嵐の前の
「そんな事が……」
人妖機関、宮土支所の一室にてエリスはアリスの報告を、由利歌に伝えた。
「元々負担の大きな職場ですから、突然辞める人に違和感を感じる事はありませんでした。ただ、超人機関という存在を知った今だと、別の見え方ができてしまう」
真剣な眼差しのエリス。
「ただこのリストだと、妖や非戦闘員も混ざっているわね」
「目くらまし、なのではないでしょうか」
エリスの意見を聞いて、眉間にシワを寄せる由利歌。
「目くらましにしては、ちょっと多い気がするのよねぇ。何か別の意図とか狙いがあるのかも。ヘルハウンドの言うとおり、彼女が色々と調べてから12年経って、方針なり状況なりが変わってる可能性もあるわ」
由利歌の指摘を受けて、ヘルハウンドの言葉を思い出すエリス。
『質と量を両立させようとしている』
という、エリス達が戦った、人造人間に対する感想。
「とにかく、先ずはこの人物ね。他の支所や支部も調べるように支持を出しておくわ。あと、原口達郎くんは監視を兼ねた護衛をつけておくわ」
「何で今頃、達郎くんを狙ってきたのでしょうか……」
「狙ったのが達郎くんとは限らないわよ? 走矢くん護衛を減らすために、地元から離れた貴女達を狙った可能性だってあるわ。他にも人造人間の実戦テストとかね」
由利歌の並べた仮説を聞いて、息をのむエリスだった。
「よお、久しぶり」
人妖機関、第18支部内の収容エリア。
そこに囚われていた虚空のメンバー、九骸の元を訪ねてくる人物、《村田 厚。
気軽に声をかけてくる彼に、九骸は嫌そうな顔をする。
「あんたか。人妖機関の所長をやっているって聞いてたけど、本当だったんだな、虚空。おっと、今の発言は不味かったか?」
「気にするな、ここでの出来事は全てオフレコだ」
「つまり俺を消しても……」
「当然、オフレコだ」
そう言ってからかうように笑う村田厚こと、虚空。
「で、本当になんの用だ?」
「いや、特に用事はない」
「なんだそりゃあ……」
呆れる九骸だったが、ふと何かを思い出しその話題をふる。
「そういやお前のところの副所長、蘭堂って言ってたけど、もしかしてあの蘭堂なのか?」
という質問に
「いや、知らないな? 誰だそれ?」
「おいおい、蘭堂家といえば、霊体クローンを作り出した一族だぞ? その後、人妖機関に粛清されて一族はちりぢりになって、その技術も失われたとされているが……」
霊体クローンとは増やしたい人間の細胞から核を作り、それを別の人間に埋め込む事であらゆる情報を上書きして、元となった人間のコピーを作るというモノ。
「情報の上書きによる増殖。人妖機関はこれを禁呪として封印した。この時、霊体クローン技術を生み出した蘭堂は全滅したはずなんだが……」
「蘭堂って言っても、全員が粛清対象になったわけじゃないだろ? 霊体クローンを生み出した分家が始末されただけで、本家や他の分家は関わっていなかったっていうじゃないか」
「いつからそんなにピュアになったんだ? そもそも霊体クローンの発案者は本家の方だって言われてただろう? むしろ、本家が主導で行っていた研究だなんて噂があったくらいだからな。粛清された分家は本家に罪をなすりつけられたってことだ」
その日の夕方。
病院の騒動で取り調べを受け、クタクタになって帰ってきた走矢は、自宅の様子がおかしい事にきづく。
「なんだろう、この音? 2階から?」
「2階の連中が、何かやってるのかしら?」
そう言って玲奈が足早に2階に上がっていく玲奈、それを追いかける走矢と河童姉妹。
「なに?!何なのこれは!」
先に上がった玲奈の悲鳴をきいて、あわてて駆け上がる走矢達。
そこには屋根裏を部屋に改造している深完とケルベロスが居た。
「おかえりなさい、走矢くん。ごめんね、今ちょっと手が離せないの」
「そうじゃなくって、一体何を……」
「走矢くんを守るのに、同じ家に住んだ方が守りやすいから。私は空亡を感知できるし」
深完は髪をかきあげながら、ポーズを決めて説明する。
「空亡はまだこの街にいるわ。油断しない事。そしてもう1つ。あのトレントの毛細根が街中に張り巡らされているわ。こっちも要注意ね」
走矢は工場での戦いを思い出し、身震いする。
「準備はいい? 今夜で決めますよ?」
走矢の自宅を遠目に見ながら、トレントが言う。
「こっちはOKだけど、仕掛けるタイミングはだいじょうぶ? クライアントの方も独自に動くみたいだけど?」
「やらせておけばいいでしょ。人造人間とやらのお手並み拝見です」
「頭数に利用するわけね」
トレントの言葉をチュパカブラが補足する。
「えっ?! どういう事なの?」
部下からの電話で報告を受けて、声を荒らげる由利歌。
『その〜、出どころは不明なんですけど、この間暴れた妖は空亡で、佐伯走矢を取り込むと完全体、と言う情報が出回っているようなんです』
「すぐにその情報の出どこを調べて!」
走矢と空亡の関係について秘密にしておくよう、根回しをしていた由利歌。
おそらく、この情報の漏えいは超人機関によるもの。
「エリスさんが聞いたら、ただじゃ済まないわね」
由利歌は1人、ため息をついた。




