暗躍するモノたち7
「私はこの2人を操っていて、自由に動けないの。貴女が彼を捕まえて!」
「気をつけて、アイツの羽の目の模様を見ると、体の自由が奪われるわ!」
レイカと同時に春香が注意を促す。
「あの2人はソレで操られているってわけか」
そう言って目を瞑る桜。
チャンスとばかりにレイコが桜に襲いかかる。
が、その攻撃を難なく受け止める、カウンターの蹴りまで食らわせる。
「レイコ?!」
「くそっ?! コイツ、まるで見えてるみたいな反応だ?!」
中学時代、荒れていた春香とよく殴り合っていた桜。
春香の羽根には舞散る空間内の視覚情報を誤認させる効果があり、桜はそれに対抗するために気配や音で正確に相手の動きを捉えられる。
「くそっ! あたいがこんな奴に押されるなんて!!」
「こんなやつじゃねぇ! 咲多 桜だ! その足りなそうな頭に叩き込んどけ!!」
「ああっ! 誰が足りないだぁ?! どう見たってオツムも色気もこっちの方が上だろうが!」
「色気って何だ? そのガラの悪さで冗談だろ」
「テメェにガラの良し悪しを言われるおぼえは無ぇ!」
「ねぇ貴女達、どっちが喋っているかわかり辛いからちゃんと1人称付けて喋ってくれない?」
『んだとぉ!!』
春香の茶々に反応がハモる桜とレイコ。
「まったくしょうのない妹ね」
レイカがそう言うと操られている直と咲花が足踏みをしながら手を叩きはじめる。
「どお、これで音には頼れないでしょ?」
「だったら奥の手だ!」
挑発的なレイカに桜は強気で返すと、自身の翼を広げる。
「あら、可愛い羽ね」
「うるせぇ!」
レイカを黙らせると、翼から妖力を発生させ、自身の身体を浮き上がらせ、ホバリングしている状態になる。
「いくぜ!」
そう言うと、今までとは段違いの機動力でレイコに猛攻を仕掛ける桜。
「クソッ、コイツまだコレだけの力を隠していたのか?!」
「まずい、レイコが押されている……。仕方ないわ、レイコ、貴女も奥の手解禁よ!!」
「やっとかよ。よぉし、ここからが本番だ!」
そう言うと、姉と同じ蝶々の羽を広げるレイコ。
だがその羽には姉の様な目の模様は無かった。
「食らえ!」
そう言ってレイコが自分の羽を羽ばたかせると、羽から鱗粉が飛び散り、それが1つに集まって円板状になり、桜に向けて放たれる。
桜はソレを、紙一重でかわすとレイコに向かっていく。
「まだだ!」
レイコが叫ぶと、桜の後方に飛んでいった円板が数本のナイフに分裂し、桜に襲いかかる。
しかし桜はそのナイフを全て翼で撃ち落としてしまう。
「何だコイツ?! 後ろに目でも付いているのか?」
驚愕するレイコの腹部に桜の拳がめり込む。
以前、直が見せた結界感知。
妖力を込めて手を叩くことで妖力を音に乗せて拡散し、その反響を翼で感じ取る事で結界の有無や情報を得ていたのだ。
直とは小学生の頃からの付き合いがある桜は一時期、この結界感知を教わっていたことがある。
結局、結局感知は習得できなかったが、自身の翼で妖力を感じ取れるくらいにはなっていた。
「ぐっ?!」
突然、レイカが鈍い悲鳴をあげる。
「桜の方ばかり気にして、私の事忘れてたでしょ?」
レイカの背後から春香が腕で首を絞め、落としにかかる。
「あっ、姉貴?!」
桜の渾身の回し蹴りが炸裂した。
校庭の上空ではサキュバスと交戦していたエリスが窮地に立たされていた。
「どお? 意識を支配された気分は?」
サキュバスに頭を掴まれたエリスは精神を支配されかけていた。
サキュバスの精神支配は対象の脳とサキュバスの距離が短いほど効力が増す。
今の相手の頭を掴んでいる状態が最大の効果を発揮できる。
「俊紅を得る事ができれば、この力はもっと強力になる。あたしをバカにした奴らを全員、支配してやるんだ!」
「走矢を……。アンタなんかの好きにはさせない」
力を振り絞るエリス。
「無駄よ。この状態から逆転できた奴なんて1人もいないんだから」
そしてサキュバスは続ける。
「あたしねぇ、考えてたのよ。もっと俊紅を上手く使えないかって。それでいい事思いついちゃったのよぉ。サキュバスも人間との間に混血が産まれない妖。ソレを利用して、俊紅の走矢くんの子供をいっぱい産んじゃえばいいかな〜って。それでぇ、その子達の俊紅をもらったりぃ、あたしに忠誠を誓う妖にご褒美としてあげたりしてあたしの王国を作っちゃうの!!」
その言葉を聞いて、エリスの表情が曇る。
「俊紅の子供をいっぱい作るですって?! 貴女それって自分が子供を産むっていっているのよ? その子の血を飲んで手下になった妖に与えるって言ってるのよ?」
「何か問題ある? 血なんか繋がってないんだから、どうなったってあたしの知ったこっちゃないわ……。ヒイッ?!」
意識をほぼ完全に支配されかけていたエリスが、自分の頭を掴んでいたサキュバスの右腕を恐ろしい力で握る。
(ごめんね、普通の子に産んであげられなくって……)
それはかつて死を覚悟したエリスが走矢に遺そうとした言葉。
「アンタに分かる? あの子を普通の子に産むことができなかったこの身を、この体をどれだけアタシが呪ったか! アタシが人間だったら、混血が産まれる妖だったなら、あの子は俊紅になんか産まれずに済んだの! アンタみたいな奴に狙われる事も無かったの! アタシのせい……。アタシのせいであの子は一生、こんな苦しみを背負っていくのよ?!」
サキュバスの腕をつかむ力が強くなり、サキュバスはエリスの頭から手を離す。
「だからね……、誓ったの。産まれたばかりの赤子のあの子に……。アタシが一生をかけて護るって! アンタみたいな奴らから護りぬくって!!」
いつの間にかサキュバスは悲鳴をあげていた。
腕の痛みと圧倒的なエリスの気迫に圧されて。
「とりあえず撒いたようだぜ、姉貴」
レイコの鱗粉で壁を切り裂き、何とか脱出し、桜達から逃げきったレイカとレイコの姉妹。
「私の羽の事もバレてしまったし、もう奇襲や奇策は使えないわね……」
「望むところだ。正攻法であたいがやってやるよ!」
「目の見えない相手に劣勢だったくせによく言うわ」
これは決して悪口では無く、どんな時でも折れない妹の心の強さを称えたモノだった。
蝶々の羽を持つヴァンパイアというのは非常に珍しく、異端と呼び排除しようとする同族一定数、存在する。
そんな中、姉妹で力を合わせて生きてきたレイカとレイコは強い絆で結ばれていた。
「エリスさんの方も終わったみたいだな」
桜の言葉を聞いて安堵する走矢。
「蝶々姉妹には逃げられちゃったけどねぇ」
と春香。
「何してんの? 直」
咲花の言葉をきっかけに、全員直に視線がいく。
「いや〜、この学校を覆っている結界。何とかならないかな〜って思ったんだけど、全く感知できないのよ」
見れば直は、コウモリの翼を広げ、パンパンと手を叩き続けていた。
「何か猿のおもちゃみたいね」
「うき〜っ、誰がエテ公やねん!」
「うき〜って言っちまってんじゃねぇか」
「学校だけじゃなくって、この街全体を覆っているみたいよ。そのせいで特定の対象の妖力感知ができない状態になってるみたい」
その時、ヴァンパイア女子全員が、あたり一面を覆っていた『何か』が晴れていくのを感じた。
「これってまさか……」
「結界が消えたの?!」
「えっ、あたしやっちゃった?!」
「ソレはねぇ。考えられるのは何かが終わったのか、もしくは始まるのか……」
「信用できない奴だとは思っていたが、まさかこんな真似をするとはな」
屋上で八嶋霧香は忌々しそうに呟く。
「せっかくのお膳立てが台無しね……。どうするの?」
「そうだな。小細工は得意な方ではないし、乗ってやるとするか」
そう言うと、八嶋霧香の長い黒髪は白く変わり、骸骨を模した鎧に身を包む。
「私に付き合う必要は無いぞ。せっかくのお膳立てだ、やってみればいいさ」
そう言って女武者、ガシャドクロは校庭に飛び出す。




