暗躍するモノたち9
「しっかし、静かだなぁ……」
1階の廊下で桜が呟く。
原口姉妹を撃破した一同は、とりあえず彼女等を拘束する何かを求めて職員室の戸を開ける。
「誰もいない……」
「先生方どこ行っちゃったんだろ……」
戸を開けた直が呟くと咲花が疑問を投げかける。
「2階であった様な騒ぎが、1階でもあったのかしら……」
「でも先生方の中には、妖や術師の人もいるんだぜ? 誰もいないってのはどうなんだ……」
「……結界を解いたっていうのはどういう事なんだろ? もう、必要がないから……。隠す必要がないからとか……」
走矢の仮説に一同は青ざめる。
要するにバレると邪魔されるので結界で隠していたが、バレても問題ないので結界を解いた。
つまり先生方はもうすでに……。
「ん……。あれ、もしかして?!」
春香が何かを見つけて、そちらに駆けだす。
「浪川先生?!」
それは机の後ろに倒れている、走矢達のクラスの副担任、浪川 栄子だった。
「咲花、ちょっと見てみて」
「うん、わかった。怪我とかはしてない……。気を失っているだけね」
「浪川先生、起きてください。浪川先生」
春香が栄子を揺すり、声をかけ続けると、
「んっ……。ん? アレ、ここは?! あれ!」
栄子が目を覚ました。
「あなた達……。私は一体何を……」
「2階で騒ぎがあって私達、1階に逃げてきたんですけど、一体職員室で何があったんですか? 他の先生方は?」
「西倉先生と神崎先生、それに何人かの先生方が用事があるとかで昼休みに入ると同時に職員室を出ていって……。それからしばらくしたら急に意識が朦朧としてきたんだわ」
「出ていった先生方っていうのは?」
「人妖機関の準職員の人達だと思うわ」
学校の敷地のかつて結界石を見つけた一角。
そこでヴァンパイアの西倉 綾と術師の神崎 裕翔の2人が愛美の報告のもと、再調査をしていた。
「あった! 母さん、ありましたよ!」
「こら裕翔。学校ではお母さんじゃなくって西倉先生でしょ!」
ヴァンパイアの綾と人間の裕翔は実の親子で、エリスと走矢の様な関係だ。
西倉は綾の旧姓で、裕翔が同じ高校に赴任すると決まった時からコチラを名乗っている。
これはいざという時、裕翔が自分をあてにしたりしない様にと別の姓を名乗っているだけで、夫との関係は非常に良好だと言っている。
神崎家は長く続く術師の家で、裕翔の父も人妖機関に所属する術師だ。
教師である母と術師である父。
この2つの道を選択したのが術師で教師という、神崎裕翔という人物だった。
「うわあっ?!」
何かを感じ取った裕翔が急に大声を出す。
それまで街全体を覆っていた結界が解け、隠されていた妖力が顕になったのだ。
そしてガシャドクロの出現。
「急いで校舎に戻らないと!」
そう叫んだ裕翔が急に沈黙する。
彼らの周りをいつの間にか人の形をした黒い何かが取り囲んていたのだ。
一方、校庭で行われていたエリスとガシャドクロとの戦い。
巨大な骸骨は全て倒され、本体の女武者もかなりのダメージを受けていた。
「まさかここまでやるとは……」
「さっきアンタ、命を懸けるとか言ってたわよね? それってつまり、命を懸けて終わりっていう事。その先が無いなら、やっぱりアンタのはお遊戯って言うことよ!」
エリスの言葉に歯噛みする女武者。
反論したいところだったが、手も足も出ない現状、何も言い返せなかった。
無言で立ち上がり、刀を構える女武者。
骸骨を模した鎧が崩れ落ち着物姿となり、代わりに刀身に骸骨の模様が浮かび上がる。
「お遊戯かどうかはこの最後の一撃をもって判断してもらおう……。いくぞ!」
上段の構えから懇親の一撃を繰り出す女武者。
エリスはソレを、妖力を纏った右手で受け止める。
「なっ?!」
女武者が驚く暇もなくエリスは刀を握りつぶし、その握った拳を顔面に見舞い力の差を知らしめる。
「準職員の先生方が何かの用事で席を外していたのはわかったわ。じゃあ、それ以外の先生方はどこへ消えちゃったのかしら?」
職員室で今後の行動について話し合う走矢達一同。
「とにかく、一旦敷地の外に避難して、人妖機関な助けを求めるのが1番無難かしら?」
「他の人達は?」
「対象となる人数だけでも相当な物よ? 残念だけど今は私達の脱出を優先するべきだと思うの」
春香の言葉に一応納得する直、そして他の面々。
「じゃあこれ以上、事態が悪化する前に行動開始よ」
そう言って職員室のドアを開けようとする春香だったが、その前に勝手にドアが開く。
「なに?!」
驚き飛び退く春香。
他の者達も身構え、ドアを開けた者の動向を見守る。
「あの、すいません……」
そこに現れたのは以前、ガシャドクロに襲われていた藤崎 星垂だった。
「3階の人達がおかしくなってしまって、大人の人を呼びに何とかここまで来たんですけど……」
非常に怯えながら事情を話す星垂。
「あたし達のクラスが陥落する直前、上の教室からも入ってこようとする人達がいたもんね。3階も大混乱だったんだ」
直の言葉に静かに頷く星垂。
「とにかくここに居る面子だけでも脱出しようぜ。状況が悪化しないとも限らねぇしな」
そう言って戦闘に立つ桜、続く春香と咲花。
「藤崎先輩、行きましょ」
そう言って震える星垂に手を差し出す走矢。
「ありがとう佐伯くん……。本当に」
ガシャドクロを倒したエリスは走矢の気配が職員室にある事に気づき、彼の元に行こうとしていた。
職員室の窓越しに我が子の姿を確認し安堵するエリス。
しかし次の瞬間、
「本当にありがとう、佐伯走矢」
星垂は隠し持っていたナイフで走矢の腹部刺し貫いた。
「ひいぃっ?!」
飛び散る走矢のちが顔にかかった栄子が悲鳴をあげる。
「てめぇっ?!」
絶叫しながら飛び蹴りを繰り出す桜。
星垂はソレを軽々避けるが、今の蹴りは走矢と星垂の間に割って入るためのモノだ。
そこから連続攻撃を繰り出し、星垂を走矢から遠ざける。
「咲花!」
「わかってる!」
走矢の元に駆け寄り、手をかざす咲花。
治癒の力で傷を癒そうとする。
そして桜から距離を置いた星垂の持つナイフ。
溝のような物がいくつも掘られた変わった見た目で、星垂が自分の口の上でその柄頭を外すと、刀身が吸ったと思われる走矢の血が口内に流れ落ちる。
「大丈夫よ、急所は外しておいたから。後で全部貰うためにね」
そう言うと、星垂の髪の毛が逆立ち、青白い炎に変わる。
人魂の妖ウィルウィスプの正体を表す藤崎星垂。
その時、鬼の様な形相のエリスが窓を割ってウィルウィスプに掴みかかる。




