達郎の後悔
「もうそろそろね」
とある小さなスーパーの前で、時計を見ながら話すエリスがいた。
「真面目なのはいいんだけど、待つ必要ある?」
愚痴る余白をエリスがなだめる。
原口達郎は知っている事を全て話すと誓った。
ただ。いきなり仕事に穴を空けるわけにはいかないと、今日の仕事が終わるまで待ってくれと嘆願し、エリスはソレを聞き入れた。
「なぁ、達郎が世話になったっていう伊崎家ってどんな所なんだ?」
「術師の家系よ。流派としてはそんなに大きくないわね」
「達郎は術師としての才能がなかったから、裏方の仕事に付いたっていってた」
レイコの質問にエリスと余白が応える。
「タツローは裏方みたいな仕事がメインで、同じ非戦闘員の新矢兄と仲が良かったんだ」
「なぁ、達郎の両親が殺された事件なんだけど……」
「達郎くんが友達の家でゲームに夢中になっていて、家に帰ってくるのがだいぶ遅くなったそうよ。両親に怒られると思って、ビクビクしながら玄関のドアを開けたら凄惨な光景で……」
話すエリスの口調もトーンダウンしていく。
「もし、いつもどおりの時間に帰っていたら、達郎も……」
「殺害状況から犯人は何らかの超常手段を用いたって事で、人妖機関の管轄になったみたい」
そして、この話を横で聞いていたレイカの表情が険しくなったのを、エリスは見逃さなかった。
「待たせてしまって、すいません」
スーパーでの仕事を終えた達郎が落ち着いた様子でエリス達の元に近づいてくる。
「場所を変えましょう」
一同は達郎の言葉に従い、移動する。
「この辺りは古い住宅地でして、若い人が出ていって、せっかくの公園もご覧の有様……」
達郎に連れてこられた公園は、確かに人気の無い、無人の状態だった。
「ここなら人に聞かれることも無いし、言いづらい事も言いやすいって事ね?」
エリスの問いに沈黙で応える達郎。
「単刀直入に聞くわよ? アンタ、超人機関にどこまで関わっているの?」
「ちょっ、それじゃあまるで達郎が……」
「レイコ、アンタが達郎くんの事を大切に思っているように、アタシも走矢の事を大切に思っているの。もし、この一件で人妖機関が敵に回るなら、アタシは躊躇なくソレと戦うわ」
この、エリスの覚悟に気圧されたのはレイコだけでは無かった。
レイカも余白もエリスの覚悟を知り、成り行きを見守るにとどまる。
「新矢さんを説得したいから、話し合う場を設けてほしい。そう言われたんです。それが、あんな……」
ワナワナと震えだす達郎。
「姉さんが殉職してすぐに僕に接触してきました。アイツラが……」
「超人機関が、って事でいいのね」
エリスの問いかけに、静かに首を縦に振る。
「協力すれば姉さんを生き返らしてやるって……。僕はそれにすがってしまった。死んだ人間が生き返る事なんて無いのに! 奴らの差し伸べた手を掴んでしまったんです!!」
放つ言葉に怒りと後悔の感情が乗る達郎。
「それで、アンタに接触してきたっていう人物って何者なの?」
「…………。僕に接触してきたのは、三宅 則夫と里田 幸夫です」
『?!』
それはエリスと余白が知る、人妖機関の職員だった。
「でもその2人は……」
「ええ、どちらも10年ほど前に殉職してます」
言いかけた余白に代わって、達郎が結論を出す。
「口を封じられたって事?」
「そうと決まったわけではありませんが、僕はそう考えてます。そして僕が無事なのは、その2人以外に超人機関員を知らないからだと……」
達郎は、エリスの疑問に私見を述べる。
「機関を辞めたのはそれが原因?」
「…………。それもありますが、それだけではありません……?!」
続く、エリスの質問に答えようとした達郎だったが、公園内の違和感に気づく。
いつの間にかエリス達の周りを、ピエロの様な仮面を被った、男女5人に囲まれていたのだ。
「なんだ、コイツラ?!」
驚きの声をあげるレイコ。
「いくら話に夢中になってたからって、ここまで接近を許すなんて!」
「むしろ人気には気をつけていたはずよ。秘密の話をしているんだから……」
余白とレイカにも緊張が走る。
「くるわよ! レイコは達郎くんを、残りは一点突破で包囲網から出るわよ!」
エリスはそう言うと、包囲する5人の内の1人を目配せで指し示し、レイコ以外の3人で一斉に攻撃する。
最初にエリスの飛び蹴りが見舞われるが、ターゲットの人物は、自分の手のひらから死神の持っているような大鎌を出現させ、相打ち狙いのカウンターを仕掛けてくる。
「くっ?!」
咄嗟に翼を羽ばたかせて、大鎌の軌道から逃れるが、飛び蹴りひ不発に終わる。
「まだまだ!」
余白の手から木の葉が連なって伸び、ターゲットに巻き付いて鎖に変化して拘束すると、エリスに代わってレイカが飛び蹴りを命中させる。
そのまま地面に倒れるかと思いきや、ギリギリの所で踏ん張り、持ち直すターゲット。
ゆっくりと上半身を起こすが、その顔からはピエロの仮面がはずれていた。
「えっ?!」
「そんな、まさか……」
エリスと余白がその素顔を見て、驚きの声をあげる。
「ねぇ……さん」
それは達郎の義理の姉、伊崎 美幸の顔だった。




