暗躍するモノたち4
愛美が目を覚ましたのは見知らぬ小屋の中だった。
「あっ、起きた! ねーちゃんねーちゃん! 羽のおねーちゃんがめを覚ましたよ!!」
「うるさい、リル。そんな大声出さなくっても聞こえるから。病人が居るんだから少しは気を使いなさい」
姉と呼ばれた少女は黒髪のショートヘア、リルと呼ばれた妹と思われる方はロングヘア。
だが先ず目が行くのは2人ともビキニ姿であるという事。
「貴女達、もしかして……」
『うん、河童だよ』
姉妹がハモる。
「お姉さんさぁ、川の中に入るなら羽、しまった方がいいよ。お姉さんの羽、水中用じゃないでしょう? あたし達のと違って」
一般的に河童と呼ばれる妖。
その正体は河天狗という、烏天狗から派生した種族だ。
日本の妖は昔から人間社会に紛れて生きる者が多く、妖として活動するときは正体がバレないよう顔を隠す。
このとき面を着けるのだが、河童こと河天狗は烏天狗と同じ面を着けるため、嘴のある妖怪として語り継がれてきた。
烏天狗同様、空を飛ぶ事もできるが手足の他に翼を使って泳ぐため、水中では尋常ではない速度と機動力を発揮する。
「地の鬼、空の天狗そして水辺の河童。日本の妖の3大勢力だ。この国の川は100%河童の縄張り。あいつ等、河童とやり合うのが嫌でワザと見失ったフリでもしたんだろ」
「ざずがにーちゃん、あだまいいぜ!」
川沿いの道を歩く見た目は高校生の男子2人。
走矢の高校に入りこんだゴブリンの兄弟。
弟の方は突然変異種のホブゴブリンで通常のゴブリンより体格に恵まれているが、頭の方があまり良くない。
兄はサキュバス達の話から愛美が川を下ったと推測し、その足取りを追っていた。
「自慢じゃないが俺達は人間への擬態も妖力を隠すのも得意な方じゃない。アイツ等は結界石の一個ぐらいと言うが、俺達の場合そうはいかない。なんとしてでも結界石を取り返さないと」
「わがっだ、結界石をぶっゴロぜばいいんだな!」
「違う、ぶっ殺すのは結界石を奪い去った女教師だ。結界石はぶっ殺すな」
「わがっだ、両方ぶっごろぜばいいんだな! やっばりにーちゃんはアダマいいぜ」
分かりきっていた事だが、弟の反応に兄ゴブリンはため息をつく。
『藤崎家について調べてみたんですが、式神が寝たきりの老人を確認しました。星垂さんの言っていたお祖父様だと思われます』
「そう。御子の話が本当だとしたら、引っ越しはお祖父さんのためにも良くは無さそうね」
星垂の事が気になり、人妖機関の術士に調査を依頼したエリスが電話で報告を受ける。
星垂が御子だとしても正体を隠した妖だとしても放ってはおけない。
「引き続き監視と警護の両方をお願いします」
『了解しました。……それと相沢さんの安否はまだ確認できていません。一応、報告しておきます』
「そう……。ありがと」
電話を切るエリス。
そして、走矢も母の様子からまだ愛美の無事が確認できてない事を察する。
安易な慰めは逆効果か、と沈黙を貫く走矢にズイっと顔を近づけるエリス。
「ちょっとぉ、少しは慰めるとかしなさいよ」
「いや、でもなんて言ったらいいか……」
走矢が返答にこまっていると、エリスは彼を無理やり座らせその膝に頭を置く。
「えっ?! かあさ……」
「牙咬みの分。あれで終わりじゃないんだからね」
「参ったな、確かにアレは迂闊に使えないや……」
走矢は反省する。
「う〜ん。あたしも詳しい方じゃないんだけどこの結界石、確かに10年やそこらじゃないね」
姉河童のルリが虫眼鏡で結界石を見ながら感想を述べる。
「やっぱり……。あの、電話をお借りできないでしょうか? スマートフォン、壊されちゃって……」
「あ〜、ウチ電話とか無いんだ。近くの駅まで行けば公衆電話があるんだけど……」
「じゃあその場所を教えてください」
「歩いていく気? 無理だよ、まだ回復してないし。もし良かったらあたしが代わりに連絡してあげようか。メモに書いてくれればその通り伝えてくるよ」
「ではお言葉に甘えて。人妖機関の……」
「ええ〜っ?! おねーさん、人妖機関の人だったの?!」
「いやこの場合、『人妖機関の妖だったの?!』でしょ。ええ〜っ?! おねーさん人妖機関の妖だったの?!」
「別にやり直さなくってもいいわよ」
「あの〜、人妖機関と過去に何かあったんですか? 機関が何かご迷惑でも……」
「あ〜。むしろ、あたしらが迷惑かけちゃったんだよね……?! なに? この家を隠している結界が破られた?!」
「壁から離れて! 何か来るわ!!」
愛美の言葉を受けて、壁から離れる姉妹。
彼女達が飛び退いたと同時に家の壁がぶち抜かれ、ゴブリンとその弟のホブゴブリンが現れる。
「結界石と言う言葉が聞こえたからぶち抜いてみたが、お前か、リル」
「あんたは、嘘つきくそゴブリン!!」
「なに? 結界石? 嘘つきくそゴブリン??」
戸惑う愛美を他所に姉妹がヒートアップしていく。
「あ〜。昔、ねーちゃんを騙した奴だ。あいつ、盗品を運んでいるところを人妖機関に見つかって、ソレを悪い奴らに追われてるって嘘をついて、ねーちゃんコロッと騙されちゃったんだよ」
「あの後こっぴどく叱られたし、あんたに窃盗に入られた人は凄く悲しそうだったしで散々だったんからね!」
「知るか、騙される奴が馬鹿なだけだろ。いいからその結界石をこっちによこせ!」
「冗談じゃない! 積年の恨み、はらさせてもらうよ! リル!!」
「ガッテン!」
姉妹は両手をゴブリン達に向けてかざすと、水流を発射する。
「まず、あたしらの新築から出ていけ!!」
「うおっ?!」
水流を食らい、屋外に押し出されるゴブリン達。
「くそっ、やってくれたな!」
「勘違いしないでよ? やるのはこれからだ!」
そう言ってルリがゴブリン目がけて飛び蹴りを繰り出す。
しかし、ゴブリンの前にホブゴブリン立ちはだかり、ノーガードでそれを受ける。
「何だコイツ? あたしの攻撃が効いてない?!」
「弟はやたらとタフだからな」
「ならこれでどうだ?!」
今度はリルがホブゴブリンの顔面にドロップキックを命中させる。
「グヘヘっ、なんか当たった……」
そう言って何事も無かったかのように、顔面に刺さったリルの足をつかむ。
「わわわわわっ?!」
「リル?!」
そのまま振り回され、放り投げられたリルをルリが全身でキャッチする。
「私も加勢を……」
「駄目だよおねーさん。まだ戦える状態じゃないんだから! 大丈夫、こんな奴らに負けるあたし達じゃないから!」
そう言ってルリは真っ向からホブゴブリンとつかみ合う。
「その体格差じゃ無茶よ?!」
「大丈夫、ねーちゃんはこの辺のじゃあ有名な河童相撲の名手なんだから。あんなデカイだけの奴になんて絶対に負けないよ!」
心配する愛美にリルが自信満々に言う。
「食らいな、必殺脳天河原落とし!!」
そう言うと、ホブゴブリンを掴んだままリルは翼を広げて飛翔し、脳天から叩き落とす。
「なに?! 弟!!」
ホブゴブリンは体が半分ほど地面に埋まり、動かなくなる。
「くっ、くそぉ! 出直しだ!!」
そう言って逃げ出すゴブリンに翼を広げたリルが飛びかかり、拘束する。
「くそっ、はなせぇ!」
「離すもんか、ねーちゃん!」
「ようやくこの日が来たね……」
指をボキボキと鳴らしながらゴブリンな近づいてくるルリ。
それを見たゴブリンは恐怖に顔を引きつらせる。




