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2人の母親

 呉夫の工場にて、走矢は混乱していた。


 桜とトレントの会話に出てきた桜花と走助の名前は、当然走矢にも聞き覚えがあった。


 妖の母と俊紅の息子という組み合わせは、自分とエリスの関係と容易に重なり、その話の結末に何度も涙した。


 先ほど交わされた桜たトレントの会話から、桜があの桜花の生まれかわりで、自分がその息子、走助の生まれかわりであると言う事になる。


「混乱しているようね、走矢くん。さっきは色々と端折(はしょ)って説明したけど、たぶん今、貴方の考えているとおりよ」


 背後から励ますように、走矢の肩に手をかけるバックベアード。


「ベアードさん……。じゃあやっぱり、俺の前世は『桜花と走助』の走助で桜の前世は桜花?」


 バックベアードは静かに首を立てに振る。


「空亡の事は無視するわけにはいかないけど、それ以外の前世の話は忘れてしまいなさい。過去の事は忘れて、今世を精一杯、生きるべきだわ」


 『前世の分まで(走助の分まで)』と、言いかけたバックベアードだったが、その言葉は口に出さずに飲み込んだ。


(今世を精一杯生きろと言っておいて、前世の分を持ち出すのは野暮よね)


 そんな思いを巡らせるバックベアードの耳に、羽音が入ってくる。


「来たわね」


 そう言って、桜が空けた天井の穴を見上げると、コウモリの翼を羽ばたかせたエリスが舞い降りて来る。


「母さん……?!」


 再会を喜びかけた走矢だったが、次の瞬間には銀髪をなびかせたエリスの頭部が自分の腹にめり込んでいることに気づく。


 着地と同時に、走矢に頭から突っ込んでいったエリス。


 そのままに母子共々、ゴロゴロと転がり、止まった時にはエリスが走矢を自身の翼で包み込む、シェルター状態で横倒しになっていた。


「|ほんほほにほのほは、ほほひひはひはひはひはんはひはははへふほほ《本当にこの子は、この短い間に何回さらわれるのよ!!》!!」


「なんかエリちゃん、甘噛みしながら怒ってない?」


「禁断症状でも出てるんじゃないの? エリスさん」


 エリスの暴走甘噛みモードを目の当たりにして、直と春香が呆れかえる。


「小夜子!」


「良かった、無事だっんだな」


 エリスに続いて天井の穴からレイカに霧香、他の収容組の面々が入ってくる。


「ちゃんと出入り口あるのにね」


 リーダー格の栄子がリャナンシーたちにブチ破られた出入り口を見ながら呟く。


「エリスちゃん! 走矢ちゃんも無事だったのね!!」


 続いて天井の穴から、リリス、アリス、理奈、玲奈が舞い降りる。


「またシェルター……」


「ちょっと姉さん、やめてよ! 恥ずかしい……」


「いあなぁ……。今度機会があったら……」


「母さん、変な事考えないでよね!」


「しょうがないわねぇ」


 リリスはそう言ってエリスに近づくと、彼女の翼の付け根と付け根の間を指で突いてみせる。


 すると、エリスの翼が一瞬、ビクンと痙攣したかと思うと、バサリと広がり、シェルターが解除される。


「変わらないわね、エリスちゃん。昔からここを突かれると羽が開いちゃうの、この子」


 そして、母の手によって晒されたエリスの顔は、泣き腫らしたようになっていた。


「ごめんね、この子。過去に大切な人を突然失う経験をしたせいで、前回も今回も、走矢ちゃんが居なくなった時、その時の記憶が()ぎっちゃったのよ」


 リリスの言葉に、当時を思い出したのか走矢を抱きしめる力が強くなるエリス。


 そんな母に体を寄せ、泣いている姿を隠そうとする走矢だった。


「あっ!」


 そんな中、声をあげるリーダー格の栄子。


 彼女が見ていた出入り口から、1台の自転車が突っ込んでいききたのだ。


「とうちゃ〜く!」


 自転車を運転していた雪那が告げる。


「ありがとうございます!」


「ご子息殿〜」


「走矢、ホントに無事でよかった!」


 雪那の後ろに乗っていたルリとリル、そして前カゴに器用に乗っていた余白が自転車から飛び降りる。


「自転車の4人乗りって……」


 と、呆れる春香。


 仲間達の到着で騒がしくなった工場内。


 そんな喧騒の中、走矢は何者かの視線を感じ、その方向を見ると、そこには何やら勝ち誇ったドヤ顔のラードンがこちらを見つめていた。


「なんだ? 随分と(にぎ)やかだな……」


 壊れた出入り口から新たに入ってきたのは72使徒のバエルだった。


「どこに行ってたのよ? わりと大変だったのよ?」


「勘違いするな。お前たちの仲間になったわけではない。あくまでも空亡に対抗するため、一時的に手を組んだだけだ」


 バックベアードの言葉に冷たく返すバエル。


「そういや、あの子(走矢)の父親を殺した奴について、72使徒も何か情報を持っていないのか? アガレスって奴はチュパカブラ達の事を知ってたぞ?」


 72使徒の隠れ家での戦闘後、コッソリ隠れてやり過ごしたボーイッシュな栄子だったが、その時アガレスと八重子の会話を聞いていた。


「佐伯新矢か。たしか当時、彼をマークしていたのがヘルハウンドだったな。彼女なら何かにしっているかもしれないが……? なんだ? その顔は?」


 目線を下に向けてバエルの顔を見ないようにしているバックベアード。


「ヘルハウンドなら虚空との戦いで死んだぞ」


 ケルベロスがぶっきらぼうに言う。

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