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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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暗躍するモノたち10

 藤崎 星垂(フジサキ ホタル)として走矢に近づいたウィルウィスプだったが、突然の結界消失により計画を大幅に変える必要があった。


 時間をかけ走矢と信頼関係を築く。


 妖に狙われる御子という設定もそれに一役買うはずだった。


 しかし、結界が無くなった今、自分が妖だとバレるリスクが一気に高まってしまった。


 そしてなぜこのタイミングで結界を解除したのか?


 首謀者は決してボランティアで自分達に協力しているわけではないだろう。


 逃げ出す事も考えたが、首謀者の狙い次第ではそれも容易では無い。


 考えた挙句に出した結論は、無理にでも少量の俊紅を手に入れ、自身を強化したうえで走矢を奪うか逃亡するかを決定するというものだった。




「ぐっ?!」


 うめき声をあげながら後方に飛びされるエリス。


 ウィルウィスプは炎を使わない肉弾戦でエリスを退(しりぞ)ける。


「んなぁろぉぉぉっ!」


 一瞬のスキをついて桜が中段蹴りを見舞(みま)うが、残像を残して回避され、カウンターのキックを食らってしまう。


ぐはっ、と悲鳴をあげて地に伏す桜。


「桜っ?!」


 直が桜の元に駆け寄り、起き上がるのを手伝う。


「これが俊紅の力……」


 エリスに肩を貸しながら春香が呟く。


 俊紅によるパワーアップも確かにあるのだが、ウィルウィスプは元々この学校に潜り込んだ妖の中でもガシャドクロに並ぶ上位の実力者。


 加えてエリスは今日すでに、サキュバス、ガシャドクロとの戦闘で消耗しており、そんな状況で戦うには荷の重い相手だった。


 一方、走矢を治療しながら横目で成り行きを見守っていた咲花にはある考えが浮かんでいた。


 敵が俊紅でパワーアップしたのならこっちも……。


 というものだった。


 友達である走矢をそんなふうな目で見ること自体嫌だったが、この状況を打破する手段として考えついた。


 しかしこの方法には問題もあった。


 走矢の出血である。


 ウィルウィスプのナイフに結構な量の血を取られ、出血までしている。


 咲花の癒やしの力は傷を治す事はできるが失った血液の量を回復させる様なモノではない。


 この状態の走矢から血を吸う行為は、彼の命に関わるかも知れない。


 そう思うと咲花はこの考えを口に出せずにいた。


「んっ?! あの、浪川先生……。大丈夫ですか……?」


 間近で走矢の血を浴びた1年1組の副担任、浪川 栄子(ナミカワ エイコ)は目を見開いてガタガタと激しく震えていた。


 普通の人間の教員で、突然生徒が別の生徒を刺すとという、非常にショッキングな場面に出くわしてしまったのだ。


 ショックを受けるのは仕方のない事だが、彼女な様子に咲花は違和感のような物を感じていた。




葬炎・人魂廻廊そうえん・ひとだまかいろう


 ウィルウィスプがそう呟くと、周囲の景色が変わり、青白い炎が灯る灯籠に囲まれた薄暗い空間になる。


「ここは人魂廻廊。黄泉に通じる廻廊だ」


「亜空間型の結界?!」


「人間の術師以外も使うじゃねぇか……」


 驚く春香に桜が突っ込む。


「あくまでそういう傾向って事で、絶対にそうだと言ったわけじゃ無いのよ!」


「なんだってかまわない。要はコイツを倒せばいいんだから!」


「さっき、それをやろうとして地に伏したんでしょ?」


「うるさい!!」


 挑発的なウィルウィスプに対し、回し蹴りを繰り出すエリスだったが、命中したのは灯籠だった。


「えっ?!」


 呆気(あっけ)にとられるエリス。


 その背後の灯籠のあった場所にいつの間にかウィルウィスプが立っており、炎の髪を振り乱し、青白い炎の火炎弾をエリス目がけて乱射する。


「エリスさん! 後ろから来てる! 避けて!!」


 春香の言葉に反応し、青白い炎を目視するエリス。


 それが危険な物だと瞬時に判断して全力で回避する。


「いい判断ね。その炎は一度生者(せいじゃ)に燃え移ると対象が灰になるまで消えることは無いの」


「それがなんだって言うのよ!」


 めげずに再びウィルウィスプに殴りかかるエリス。


「無駄よ」


 その声を残して灯籠と入れ替わったが、その入れ替わった先にエリスの右後ろ蹴りが飛んでくる。


「なに?!」


 驚きながらもそれをガードするウィルウィスプ。


 しかしその状態から翼の力も借りて左回し蹴りを繰り出し、顔面に命中させる。


「くっ?! なんで?! どうして?!」


「さぁ、なんでかしらね」


 そう言って春香に目配(めくば)せするエリス。


「そうか、仲間と何らかの方法で情報を共有しているのか……」


「へっ? えっ?! さっさぁ、どうなのかしらねぇ……」


 何となく話を合わせる春香。


 だが、エリスの目配せは単なるブラフで、『こういう能力が有るのなら()ず、背後を取るだろう』という読みが当たっただけだった。


「言っとくけどアタシはアンタを絶対に許さないわよ。走矢を物理的に傷つけた事もだけど、あの子に似た境遇の少女を演じて騙して裏切った。手を差し伸べたあの子を刺した事、地獄で後悔させてあげるわ!」


「確かに私は藤崎星垂ではないけれど、その少女は確かにかつて存在していたのよ? 彼女を愛した男性も、そして彼女達を引き裂いた人妖機関の職員も」


 そう言ってウィルウィスプの手の平から1つの人魂が現れ、それが老人の姿に変化していく。


「藤崎星垂のお祖父(おじい)さん……」


 藤崎家を監視護衛していた人妖機関の職員の報告には、星垂の祖父と思われる人物の写真があった。


 エリスもその顔を憶えていたのだが、その老人が今、目の前に現れた。


「彼はかつて、御子というだけだ人妖機関に収容された藤崎星垂の恋人。人妖機関は星垂を守るため、彼女を外に出さべきではないと判断し、家族以外とも合わせなかったの。彼は何度も合わせてくれと嘆願(たんがん)したけど、その願いは最後まで(かな)わなかった」


「それが何? 何が言いたいの?!」


「黙って聞きなさい。これはこの老人が言っているのよ?私の口を借りてね」


 ウィルウィスプがそう言うと、老人がエリスを睨みつける。


 ウィルウィスプに操られているだけかもしれない老人だが、その視線にエリスは口をつぐむ。


「機関の人間はねぇ、星垂のためと言って彼女と親しかった人間を全て遠ざけようとしていたの。彼の事も諦めさせようとして新しい恋人ができた、なんて嘘まで吹き込んでね。星垂はそれが原因で(みずか)ら命を絶った。結局人妖機関の連中は星垂の幸せなんかじゃなくって自分達の任務をはたす事しか考えていなかったのよ。まぁ、ここまで人妖機関の職員に話すってのが彼が私に協力する条件だったの」


 でね、とさらに話を続ける。


「もし、貴女が佐伯走矢のお母さんじゃなかったとしたら、彼に同じ事をしなかったって言える? 現に一度、施設に収容してるじゃない?」


「言えるわ、しなかったって」


 ウィルウィスプは人妖機関のかつての闇を晒すことでそこに所属するエリスを動揺させようとしていたのだが、彼女には通用しなかった。


 それどころか……。


「走矢の母親じゃなかったらですって?! 望むところよ! 走矢に全力で愛情を注ぎ込んで絶対に幸せにしてみせるし、あの子が不幸になる様な存在は敵だろうと人妖機関だろうと地の底に沈めてやるわ!」


 母親じゃなかったらの一言で何かのスイッチが入ってしまい、暴走状態のエリス。


「ちょ、ちょっとエリスさん……」


「落ち着いてください!」


 桜と春香の言葉も聞かず1人、ヒートアップし続けるエリス。


「星垂さんやその恋人の貴方(あなた)には機関を代表してアタシが謝罪します。そのうえで、必ずアタシが出世して二度と同じ(あやま)ちを(おか)さないと誓います!」


 そう宣言すると、エリスは自分の右手に噛みつく。


「えっ、エリちゃんどうしちゃったの?!」


 かつてエリスが母親から教わった裏技。


 ヴァンパイアが自分の血を吸うと、脳がバグり、リミッターが解除されるというモノだ。


「いくわよ!」


 言葉と同時にエリスの姿が消え、次の瞬間、ウィルウィスプがふっ飛ばされる。


 灯籠と入れ替わるまもなく。

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