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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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暗躍するモノたち

 その日の天気は雨だった。


 街外れにあるアパートの一室。


 そこから外の景色を(なが)める女性が2人。


 1人はOL風の大人(おとな)しそうな雰囲気の女性。


 もう1人は体格の良い、ワイルドそうな見た目。


 以前、人妖機関を襲撃したドッペルゲンガーとメデューサである。


 傷を癒やすために今のドッペルゲンガーの元となった女性を捕食し、彼女のアパートをとりあえずの根城としていた。


「くそ、ぜんぜん足りない。もっと食わないと……」


「待って、今は他所(よそ)からも機関の増援が来ているのよ? 迂闊に動かないで」


「迂闊だと?! 私が迂闊だと言うのか! それになんだ、その上から物を言う態度は!」


「悪かったわ。私の言い方が間違っていました。ごめんなさい。ただ、今動くのはまずいわ。お願いだから我慢して」


 その言葉で、一応メデューサは静まる。


 あの炎のヴァンパイアにやられてからずっとこうだ。


 ドッペルゲンガーはため息をつく。


「ねえ、この街おかしいと思わない?」


「おかしい? この街が?」


「ええ、そうよ。私達以外にも外で俊紅を狙っていたヤツがいたはずなのに、今は全く姿が見えない」


「殺られたか(あきら)めて逃げでもしたんじやないのか。何にしろライバルが減って良い事じゃないか」


 ドッペルゲンガーはすでにメデューサに見切りをつけ、別のビジネスパートナー探していた。


 しかし、新年度が始まった頃にはアチコチに潜伏していた同類達が今は全く見つからなかったのだ。


 思えば俊紅の情報を流し自分達をこの街に集めたあの首謀者。


 てっきり漁夫の利でも狙っているのかと思っていたが、どうもそんな簡単な話ではないような気がしていた。




「嫌な雨ね……」


 レインコートを着て校庭の一角(いっかく)を掘る愛美は、恨めしそうに空を仰いだ。


 まだ結界は消えていない。


 由利歌のその言葉がずっと気になっていた愛美は、ある事を思いついた。


 今掘っている場所は最初に結界石を見つけた場所。


 その結界石を見つけてから一度も調べなおすことは無かった場所。


 今、思えばあの結界石、随分と簡単に見つかった。


 アレは気を引かせるための(おとり)で本命を隠すための物だったのではないだろうか?


 いても立ってもいられなくなった愛美は、日が暮れたにも関わらず飛び出し、この場所を掘っていた。


「?!」


 愛美が何かを感知し、堀りすすめると拳大(こぶしだい)の結界石が出てくる。


「あった……」


 結界石に手をのばす愛美。


「この石、設置されたのはだいぶ前?」


 石から発される気配や見た目からかなり昔に設置された印象を受ける。


 少なくとも走矢が入学してきたここ最近のモノではない。


「10年……。いや、20年以上前? まさかシン(新矢)がこの学校に通っていた頃から! ちゃんと詳しい人に見てもらった方が良いわね……?!」


 周囲の異様な気配に気づく愛美。


「さすが先生、それを見つけるなんて」


「でも、その石を撤去されると私達も困っちゃうのよねぇ」


「悪いけど退場してもらうよ」


 いつの間にか愛美を包囲していた人影が、一斉に襲いかかる。




「相沢先生、お休みなんですか?」


「そっ、そうなの。どうも体調が悪いみたいで……」


 春香の質問にしどろもどろで応える、副担任の浪川 栄子(ナミカワ エイコ)


(相沢先生が体調不良?)


 なんとなく違和感を感じた走矢は、エリスに目配(めくば)せすると母は自分のスマホを見せる。


 当然、字は読めないが、それはメールを送ったという意味だった。


『さっきから何度も電話かけてるんだけど、『おかけになった電話番号は』って言われちゃうの』


 母のメールを見て愛美に何かあったと理解する。




「相沢先生に連絡がつかないって事?!」


「らしい。今、母さんが機関のの方に連絡してるんだけど、スマホが壊れているとかだとしたら、何か事件に巻き込まれたって事になる」


 休み時間、人目(ひとめ)を避けて桜達に状況を説明する走矢。


「浪川先生も態度がおかしかったものね」


「って言うか、あのぬらりひょんなら何か知ってんじゃねぇのか?」


「そういえば、朝から見ないね」


「いっつもひょっこり出てくるくせに、肝心なときに居ねぇって」


 桜がボヤく。




「ウ〜ス」


 由利歌に小さく右手のひらを向けて挨拶をする、頭にヘッドホンを装着している中学生くらいの少女。


「遅いわよ。相変わらず時間にルーズね」


 あきれながら出迎える由利歌。


「でっ、ボクは何をすればいいのさ」


「とっ捕まえた犯人から情報を引き出してもらいたいの。黒幕に関する秘密が喋れない術がかけられているみたいなの」


「うへぇ〜、面倒くさそう」


「文句を言わないの。心の中を覗くのは得意でしょ? そのために貴女(あなた)を呼んだんだから。妖怪、さとりの貴女(あなた)を」


 ヘイヘイ、とやる気のない返事を返して妖怪さとりこと、里崎 里子(サトザキ サトコ)は由利歌に連れられて間野 羽月(マノ ハヅキ)の部屋に向かう。




「一度、走矢を家まで送り届けてから人妖機関に行ってみるわ」


 結局、愛美に関する情報を得られないまま放課後を迎えた一同。


 その下校途中に直が何かに反応する。


「誰か結界を張っている」


 そう言うと直はコウモリの翼を広げ、目をつむる。


「静かに。直が結界を感知してるの」


 春香が自分の唇にピンと伸ばした人差し指をあててみせる。


 すると直は一度だけ手を叩き、パァーンといい音を響かせ、その反響を翼で感じとる。


「そこ!」


 そう言ってとある場所にホバリングして急接近すると、右の翼で空間を突き、そこを中心に景色が吹き飛び、本物の景色が出てくる。


 巨大な骸骨に女子生徒が襲われているという、今起こっている本物の光景が。


「なんだ、あの巨大骸骨?!」


「たぶん、ガシャドクロね。日本の妖よ」


 桜の疑問に春香が答える。


「あの娘、襲われている!」


 咲花が叫んで翼を広げる。


 見れば襲われている女子生徒は、桜達と同じ制服。


 桜と春香も翼を広げて、同時にガシャドクロの顔面に飛び蹴りを食らわす。


「ぐわっ?!」


 っと鈍い悲鳴をあげて後頭部から倒れるガシャドクロ。


 その間に咲花が女子生徒を救出する。


「くそ、邪魔が入った」


 そう言い残して、ガシャドクロは霧散する。


「なんだぁ?! でけぇ図体してとんでもねぇ逃げ足の速さだな……」


 桜が盛大に(あき)れる。


「あの……。助けていただいてありがとうございます。同じ高校の方ですよね? 私、2年2組の藤崎 星垂(フジサキ ホタル)と言います」


「ゲッ、先輩」


「別にいいでしょ。先輩でも」


 直のリアクションに(あき)れる春香。


「なんでアイツに襲われたか、何か心当たりとかないの?」


 エリスの質問に、少し戸惑いなが星垂は応える。


「私達の家系は稀に『御子』と呼ばれる、妖の力を高める存在が産まれてくるんです。私がそれで、この街にも身を隠すために引っ越して来たんてすけど、その事がバレたみたいで……」


 人妖機関に所属するエリスは『御子』という存在を知っていた。


 彼女の言うように、妖の力を高める存在で、その性質は俊紅と似ている。


 しかし、御子に関してはその正体が分かっている。


 言ってしまえば妖の血が混じった人間という事だ。


 人との間に混血が産まれるタイプの妖と人間の間に産まれた存在。


 その妖の血が代を重ねて薄くなっていった先で稀に血の強い者が産まれる事がある。


 それが御子で人の持つ信仰、すなわち祈りの力と妖の妖力を持ち、俊紅ほどではないがその血肉には妖の力を高める効果がある。




「なんだコレ、土左衛門か?」


 走矢達の住む上沢市(かみさわし)、その南側に位置する南條市(なんじょうし)に流れる文十川(あやとがわ)


 その文十川の近くに住む河童の姉妹の妹、リルが見つけた土左衛門。


「バカ、まだ生きているし、どう見ても人間じゃないでしょう!」


 姉のルリの言うとおり、流れてきた女性には猛禽類のような翼が生えており、人でない事は一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。


「とにかく手当、手当! アタシお医者さん呼んでくるから」


 そう言って姉のルリは川に飛び込むと、とんでもない速さで上流に向かって泳いで行く。

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