったけど、気が変わったわ。えぐり捨てた血肉を補充しないとね」


「やはり狙いは我々……。俊紅を求めて集まった妖か!」


 栄子はニタリと笑いながらウィルウィスプの首を掴んで持ち上げる。


「はっ離せ!」


「嫌よ」


 そう言うと、栄子の身体(からだ)が縦に2つに裂け、左右の身体(からだ)でウィルウィスプを咀嚼(そしゃく)する。


「ふう〜、ごちそうさま」


 そう言って残る一同を見回す。


「そんなに怖がらないでぇ。取って食べようってわけじゃないんだから。ただ、走矢くんだけは置いていって欲しいかな」


 優しく微笑む栄子。


「できない相談ね」


 栄子の方に早足で距離を詰めながらエリスが提案を()()ける。


 走矢を連れた咲花が十分な距離をとったのを横目で確認し、歩みを止めるエリスが口を開く。


貴女(あなた)、キメラね」


「よく分かったわねぇ」


 自信満々の指摘に感心しながら応える栄子。


「それも不完全な……ね。だから定期的に血肉を入れ替える必要がある。その血肉を集めるのに走矢を利用したのね」


 エリスの『不完全』というに笑みが消える栄子。


「そうね……。不完全、認めるしかないわね……」


 不完全を受け入れた栄子の瞳には怒りと狂気が宿っていた。


 バサリと音を立てて栄子の背中から翼が生える。


 右側はエリスの様なコウモリの、左側は鳥の様な左右で種類の異なる翼。


 右手の爪が刃物のように伸び、左手は腕ごと獣のそれに変化する。


「じゃあ、力ずくでいただく事にするわ」


 エリスに向かって行くと見せかけ、咲花の方に向かう栄子。


 走矢の元に駆け寄っていた桜が間に割って入って、咲花と走矢を守ろうとする。


「無駄よ」


 振り下ろされる獣の腕が栄子の肘からはずれて桜目がけて飛んでいく。


「なっ?! ロボットか何かかよ!」


 そう叫びながら裏拳でソレを(はじ)くが、栄子の右手の爪がさらに伸びて桜の手足を貫く。


「ぐっ?!」


 鈍いうめき声をあげる桜に、(はじ)いた獣の腕が再び飛んでくる。


「アタシを無視とはいい度胸ね!」


 追いついたエリスが獣の腕を掴み、栄子に回し蹴りを見舞(みま)う。


 この回し蹴りは栄子にダメージを与えるためのモノでは無く、ノックバックで距離を稼ぐためのモノだ。


 ガードしたものの後退させられた栄子が、苦笑いを浮かべる。


「咲花、俺はもう大丈夫だ。桜の手当を……」


「バカ! こんなのカスリ傷だ。俺の事なんかより自分の事考えろ!」


 痛みをこらえてファイティングボーズをとる桜。


「なんで……。なんでウィルウィスプは食べられちゃったのに、人魂何とかって結界が解けないの?!」


「多分だけど、ウィルウィスプを取り込んだ浪川先生……。いえ、あのキメラが結界を持続させているんだと思う」


 直の疑問に春香が仮設を述べる。


「とにかく、コイツから距離をとって!」


 栄子に連続攻撃を繰り出すエリスが桜達に指示をだす。


「アラアラお母さん、ドーピングが切れてきたんじゃないの?」


 栄子の指摘の通り、エリスのリミッター解除の効果が切れ始めていた。


「うるさい!」


 そう言って繰り出した回し蹴りを栄子に止められ、足を掴まれて彼女の後方に放り投げられてしまうエリス。


 エリスを排除した栄子は他に見向きもせず、走矢の元に向かっていく。


 桜が迎え撃つ構えを見せ、エリスは翼を広げて空中で体勢を立て直し、栄子を追う。


「もらったぁ!」


 獣の腕の()わりに腕全体が金属質質の、文字通り鉄の爪で桜を切り裂く。


「なに?! これは……」


 桜を切り裂いたはずなのに手応(てごた)えが全く無く、鉄の爪は薄紫色の羽根を貫いていた。


 春香の結界。


 春香は栄子がエリスと肉弾戦を繰り広げている間に、走矢の位置を誤認させる様に仕組くみ、直と協力して走矢達を移動させていたのだ。


「ふう、面倒くさいわねぇ……」


「だったらこれで終わりにしなさい!」


 背後から栄子に襲いかかるエリスだったが突然、栄子のお尻から生えた大蛇が彼女に巻き付き拘束する。


「キメラってこういうモノよ?」


 そう言うと、今度は周囲に青白い炎を出現させ、舞散る春香の羽根を焼き尽くす。


「次は貴女達(あなたたち)


 そう言って青白い炎を春香達に向けて連射する。


「あの炎はまずいわ!」


 動けない走矢とダメージを受けた桜を(かつ)いで回避行動をとる一同。


 しかし、炎に気を取られていた春香の腹部にいつの間にか発射されていた刃物の様に伸びた爪が刺さる。


「くっ、炎は(おとり)でこっちが本命……」


「ハルちゃん?!」


「次は誰かしらぁ?」


 再び右手の爪を伸ばして発射体制をとる栄子。


 無傷なのは直と咲花の2人で負傷者は3人。


 加えて栄子の爪は炎よりも弾速が速く、とても負傷者を抱えた状態で避けきれる物では無い。


「エミちゃん、あとお願い!」


 そう言って前に飛び出した直が広げたコウモリの翼で飛んでくる爪を叩き落とす。


 しかし、


「うそ……。連射できるなんてズルいよ……」


 叩き落とした直後に次の爪が迫っており、直は()すべなく貫かれる。


「くっそ……。よくも俺のダチどもを!」


「桜、その体じゃ無理だよ。私が……」


「バカ、お前がやられたら本当に詰みだろうが。大丈夫、心配すんな。休んで十分、回復したからよぉ」


 どう考えても大丈夫では無い桜。


 しかし、彼女の言うとおり回復能力を持つ自分がヤラれれば春香達を助けられない。


 苦渋の決断で治癒に専念する咲花だった。


「今度は貴女(あなた)? 懲りないわねぇ」


 そう言って爪の発射大勢に入る栄子のすぐ横の空間が割れて猛禽類の翼を広げた愛美が現れる。


「いい加減にしなさい! 浪川先生!!」


 愛美は片方の翼を手刀の様に振り下ろし、エリスを拘束していた大蛇を切り落とす。


 同時にもう一方の翼で栄子を殴りつけふっ飛ばすと、羽根弾で追い打ちをかける。


 それに対して炎と爪弾で対抗する栄子だったが、弾数(たまかず)で圧倒され蜂の巣にされる。

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