空亡vs蒼水
「あれが蒼炎の敵、空亡……」
蒼水の横で少女を見上げるもう1人の少女、リュカ。
蒼炎と蒼水の父、蒼元が創り出した式神で当時、体の弱かった蒼水が受け継いだ。
『もし、お前を受け継いだのが兄上だったら、死なずにすんだかもしれないな……』
リュカと2人っきりになると、蒼水はよくこの話をした。
「ゆくぞ、空亡を討つ」
蒼水の言葉を受けて、リュカは蒼い渦へと姿を変える。
その渦を右手に纏い、空亡を指差すとその右肩が吹き飛ぶ。
「これは……」
「どれほど強力な妖力を持っていようとも、この力はソレを無効化する」
右肩が吹き飛んだにもかかわらず、表情1つ変わらない空亡。
次の瞬間、蒼水の周囲に大量の金平糖が現れ、その身体を刺し貫こうとするが、オルトロスの2倍の時間の流れを使い、出現を感知してから全て回避してみせる。
そして今度は、蒼い渦から5本の光が放たれ、空亡の残った左手と両足、胴体と頭部を貫く。
『やった?!』
「いえ、まだです。と言うかここからが本番です」
そう言って空亡に向かって大量の呪符を放ち、それらは鳥に姿を変えて少女の姿の空亡に群がる。
「そのままに何もしないつもりですか?」
手印を組みながら挑発する蒼水。
何事もなければこのまま封印が完成するはずだが……。
空亡の妖力が更に高まり、鳥の式神を全て消し飛ばす。
そこには少女の姿のは無く、空間がバックリと口を開き、巨大な眼球が蒼水を睨みつける。
「もしかして怒っているのですか? 奇遇ですね、私もですよ!」
蒼水の蒼い渦は水流の様に勢い良く、空亡に向かっていく。
ソレが直撃しても微動だにしない空亡。
しかし新たに放った狼の式神達が五芒星を描くように陣取り、封印の体勢に入る。
しかし空亡のその瞳が輝いたかと思うと、閃光が蒼水の右肩を貫いていた。
「早い……」
右肩を負傷した事で蒼い渦から放たれていた水流は止まり、それで余裕ができたのか空亡は蒼水を貫いたのと同じ閃光で、狼の式神達を全て撃ち落とす。
「リュカ」
『わかってる』
そう言って取り出した呪符を負傷した右肩に貼り付けると、蒼い渦は蒼水の右手から左手に移る。
「この応急処置で、とりあえず右手も使えます」
印を組み、再び水流を放つ蒼水。
空亡も目から放つ閃光で応戦するが、蒼水の前方に出現した蒼い結晶の壁に阻まれる。
空亡は再び、蒼水の周辺に金平糖を出現させるが、彼はそれにも対応し、回避してみせる。
が、今度の金平糖は棘を蒼水に向けて発射し、追撃をする。
「なるほど、2段構えというわけですか」
手足をカスめながらも避けきる蒼水。
その時、閃光を防いでいた結晶に亀裂が入り、砕け散る。
「ここですね」
動揺することなく、言い放つ蒼水。
それと同時に、結晶が蓄えた閃光が収束し、空亡目掛けて放たれる。
砕け散る結晶より放たれた閃光は、空亡の閃光を押し返し、貫く。
「秘儀、五星封印」
蒼水の宣言と共に、水流は5つに分かれ、5方向から空亡に襲いかかり貫く。
5つの水流がつけた傷が結ばれ、五芒星を描くと、それが空亡を押し潰していく。
「これで終わりだ!」
珍しく声を荒らげる蒼水。
しかし、その背後にまた、金平糖が出現する。
「無駄なあがきを……」
棘が飛んでくる事まで計算して、回避行動をとる蒼水。
しかし、飛んできたのは棘ではなく、閃光だった。
「なに?!」
動揺する蒼水の脇腹をえぐり、貫通していく閃光。
一方の、蒼水の背後では空亡が五芒星に押しつぶされて、跡形もなく消え去っていた。
そして、閃光を放った金平糖は、ボロボロと外装がはがれ落ち、空亡の目玉が現れる。
「これは、いったい……」
動揺を隠せない蒼水。
『来るよ! 対応して!!』
リュカの言葉どおり、空亡は閃光の発射体勢に入っていたが、放たれたのは拡散した閃光だった。
「くっ?!」
咄嗟に結晶の盾を出して防御するが、急所を守るので手一杯で、手足を撃ち抜かれる。
「最後の金平糖は攻撃ではなく、ガワを捨てて逃げてきた姿だったと言うわけですか」
地に伏した状態で空亡を睨みつける蒼水。
「リュカ、最期の手を使います。せめて相討ちに持ち込めればいいのですが……」
蒼水の言葉を受け、左手の式神も覚悟を決める。
しかし、そんな蒼水の目の前で、巨大な瓦礫に空亡が押しつぶされる。
「先客が居たのか」
空亡を押し潰した瓦礫で作られた九頭龍。
その上から見下ろす72使徒筆頭、バエルの言葉だった。
「そりゃ、あんなのが現れれば色々な手練が集まってきますよ」
そう言って、いつの間にか蒼水の背後に立っていた連条 灰は、超高熱の灰に姿を変えて、九頭龍を押し返して逃れようとする空亡に襲いかかる。
「これは?!」
蒼水が何かを感じ取って何も無い虚空を睨むと、そこに金平糖が出現すると、先程と同じ様にその中から新しい空亡が現れる。
「脱皮……。いえ、コピーを作る能力といったところでしょうか?」
「なるほど、これは厄介ですね」
灰はそう言うと、灰の塊に姿を変え、そこから黒いドレスの女へと姿を変える。
「ここからは、このバックベアードが相手だ」
そう言い放つと、バックベアードと名乗った女の周辺の空間がいくつも裂け、まぶたを開くようにいくつもの目玉が現れる。
「食らえ」
バックベアードの言葉と同時に、開いた全ての目玉から空亡と同じ様な閃光が放たれる。
一斉攻撃を受ける空亡。
しかしバックベアードも蒼水、バエルもソレには興味が無く、新たな空亡の出現位置を探していた。
「捕えた」
蒼水が呟くと、五芒星に捕らえられた状態の金平糖が現れる。
「網を張っていたのか」
バエルが呟くと、九頭龍は龍脈のエネルギーを吸い上げ、9つの口からそれを吐き出す。
「伊達に攻撃を食らってはいなかったのね」
バックベアードも感心しながらいくつもの目玉から閃光を放つ。
「後から来て……」
途中で言うのをやめた蒼水も水流で攻撃に参加する。
「キュルルギュルルル?!」
人の言葉ではない、ナニカを発しながら空亡は消滅していき、静寂が訪れる。
「ふう〜、回収完了っと」
イチゴジャムのラベルが貼られた少し大きめの空き瓶に、ピンポン玉ほどの大きさの目玉を入れて中年男が呟く。
「相変わらずの物好きね。そんなモノ回収するなんて」
いつの間にか中年男の背後に立っていた、白いワンピースの女が呆れた口調で言う。
「やあ、久しぶりだね。お姫様」
白いワンピースの女性、虚空の蠱毒の姫に笑顔で返す中年男。
「ソイツのせいで街は大混乱よ。人妖機関の内外からも手練が集まって来ているみたいだし。ホント、何してくれてんのよ、虚空!」
「いや〜、空亡の件は大昔の僕に言ってよ。もう、今の僕からしたら他人みたいなモノだし」
「相変わらずの無責任野郎ね。まぁ、関係無いって言うのなら、その物騒な目玉をこっちによこしなさい」
蠱毒の姫が瓶に手を伸ばすと、中年男は必死になってソレを取られまいとする。
「ちょっとぉ、本気なの? 世界を滅ぼしかねないヤバイヤツなのよ?」
「だからこそ色々と調べたいんじゃないか。ああっ、ごめん、また電話だ。なんかいろんなとこから問い合わせとかあって、これから職場に戻らなきゃいけないんだ。じゃあそういう事でまた今度」
「あっ! 相変わらずの逃げ足ね……。しかしあんなのがこの街のの支所長だなんて、人妖機関も終わっているわね……」
そう、蠱毒の姫はため息まじりに呟く。




