人造人間再び
「術師の歴史上、空亡は何度も召喚されている。いや、作られていると言ったほうがいいか」
第18支部にて、収容されている九骸と上沢支所長、村田 厚を名乗る虚空の会話にて、九骸が空亡について話を振る。
「普通に失敗したのか、わざとなのか。今日まで世界が残っていると言う事は、成功例は一度も無いってことになる。空亡召喚の儀式をおこなう者は、世界を滅ぼしたいのではなく、ソレが可能なほどのエネルギーを欲していた。術師界隈ではこう考えられているのだが……」
そう言ってため息をつきながら虚空の方を見る九骸。
ソレを受けて首を傾げる虚空に、さらに深いため息をつく。
「まさか普通に空亡を召喚する奴がいるとは思わなかったよ……」
「またその話か。蠱毒の姫にも言われたよ」
「言うだろ、そりゃあ。世界を滅ぼす禁呪なんて、アウトローでも迂闊に手は出さない。それをお前は……」
まあまあ、と九骸をなだめる虚空。
「別に俺も世界を滅ぼしたいわけじゃないんだよ。ただ空亡と言う物に興味があっただけで。……なぁ九骸、空亡召喚の儀式って、いつ、誰が生み出したんだろうな? 世界を滅ぼす空亡の召喚法。お前言ったよな? 成功例は一度も無いって?」
術師界隈において、空亡召喚の儀式という物は謎の多い代物で、人によっては儀式そのモノがこの世界を滅ぼす為に紛れ込んできたと言い出す者までいる。
その事をよく知る九骸は沈黙で応える。
「やつぱりさぁ、実践してみるのが一番だと思うんだよ」
その言葉を聞いてガックリとうなだれる九骸。
「そうはならないだろ……。ふつう……」
ツッコむ気力も失せ、何とか言葉を絞り出す九骸に虚空は続ける。
「だからさぁ、トレースさせたんだ。空亡誕生までのプロセスを。そして現段階までは上手く行っているんだ」
それを聞い九骸は一変して復活し、虚空に掴みかかる。
「ちょっと待て! おまえ、それって……」
「ああ、今空亡は2体いる」
「って言うか、エリスって運転てきたのね」
日が暮れた自宅のリビングにて、玲奈が佐伯家の車について話題を振る。
「前のアパートに住んでいたときは少し離れた駐車場に置いていたからね。母さんも自分1人で出かけるときは基本、羽だし。俺が小さい頃はよく、車で買い物に行ったりしたんだけど」
「なら今度買い物がてらドライブしましょ。私が運転するから」
「えっ! 玲奈姉さんて免許持ってるの?! まさか自動車運転するのに、免許が必要って、知らないわけじゃないでしょ?!」
「バカにしてるの? 貴女!」
「ヒイッ! スミマセンデシタ……」
走矢の昔話に反応する玲奈。
その玲奈に失礼なツッコミを入れたアリスが睨まれて小さな悲鳴をあげる。
「ちなみに私とアリスちゃんも持っているわよ〜。ほとんど乗ってないからペーパーだけどぉ」
リリスがヒラヒラと自分のゴールド免許証を見せながら言う。
「それなら母さん、大型2種まで持っているわよ。無駄に長生きしているから……。って、何しようとしてるの、この母さんは!」
アリスより辛辣な言葉を実母に向ける玲奈。
そんな理奈は、無駄に長生きが効いたフリをしながら走矢に抱きつこうとしたが、玲奈に阻止される。
「なに、免許証の話? 普通自動車なら私も持っているわよ。一応、霧香も……」
フッ、とドヤ顔の霧香だが、星垂さらに続ける。
「30回ぐらい落ちてようやく取ったらしいわよ……」
「日本の道は、私には狭すぎる」
「絶対に公道を走らせちゃダメなヤツじゃない……」
呆れる玲奈に首を縦に振って同意するアリス。
「私は色仕掛けで一発合格!」
Vサインでポーズを決める夢子だったが、一同のリアクションは冷ややかだった。
『いや、実力で取った霧香の方がマシでしょ!』
玲奈、アリス、星垂が同時にツッコむ。
「なによぉ! で、他の娘はどうなのよ?」
一度はむくれるも、気をとりなおして話題を戻す夢子。
「私は原付きだけね。昔、身分証的な意味で取ったの」
そう言って免許証を見せる羽月。
「私は……、その……」
「お母さんは昔、その、セクハラ的なヤツを受けて思わず……」
「いるんだ、そういうの……」
口ごもる火織をフォローする小夜子。
それを聞いた星垂がなんとも言えない顔をする。
「紗由理は? あの娘はどうなの?」
「私達と違って魔女の紗由理は人間という分類に入るからな。運転免許どころか教員免許に医師免許まで持っているだろ? 伊達に長くは生きていないぞ」
「ナルホド……」
霧香の説明に、話を振った夢子も納得する。
「あの、すいません。無理言っちゃって」
上沢市への帰路につく、エリスの運転するミニバン内で達郎が申し訳なさそうに言う。
姉の件が看過できないのか、エリス達が帰る間際に上沢に戻って協力したいと言いだしたのだった。
「エリス姉、疲れたんなら僕が運転代わるよ?」
「そうね。なんなら私も運転できるし」
エリスに気を使う余白とレイカ。
「大丈夫、大丈夫だから話しかけないで」
その返事に、いっそう不安になる一同。
「?!」
『えっ?!』
突然、急ブレーキをかけるエリスとそれに驚く、同乗者達。
「エリス姉?!」
「いいえ、何かが飛び出して来たの! 私も見たは!」
状況を説明するレイカ。
「また、ピエロマスク?!」
交通量の少ない夜道で、エリスのミニバンを包囲するピエロ達。
暗がりに浮かぶ、その白い顔はなんとも不気味だった。
「10人、昼間の倍いるよ! エリス姉!」
「上等よ!」
威勢よく車から出るエリス。
「強行突破じゃないんだ……」
と、呟くレイカ。
「タイヤをやられたら動けなくなっちゃうでしょ? それにまだ、ローンが残っているのよ!」
エリスの口調から、車を壊されてたまるか、という感情が伝わってくる。
「全員、大鎌をもってる?!」
余白の言葉どおり、ピエロマスク達は全員、美幸の人造人間と同じ装備で身構えている。
「先手必勝だ!」
レイコが叫ぶと同時に、ピエロマスク達の四方八方から鱗粉できたナイフが襲いかかる。
ある者は大鎌で、またある者は取り出した呪符でその攻撃に対応するが、何体かは倒され、そのマスクがはずれる。
『え?!』
マスクの下から出てきた顔を見て、一同は驚愕する。
「姉さん……。なんで?!」
そこには達郎の義理の姉、美幸の顔があった。
「余白、レイコ、マスクを狙える? コイツラの素顔が見たいの!」
「わかったよ!」
「まかせな!」
2人が木の葉と鱗粉で残るピエロのマスクを剥ぎ取っていくと、その全ての素顔は美幸のモノだった。
「姉さん……。いったい……」
一同の中でも、特に困惑する達郎。
「なに?! 羽音?」
突然、耳をすますエリス。
確かに彼女の言うとおり、羽音のようなモノが近づいてくる。
そして、急降下気味に車の進行方向に降りてくる、1人の黒いカラスのような翼が生えた少女。
見た目は10代後半くらい。
その少女が達郎を見ながら口を開く。
「久しぶりだね、タッくん」
「その呼び方……。姉さん?!」




