戦い終わって
「ソロモン72使徒筆頭のバエル殿。彼女だけは我々の手で討たなくてはなりません。言うなれば彼女はソロモン王のプロトタイプと言っていい、最も王を脅かす存在なのです」
72使徒から離れたヴァサゴ一味。
そのヴァサゴがバエルについて語る。
「我々72使徒全員ではありませんが同等、もしくは類似する力を彼女は使えます。仕掛ける時は我々3人と彼女1人という状況を作る必要があります」
「私達3人であのバエルに勝てると思ってるの?」
「難しいですがやるしかありません。それが我々に与えられた使命なのですから」
ヴァサゴの回答にブネはため息をつく。
「戦いの気配が収まりましたね。戦闘が終わったようですが、どちらが勝ったのやら」
走矢と小夜子を乗せ、逃走中のラードン一味。
ラードンは空亡との戦闘が一段落ついた事を感知し、結末を予測する。
「うおっと、危ない……」
突然大声を出し、急ブレーキをかける房士。
フロントガラス越しに車の前方を見ると、黒いドレスの女が立っており、その女が有無を言わさずが車内に入ってくる。
「かなりいいところまで追い詰めたんだけど、逃げられたわ」
黒いドレスの女、バックベアードは戦いの結末を伝える。
「何だったの、アレ?!」
遠目に空亡を監視していたチュパカブラ、リャナンシー、トレントの3人組。
その中のリャナンシーが残りの2人に問いかける。
「わかるわけ無いでしょ、アレが何なのかなんて。ただ、1つ言えるのは、アレも俊紅の子を狙っていたって事」
「そしてアレのせいで、私達の計画が台無しになったって事。せっかく偽の情報で上沢高校の連中を散らしたのに、なんだか裏目に出てしまいましたねぇ」
そう言ってチュパカブラとトレントはため息をつく。
「とにかく、ターゲットの彼が身を隠してしまったみたいですし、まず彼を探し出さないと。リャナンシー、貴女の手駒に探させてください。私も情報筋に当たってみます。暗殺計画もだいぶ内容を変えないといけませんね」
「そんなに簡単に見つかるかしら」
「アレから逃げられたのは協力者がいたからです。関わる者が多ければ多いほど、情報というのは漏れるもの。必ず痕跡は残っているはずです」
そう言われてリャナンシーは、トレントの案に渋々従う。
「それで、引き下がってきたの?! アイツが今、空亡を持ってるんでしょ?」
上沢市内の喫茶店にて、蠱毒の姫と同じテーブルに座る虚空の御神楽 蓮美が声をあげる。
「じゃあなに? 戦って奪ってこいとでも言うの? 言っとくけどアイツ、私やアンタより強いわよ?」
蠱毒の姫の反論に言い返せず、押し黙る蓮美。
「まぁ、もしやるなら他の連中にも声かけとかないとね」
蓮美の隣でオレンジジュースを飲んでいた鈴禍が話に入り込んでくる。
「と、言っても、九骸と灰は捕まってて、葬魔と火頭魔は連絡が取れない。やるならこのメンツでやるしかないわね」
「もしくは人妖機関にアイツの情報を流すとか」
蠱毒の姫の言葉に、鈴禍が別の案を出す。
「死人が出なかったのは奇跡ね」
空亡の襲撃を受けた上沢高校にて、負傷者の救出と治療が行われていた。
「放課後だったのと、機関の非戦闘職員と夢子が上手く残っていた人達を誘導してくれたからね」
手当を受けた紗由理が由利歌に状況を説明する。
「走矢が支部に着いてない?! よく探してくれ、間違いなく第18支部に向かったはずなんだ!!」
「落ち着きなさい! 街も混乱状態で正確な情報が得られないのよ」
声の主の桜が18支部と連絡を取っている職員に掴みかかるのを、春香が制止する。
「まさか私達の留守中に、こんな襲撃を受けるなんて……」
半壊した旧校舎を前に、玲奈が呟く。
チュパカブラ達の流した偽の情報により、分室を留守にしていた玲奈達も、走矢の行方が掴めず動揺していた。
「今回得た情報は、信頼できるところから得たものだったんですけど……」
「偶然か、この状況を作るための嘘情報だったのか、調べてみた方がいいわね。裕翔くん、ちょっと付き合ってもらえる?」
玲奈達が留守留守にした経緯を説明する神崎 裕翔。
由利歌はその情報の出どこに興味を持ったようだ。
「あれ? エリちゃんは? 真っ先に戻って来てたのに」
「支部に逃したって言ったら、飛び出していったわ」
直の疑問に答える咲花。
「走矢くん……。小夜子……」
「火織、彼から貰った俊紅だ。私達は飲んだから残りは君が使え」
霧香はそう言いながら、俊紅の入った小瓶を渡す。
これは紗由理が桜に渡した物とは別に持っていた物だ。
「ありがとう、でも……」
火織は罪を犯し、人妖機関に収容されている身。
決して自由に敷地外に出られる立場ではない。
「早川由利歌、小夜子を探しに行きたい。全員でなくてもいいから外出許可を貰えないか?」
「いいわよ、全員で探しに行って。もちろん、走矢くんもね」
襲撃者の狙いが走矢である可能性が高い以上、彼の捜索は最優先。
由利歌が外出許可を出さない理由はなかった。
「ありがとう、霧香」
そう言って火織は真紅の翼を広げる。
「俺もいく!」
桜も走矢の捜索に名乗りをあげ、ピンク色の翼を広げる。
「待ちなさい、18支部方面の捜索は火織さん達で十分よ。私達は別の方向性から走矢くんを探しましょ」
「別の方向性?」
春香の提案に直は首をかしげる。
「もし、小夜子ちゃんが走矢くんを連れて飛んでいったのなら支部かその付近についているはずよ。それがなかったと仮定すると、小夜子ちゃんが飛んでいく途中で攻撃を受けたって考えられるわ」
「じゃあ、走矢は歩いて支部に?」
と、咲花。
「走矢くんが小夜子ちゃんを見捨てるとは考えられないから、タクシーを拾うか小夜子ちゃんをおぶって行くか。もしおぶって行くとしたらちょと現実的じゃないから、どこかに隠れてやり過ごすとか。とにかく、彼の目線で追っかけるから飛ぶより歩く方が情報を見落とさないかも」
そして春香達は攻撃を受けた小夜子の血痕と、それが途中で消えている事を発見する。




