人造人間
「これが、人造人間……」
生気のない顔、焦点の定まらない眼差し。
彼女がまともな状態ではない事は、誰の目にも明らかだった。が、
「ねえさん……」
フラフラと義理の姉、美幸の元に近づいていく達郎。
「駄目だ、タツ!」
怒鳴りながら達郎を羽交い締めにするレイコ。
「これが狙いで、彼女を送り込んてきたの?!」
レイカは羽を広げて鱗粉を撒き散らすと、それが無数の目を形作る。
本来ならこれで美幸達の動きを止められるはず、なのだが美幸は目の効果を全く受けず、余白の鎖を引きちぎり、達郎めがけて大鎌を振り下ろす。
「くっ!」
咄嗟にレイカは、目を使って達郎を操り、大鎌を回避させる。
「コイツラ、目が見えてないの?! 視覚情報以外で私達を補足している! レイコ、選手交代よ。彼は私が見るから、貴女の鱗粉で対処して!」
「まっ、待ってください……」
「達郎くん、お姉さんの亡骸を傷つけたくないのはわかるけど、本当にこのままでいいの? 死んだ後も彼女は何者かの操り人形として使われるのよ?」
エリスの言葉に口ごもる達郎。
そして残りの4人も本格的に戦闘態勢に入る。
2人の男性らしき人造人間は、美幸と同じように自分の手のひらから日本刀と槍をそれぞれ出現させる。
残る2人の女性の1人は弓を、もう1人は呪符を取り出して構える。
「手段は選んでられない。全力でやるわよ!」
そう言ってエリスは自分の左手を咬み、リミッターを解除する。
「ねぇタツロー、伊崎家は呪符を使う流派だよね? 大鎌ってなんか変じゃない? タツロー?」
達郎に疑問をぶつける余白。
しかし、達郎は呪符を構えた女性の方を見て、固まっていた。
「タツロー、なにボーッとしちゃってんの?」
「余白……。姉さんの左手には修行の時に付いた傷が有ったんだけど……」
達郎の視線の先、呪符を構える女の左手には確かに傷のような物が確認できた。
「なに? どういう事?」
「これは推測なんですが、彼らの目的は殉職した職員の再生じゃなくって、パーツを組み替える事で、より強力な戦士を作り出すって事なのでは……」
「より強力な戦士。つまりそれが、超人って事かしら……」
「おそらく……」
呪符を持つ左手を凝視しながらエリスの言葉を肯定する達郎。
「来るわよ!」
レイカの言葉どおり、美幸と日本刀、槍を持つ男2人が向かってくる。
「エリス姉、気をつけて! 術の中には呪文や手印の代わりに特定の武器とか器物を用いる事で、術を完成させるものがあるんだ。大鎌なんて変わり種、先ずソレを警戒したほうがいいよ」
「わかったわ」
そう言って美幸を迎え撃つエリス。
大鎌を当たらないギリギリのまで後退してかわした後に、懐に飛び込むという作戦。
しかし、大鎌に触れていないはずなのに、体中の力が抜け、両膝を付いてしまう。
「これは……」
一気に体力を奪われた様な感覚のエリスは、迫りくる次の一撃を、飛んでかわす。
「あの攻撃の延長線上にいると、効果を受けるみたいね」
上空にかわしたエリスは、そのまま飛び蹴りを繰り出し、美幸を蹴り飛ばす。
「先ずは動きを止めるよ!」
「おうっ!」
余白が木の葉を鉄の鎖に変化させ、レイコも鱗粉で鎖をつくりだすと、向かって来る敵2人を拘束する。
それと同時に弓を出した女が、矢をつがえる様なポーズを取ると、そのつがえた辺りで、大気が渦巻き矢の形になる。
「まずい、避けるよ!」
余白に言われるまでも無く、レイコは回避も防御もできる状態だった。
レイコに向かってきた渦巻く矢を、余裕を持って回避する。
「また来る!」
余白の言葉どおり、すでに次弾の発射体制の状態で、コチラに狙いをさだめていた。
「ヒャア!」
悲鳴のような声をあげて回避する余白。
そして女は3度目の発射体勢に入る。
しかし、今度は女の手元に渦が出現していない事に気づく。
「上よ!」
と、注意を促すレイカ。
彼女の言葉に従い、上の方を見ると、大量の渦巻く矢が出現しており、回避は絶望的な状況だった。
「くうっ!」
何とか木の葉と鱗粉で対応しようとする2人。
しかし、その攻撃は成立しない。
回り込んできたエリスの横蹴りで、弓を持つ女はなぎ倒され、地に伏す。
「残り3人!」
そう言って呪符を構える女と対峙するエリス。
「こっちも行くよ!」
余白がそう言うと、男達を縛りあげていた鎖が強い力で締めつける。
「さっきは逃げられたからねぇ」
そう言って余白は、さらに鎖を追加する。
「土に帰んな、職員さん達……」
レイコの言葉どおり、男達はバラバラになって、地に落る。
一方、エリスは呪符を使う女と戦闘中。
放たれた呪符の攻撃を交わしながら接近戦に持ち込むが、思わぬ反撃に苦戦していた。
エリスの拳打を呪符でうけると、その次の瞬間呪符は爆発してエリスにもダメージを与える。
「嫌な防御方法ね」
そう言ってひと呼吸置くと、目にも止まらない速さで猛攻を仕掛けるエリス。
呪符による防御やカウンターが間に合わず、エリスに押し切られて地面に横たわる。
「これで全部片付いた!」
安堵する余白。
そして、エリスが最初に倒した、人造人間、美幸。
横たわる彼女の前で、泣き崩れる達郎の姿があった。




