暗躍するモノたち2
『確かに藤崎家というのは過去に何人か『御子』が産まれている家系ですね』
エリスは星垂について裏を取るため人妖機関の職員に連絡していた。
御子というのは俊紅と違い、わずかだが妖力を持っている。
しかしそれは人間のフリをする妖も同じで、実は俊紅と比べて判別しにくい。
彼女自身、自分が御子だと知ったのは、つい最近だと言う。
「貴女人妖機関に登録していないの? もしそういうのが分からなかったというのなら、これから一緒に機関に行きましょ。色々なサポートも受けられるわ」
そう言って星垂の手を取ろうとするエリスを彼女は拒絶する。
「ごめんなさい。気をつかっていただいたのに……。人妖機関には行きたくありません」
そして星垂はその理由を述べる。
彼女の祖父の姉もまた御子だったのだが、機関に隔離され、親しい人にも会えない日々を過ごし、ある日自ら命を断ってしまったのだと言う。
当時、交際のあった男性とも会えずいつしか疎遠になっていき、彼が別の女性と結ばれたという噂を聞いたのだった。
その事があり、祖父は絶対に人妖機関を信用しないのだと言う。
「でもこのままだと危険じゃ……」
「また別の街に引っ越します。妖達には縄張りのようなものがあって、街から街へ追いかけるのは結構、難しいみたいなんです」
確かに人妖機関に頼らないならばその方法ぐらいしか見を守る手段は無い。
「昔はそんな事をする機関の支部もあったみたいだけど、今はもっと違う方法もあるわ。人妖機関に協力的な妖のコミュニティも沢山あるし、この娘達みたいに貴女を守ってくれる妖だって居るわ」
「でも……、祖父はそれを良しとしません……」
ここまでの話でなんとなく分かったのは、この方針を頑なに守っているのは星垂ではなく、彼女の祖父だと言うことだ。
「わかったわ。私がお祖父様に直接会って話をしましょう」
「まっ、待ってください。あの、お祖父様はお姉様の事もあって、妖が、その……。大嫌いなんです。貴女が行ったりしたらたぶん……。いえ、絶対に大変な事になります!」
「まぁ、俺も母さんに説得とか交渉は無理だとおも……」
言い終わる前にキッ、と走矢を睨みつけるて黙らせる。
「今日のところは家に送り届けるまでにしときましょ」
春香が折衷案を提示してこの話は一旦、終わりにする。
人妖機関の施設の1室。
そこにあるソファーにグッタリと横になるサトリの少女、里子がいた。
「貴女が手も足も出ないとはね……」
いつになく真剣な口調の由利歌。
「アレは僕のようなヤツが精神世界に入ってくる事を見越して張られたトラップだ。そっちの専門家の助けがいる」
そう言うと上半身を起こして、どこかに電話をかけはじめる里子。
「愛美ちゃんも見つからないし、予想以上に手強いわね……」
ぬらりひょんは誰に言うでもなく、1人ボヤく。
「ここが私の家です。送っていただいてありがとうございました」
自宅の前で一同にお礼をいう星垂。
「じゃあこれで失礼します……?! 母さん?」
立ち去ろうとする走矢達だったが、エリスがその場から動こうとしない事に気づく。
「母さん……」
声をかけ、手を引っ張ろうとしたその時、星垂が家のドアを開けるとエリスが家の中めがけて走りだす。
母の挙動に違和感を感じていた走矢はそれに反応する事ができ、咄嗟に母の腰に手を回して突入を阻止する。
「離しなさい、走矢!」
「離しなさい、じゃないよ! 不法侵入だぞ? 何考えてんだ!」
「名にやってんだ、エリスさん……」
「エリちゃん、さすがにソレはアウトだよ!」
エリスの挙動に気づいた桜達も彼女を押さえつけようとするが、動きを止める事ができない。
(走矢、もしお母さんが暴走して止められなかったらこの方法を使うと良いぞ)
「母さん、ゴメン!」
そう言って走矢は愛美の唇に自分のソレを重ねる。
「牙咬み?」
里子による精神世界からの調査を終えた羽月と紗由理。
その紗由理がこの上沢市について薀蓄を垂れ流していたのだが、その中で『牙咬み』という言葉が。登場したのだった。
「ヴァンパイアの牙って弱点なんだけど、結構知らないヴァンパイアが多いんだよね。んで、人と妖が共存してなった時代にそれに気づいた人間達がヴァンパイアを狩る手段としてソレを用いたってわけ。牙の付け根を舌で触れたり、牙のできるだけ付け根の方を咬んだりする事でヴァンパイアの戦意を喪失させられる。特に咬むのは強力で、ほぼ確実にこれやられると気を失っちゃうの。ヴァンパイア」
「へ〜。じゃあ、それで随分狩られちゃったんだね」
羽月の言葉に下世話な笑みを浮かべる紗由理。
「何その顔……」
「それがねぇ、これやられたヴァンパイアは何ともしおらしくなっちゃうみたいで、それを見た人間も狩る気が失せちゃって……。最終的に両者が和解して仲良くなったのがこの上沢市って土地なんだ。上沢の上は、元は咬みだったってお話」
「何か飲み物買ってくらぁ」
星垂の家に強引に上がろうとする母を止めるため、『牙咬み』を実行した走矢。
気を失いグッタリした母を背負い、近くの公園で一休みする事にした。
桜達が気を利かせ飲み物を買いにいってくれてる間、走矢は母をベンチに寝かせてひざ枕していた。
「これ、本当に切り札だな。母さんを大人しくさせるための……。あんまりやると後が怖そうだし……」
ふう、とため息をつく走矢の様子を伺う視線が2つ。
以前、彼を襲ったメデューサとドッペルゲンガーだ。
「1人になったぞ。今がチャンスなんじゃないのか?」
「母親が一緒でしょ。かなり手強いって話よ」
「気を失っているじゃないか」
「騒ぎを起こしたら目が覚めるかもしれないでしょ? 離れたヴァンパイア達もすぐに戻ってくるかも知れないし、今はまだ、様子見の段階よ。飲み物買ってくるわ。それから作戦、考えましょ」
そう言ってメデューサの元を離れるドッペルゲンガー。
「フン、まどろっこしい。とっとと済ませれば良いだけだろ」
そう言ってメデューサは走矢の方に歩みを進める。




