学園のヴァンパイア
同時刻、お風呂場の違和感に気づいた玲奈が用さを見に覗いてみると、シャワーが出っぱなしだった。
「なに……、これ?」
疑問と同時に緊張が走る玲奈。
今日はまだ誰も風呂場を使っていないはずなのに。
「もうすでに、何者かの侵入を許しているの?」
そう呟いてシャワーを止めようと近づく玲奈だったが、何かに足を取られて転倒する。
「なに?! 何か居る!」
大声で叫び、家に残っている者に、危機を伝える。
そしてシャワーは止まらず、湯気が廊下を通じて家中に広がっていく。
「何この湯気?! 玲奈姉さん?」
リビングで異変に気づき、声をあげるアリス。
「何なの、この湯気!」
「家中に広がっているわよ……。なに?! この気配! これは妖力によるもの!」
羽月と火織も臨戦態勢に入る。
「走矢?!」
何かに気づいた深完が走矢を突き飛ばし、何者かの攻撃を腕で受ける。
「ぐっ?! これは!」
深完の顔が苦痛に歪む。
深完が受けたのは西洋の両刃の長剣、ロングソード。
頑丈にてきているはずのクグツの深完だが、この攻撃は効果的なようで、あわてて剣の使い手を蹴り飛ばして距離を置く。
「よく受け止めたね」
そう言って、湯気の中から剣の持ち主が姿を現す。
美少年とも美少女ともとれる、中性的な20歳前後の人物。
よく見ればその握る剣も、宝石のような美しい見た目をしている。
「カーバンクルです。佐伯走矢くんの命をいただきにきました。よろしく」
そう言って微笑む美少年?
「宝石の剣なんてロマンチックな見た目の割にはエグい仕様のようね」
見れば宝石のロングソードはその刃の部分をチェーンソーのように、鋸刃が高速で走っているのだ。
「機能美と言うやつですよ。フフッ」
カーバンクルは微笑を浮かべて尖先を向ける。
「彼は私が引き受けます。危険はありますが、佐伯走矢は外に逃げてください。湯げに紛れ込まれると対応が不十分になってしまいます」
「彼じゃなくって彼女だよ。間違えないでね?」
「間違えられたくないならそれっぽい格好をしてください。紛らわしい……」
深完の言葉を受けて、アリス、火織、羽月、小夜子が走矢と共に、リビングの掃き出しから外にでる。
「とりあえず清十郎さんの所に向かいましょう」
今後の方針を示すアリスだったが、妖力の光線が彼女の左肩を貫く。
「アリス姉さん?!」
「とりあえず、外に出た中では一番手強そうなのを撃っといたよ」
佐伯家から離れた、空き家のベランダにて、中学生ぐらいの少年が隣にいるトレントに報告する。
「流石ですね、ビホルダー。一番厄介な彼の祖母2人はグアンナとイフリートが相手をしています。簡単には応援に駆けつけないでしょ……。んっ?! あれは……」
トレントは何かに気づき、目を細める。
夜空に響き渡る無数の羽音。
ソレは走矢を取り囲むように舞い降りる。
「なに……。ヴァンパイア?」
「もしかして助けに!」
「小夜子、残念だけどそんな雰囲気じゃないわ……。明らかに敵意を持ってここに立っているわ彼女達……」
そう言って火織は炎の剣を出現させて、戦闘態勢を取る。
舞い降りたヴァンパイアは中高生ぐらいの未成年が10数人、おそらく成人しているであろう者が5人。
その中のリーダー格らしき女性が一歩前に出て、要求を口にする。
「佐伯走矢をコチラに引き渡しなさい! 彼を生かしておくわけにはいかないわ」
「なんですって?! そんな要求が通ると思っているの!」
女に食ってかかる火織だが、
「黙りなさい、彼が空亡を操ってこの街にした事は決してゆるされないわ。上沢学園に……。よくも私の教え子達を!」
女は、いや成人しているであろうヴァンパイア達は皆、空亡の最初の犠牲となった神沢学園の教員達。
そして未成年のヴァンパイア達はそこの生徒達だった。
「アンタのせいでミサや、皆が!」
ヴァンパイアの少女が強い敵意を走矢に向ける。
走矢はその敵意に何も言えなくなる。
「彼が空亡を操った?! 何なのそのデタラメは!!」
火織も感情の高ぶりを抑えるのは限界のようだ。
しかし羽月は冷静だった。
「走矢くんと空亡の関係は公にはされていないはずよ。一体どこから得た情報なの?」
「ほら、やっぱり!」
「やっぱりじゃないわよ。彼と空亡に関係があるのは事実だけど、操ってなんかいないわ。彼は前世で空亡召喚の生贄にされて、そのせいで空亡に狙われているの。彼も犠牲者なのよ?」
「そんな事……」
「私が嘘を言っているっていうの? それだけだあなた達にこの情報を吹き込んだ人は信用できるの?」
「うるさい! このままじゃ傷ついた子たちが浮かばれないのよ!」
そう叫んで女性教員が走矢に飛びかかっていく。
「くっ!」
咄嗟に羽月と火織で迎撃するが、それにより膠着状態は破られ、戦闘が始まってしまう。
羽月と火織は波の学生ヴァンパイアに遅れを取ることは無かったが、教員複数に動きを止められ、生徒達が走矢に襲いかかった。
「このぉ!」
アリスが力を振り絞って初撃は凌ぐが、怪我が響き、数に押し潰される。
「姉さん!」
「走矢さん、こっちです!」
小夜子が手を引くが、すぐに生徒達に囲まれてしまう。
「ヴァンパイアのクセに、何でそんな奴かばうんだ!」
「あなた達こそ、何で走矢さんをこんな目に! なんの罪も犯していないのに……」
「彼、俊紅何でしょ? 私のお祖父様が言っていたわ。俊紅のあるところ、常に争い有りって! 生きていちゃいけないのよ、俊紅は!!」
「ふざけないで!!」
そう、激昂したのは羽月だった。
「彼だって好きで俊紅に生まれたわけじゃないの! それを生きていちゃいけないですって? アンタいったい、何様なのよ! この馬鹿教員ども、一体どんな教育をしているの!!」
羽月の怒りは収まらなかった。
自分も変わった翼を持って産まれたが故、迫害されて生きてきた経験から、いつしか走矢に共感するようになっていたのだ。
「ぐっ、押さえきれない?! 早くその子を!」
最初に飛びかかった教員が、生徒達に指示を出す。
「くっ……。しねぇ!」
1人の少女が迷いを断ち切るように手刀を振り下ろすが、ソレは走矢には当たらず、代わりにその少女がふっ飛ばされた。
「走矢、大丈夫か!」
「走矢くん!」
「ソウちゃん!」
「走矢……」
ソレは桜の一撃だった。
そして春香、直、咲花も舞い降りる。
「邪魔しないでって言ってるでしよ!」
「あなた達の気持ちはわかるわ。けど、一旦落ち着きなさい」
生徒達をなだめる春香。
彼女はスキを見て走矢の首筋に自分の羽根を撃ち込み、倒れる走矢を抱きとめる。
「ハル……」
「これ以上は聞かせたくないから……」
「気持ちはわかる? ふざけないで! こんな奴の味方をしておいて、いったい何が分かるって言うのよ!」
「わかるわ、わかるに決まっているでしょ……。たった今、あなた達の手によって、私の大切な人が傷つけられたんだから」
そう言って走矢を強く抱きしめる春香。
「小夜子ちゃん、お願い」
そう言って小夜子に走矢を任せると、眼鏡を外してその両目に妖力を集中させる。
「走矢は絶対にこんな事望まない。それでも、私はあなた達の事を許さない!」
春香は紫に変色したその目で、上沢学園のヴァンパイア達を睨みつける。




