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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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暗躍するモノたち3

 自分の方に向かってくる知らない女性を見て、走矢は嫌な予感がしていた。


(真っ直ぐこっちに向かってくる……。俺に用があるのか?)


 妖力などは感じられない走矢だったが、女の発する異様なプレッシャーに気圧(けお)されていた。


(母さんがこんなだし、俺が何とかしなくちゃ……)


 女は走矢の座るまであと数歩というとこまで近づくと、ゆびをパチン、と鳴らす。


 走矢は感知できないが、結界が張られ公園の内外の行き来が制限される。


 と、同時にメデューサは人間の姿から本来の妖へと姿を変える。


「あの時のメデューサ?!」


 目をそらしながら驚く走矢。


「今度は逃さないぞ」


 神話の怪物は、そう言って彼に手を伸ばす。


 この状況で走矢が最初に思った事。


 それは気を失っている母からこの妖を遠ざける事だった。


 無我夢中でメデューサに体当たりをすると、母の『特別な加護』の力もあり、信じられないほどメデューサをふっ飛ばした。


「なっ、なに?!」


 ふっ飛ばされ、転倒したメデューサが予想もしなかった展開に驚愕する。


 一方、走矢も初撃は上手くいったが母が気を失っている事から逃げるのも容易ではない状況。


 近くに何か武器になりそう物はないかとキョロキョロと見回すが、平和な公園にそんな物落ちていない。


「ふざけやがって……」


 メデューサはそう言うと、近くのベンチを片手で持ち上げ武器にする。


「死ねぇ!」


 完全に頭に血が(のぼ)ったメデューサは、そのベンチを走矢目がけて投げつける。


 両腕を交差させてガードしようとする走矢だったが、いつの間にか彼の前に立っていたエリスが片手でそのベンチを受け止める。


「母さん?!」


 エリスは無言でベンチを投げ返すが、その速度はメデューサが投げた時のとは比較にならないスピードだった。


「なっ?!」


 文字通り、目にも止まらぬ速さでメデューサに帰ってくるベンチ。


 ガードもできずに直撃し、神話の怪物は再び地面に倒れる。


「クッ……ソ」


 走矢のときとは違う、明らかな実力差を痛感しメデューサは戦意を失いかける。


 その時、立ち上がろうとしたメデューサが頭を押さえつけられるような感覚をおぼえる。


 一瞬で距離を詰めたエリスがメデューサの頭を踏みつけていたのだ。


 状況を理解し、メデューサは完全に戦意を喪失する。




 実はだいぶ前に意識を取り戻していたエリス。


 息子にひざ枕してもらうという貴重な時間を堪能(たんのう)するために、気を失ったフリをしていたのだった。


 その貴重な時間を邪魔したメデューサに憤慨(ふんがい)し、返り討ちにした。


「って言うかエリスさん、起きてたでしょ」


 自動販売機の前で春香が言う。


「えっ、そうなの?」


「やっぱりエミちゃん、気づいてなかった」


「なんつうか、どっか行ってろオーラが凄かったもんな」


「だからチョット遠めのこの自販機に買いに来たのよ」


「妖力感知は自身あったのに……」


「これは妖力感知と言うより人間観察力ね」


 と、春香。


 どうやら咲花以外はエリスの狸寝入りに気づいていたようだ。


「そろそろ良いでしょ。もう十分堪能したでしょうし」


 春香が自分の腕時計を見ながら提案する。


 そして公園に戻った一同が見たのは、飲み物を買いにいく前と変わらない、走矢にひざ枕されるエリスの姿だった。


(いい! 牙咬みなんて二度とやっちゃ駄目よもちろんアタシにも。もし次にやったら、本当に責任取ってもらうわよ)


 そう言ってひざ枕の体勢に戻った母の頭を、走矢は優しくなでていた。




「くっ、ヴァンパイアが……。やはり傷を完治させなくては……。こうなったら手当たり次第、人間を……」


 怒りのエリスにボコボコにされ、命からがら逃げてきたメデューサは傷を癒やすことを最優先とした。


 それは人間を襲うということ。


 ドッペルゲンガーに注意された行為だ。


「言わんこっちゃないわね、だから作戦を考えましょうって言ったのよ」


 そう言いながら両手に缶ジュースを持った女が近づいてくる。


 ドッペルゲンガーだ。


「うるさい!」


 そう言って缶ジュースを1本奪い取り、一気に飲み干す。


「そっちもよこせ!」


 残るもう一本も奪い取り一気飲みする、メデューサ。


 その姿を見て呆れるドッペルゲンガー。


「とにかく、人間を食って完全回復する。お前も手伝(てつだ)え」


 ドッペルゲンガーの横を通り抜けようとするメデューサの胸に痛みが走る。


 そこにはナイフが深々と突き刺さっており、メデューサは吐血する。


「おまえ……?!」


「勘違いしないでね。私は貴女(あなた)と本気で信頼関係を結びたかったのよ。でも貴女(あなた)にはその気が無かった」


「ふざけるな! ドッペルゲンガー風情が!!」


「貴女っていつもそれね。風情風情が、そう言ってあの炎のヴァンパイアにもやられちゃったし」


 そう言ってドッペルゲンガーはナイフを引き抜き、ソレに付着したメデューサの血を舐めると、その姿をメデューサに変える。


「キサマ……?!」


「ジュースに入れた毒が効いてきたようね」


「ジュース……。毒?! いったいどっちに?」


「両方よ。貴女(あなた)、欲張りだから。メデューサの能力、私が有効活用してあげるわ。草葉の陰で見てなさい」


 いつの間にか張られていたドッペルゲンガーの結界内にメデューサの断末魔が鳴り響く。




 河童の姉妹に助けられた愛美は拳大(こぶしだい)の結界石を見つけた直後の悪夢を見ていた。


「まさかこれで終わり?」


 呆れる愛美の足元に転がるコボルドとオーク。


「あははっ、前座にもならないでやんの」


 暗闇の中で何かが笑う。


「なら私が相手だ」


 そう言うと突然、巨大な骸骨が愛美の背後にに現れる。


「ガシャドクロ?! こんな大物が……」


 振り下ろされた拳を翼を広げて飛翔する事で回避する愛美。


 お返しとばかりに、その頭部めがけてマシンガンの様に羽根を撃ち込み、蜂の巣にする。


「はっ、分体では相手にならないか」


 いつの間にかガシャドクロの足元に立っていた女性。


 白髪(はくはつ)の長い髪に骸骨を模したような鎧を身に着けた女武者。


 愛美は彼女がガシャドクロの本体だと理解する。


「お相手(あいて)(ねが)おう」


 女武者は抜刀し、斬りかかる。


 初撃を回避した愛美は翼で女武者に殴りかかり、彼女はそれを刀を持った右手でガードする。


「くっ……」


 っと小さく(うめ)く女武者。


 右手に持っていた刀を左手に持ち替え反撃に出る。


 そんな彼女と対峙する愛美に、背後から何かが襲いかかる。


 咄嗟に感知し、回避した愛美はそれが青白い炎だと確認する。


 見ればそれを(はな)った女。


 髪が青白い炎と化し、今(はな)たれた炎はその髪から発射された様だ。


「うふふっ、私の炎は生きているの。一度燃え移ったら貴女(あなた)が灰になるまで消えることはないわ」


 炎の髪の女は人魂の妖、ウィルウィスプ。


 彼女はその髪を激しく振り乱し、青白い炎を愛美に目がけて連続発射する。


 女武者にも意識を向けながらそれを回避する愛美だったが、ガシャドクロの本体は刀を(おさ)め、傍観(ぼうかん)のかまえだ。


「チョット、何で仕掛けないのよ?」


「お前のノーコンの炎の中に突っ込んでいけるか。大体、これは一騎打ちだぞ」


 女武者は不機嫌そうに返す。


「ホント、サムライガールは面倒くさいわね」


 そう言い(はな)ちながら闇夜に紛れて飛翔する女。


 悪魔を思わせる角、翼、尻尾を持つソレはサキュバスだと瞬時に理解する愛美。


 精神攻撃を得意とする妖だが、基本的にソレは異性に特化しているモノだ。


 しかし……。


「なに……、これは? 意識が朦朧(もうろう)とする……」


「私の精神攻撃は異性、同性問わず最大限に効果を発揮するの。貴女はもう私の支配下にいるのよ」


 普段どおりの動きができない愛美をウィルウィスプの炎が襲う。


 愛美は勢いよく翼を羽ばたかせ、突風と(はな)った羽根で炎を迎撃しつつ、残った羽根でサキュバスとウィルウィスプを狙い撃つ。


「いやぁ、こっちにも来た!」


「くそ、手数は向こうが上か!」


 サキュバスとウィルウィスプば何とか羽根を回避する。


 そのスキに愛美は戦場からの離脱を(こころ)みる。


 サキュバスの精神攻撃を受けた状態ではまともに戦えないと判断したからだ。


()がすか!」


 ウィルウィスプの全身が青白い炎で包まれると、愛美を追って飛翔する。


「あ、待ってよ!」


 サキュバスも後を追う。


「何とか逃げ切らないと」


 愛美は高速で空を飛びながら後方に羽根を発射し、追手の足止めを(こころ)みる。


「くそっ、器用な奴め」


「何あの羽根。べんりすぎない?」


 追手の動きが止まったのを気配で確認し、とりあえず安堵(あんど)する愛美。


 しかし、その進行方向に突然不気味な双眸(そうぼう)が出現する。


 夜空に突然現れたソレと目が合う愛美。


 すると全身の自由が()かなくなり、墜落してしまう。


「なに? 今の……?」


 視線の(はず)れた今は普通に動けるが、目が合っている間の影響力はサキュバスの精神攻撃の比ではなかった。


 サキュバスとウィルウィスプ、それに加えて得体のしれない『目』の妖。


 迂闊に飛べばまたあの双眸(そうぼう)にやられるかもしれない。


「そういえば近くを川が流れていたはず」


 追いついてきたウィルウィスプの炎が降り(そそ)ぐ中、愛美は最後の力を振り絞って翼を羽ばたかせる。


 羽根による反撃と突風によって巻き上げられた砂ぼこりや葉っぱによる目くらまし。


 これで敵がひるんでいる間に何とか川に飛び込んだのだった。

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