絶望襲来
「ここね」
ヴァンパイアの学園を壊滅させた空亡の少女は、上沢高校を上空から見下ろしていた。
刹那、巨大な骸骨が4体出現し、少女に襲いかかる。
「霧香!」
旧校舎の屋上に出た星垂が叫ぶ。
百戦錬磨の霧香が有無を言わさず先制攻撃を仕掛けるのは非常に珍しい事だ。
「敵かどうかもわかんねぇのに……」
星垂を追って屋上に出たレイコが呟く。
「あの妖力の暴れ具合を見れば、普通じゃないでしょ。相当な被害が出ているはずよ?」
そう言い放った星垂もあの少女を敵とみなしていた。
次の瞬間、巨大で鋭利な妖力が放たれ、巨大骸骨達はバラバラになって崩れ落ちる。
「火力を集中して! 戦力の欠けていない初動が勝負よ!!」
「星垂の言うとおりよ。レイコ、やるわよ!」
「わかったぜ、姉貴!!」
レイカとレイコは手を結び、蝶々の羽から鱗粉を舞い上げ、無数のドリルの様に回転するランスを形づくる。
その上空では火織が炎の翼を広げ、火炎弾の発射体勢をとっていた。
「私達は一斉攻撃の直後に、肉弾戦を仕掛けるぞ」
「了解!」
霧香の言葉に応える羽月。
「撃てぇ!」
星垂の号令と共に原口姉妹の無数のランス、火織の火炎弾、そして星垂の炎が一斉に少女に襲いかかる。
「力尽きるまで撃ち続けて! 手を緩めた瞬間に反撃が来る?!」
檄を飛ばす星垂だったが、その途中で力尽きたように倒れる。
『えっ?!』
見れば星垂の背後に金平糖の様な棘の付いた物体が出現し、彼女を貫いていた。
「星垂!」
動揺する羽月の視界の端で、同じ様な物体にレイカが貫かれる。
「姉貴?! くそっ!」
「肉弾戦に移行するわよ!」
火織はそう叫ぶと、抜き取った自身の羽根を2枚、2本の炎の剣に変え、少女に斬りかかる。
火織の行動を読んでいたかの様に、その動きに合わせる霧香、少し遅れて羽月が接近する。
「アレが何なのか、何が目的なのかわからないけど、君は早くここから離れた方がいい」
保健室で休んでいた走矢を叩き起こし、紗由理は逃げる様に言う。
「でもみんなが……」
「今、この分室には収容組と君の同級生以外、まともな戦力が居ない。初撃で倒せなかった以上、最悪の事態を想定しないと……」
「そんな……。血、俺の血だけでも!」
走矢の申し出にため息で返す紗由理。
「君ねぇ、その行為が一体どれだけ君の大切な人を……。って、わかっているんだよね……」
紗由理は手早く注射器を取り出すと。走矢の血を採血する。
「走矢ぁ!」
勢い良く保健室のドアを開け、入ってくる桜。
「ガシャドクロ達がやられた。俺達が時間稼ぐから、早くここから離れろ。小夜子、走矢を頼む」
「走矢さん……」
小夜子自身、火織達を残して逃げる事に抵抗があったが、そこでゴネれば走矢も残ると言い出しかねない。
苦渋の決断で、彼を守るという役目を引き受けたのだった。
「走矢さん、こっちです!」
小夜子に手をひかれ、桜に何か言いたげな顔をしながらその場から離れる走矢。
「なんかズリィ手使っちまったな」
小夜子に走矢を頼む事で彼女に残る選択肢をあたえなかったのと同様に、走矢も小夜子と脱出すると言うことで、逃げざるをえない、状況を作った桜。
もとい、春香の立てた計画だった。
「むしろ最善だよ」
そう言って桜の手に、先程採血した走矢の血が入った小瓶を渡す。
「オイこれ?!」
「ズリィ手を使ったんでしょ? ならこれでアイコにしときなよ」
「けど、これは……」
「賢者の贈り物って話があるでしょ? あの話とは趣旨がずれるけど、君達があの子の事を大切に思っている様に、あの子も君達の事を大切に思っているんだ。その気持ちもちゃんと受けとめてあげなよ」
押し黙る桜。
「行こう、他の娘が待ってるんだろ?」
紗由理は桜と共に空亡迎撃に向かう。
「春香さんから支部に向かうように言われました。今はそこを目指しましょう。掴まってください!」
小夜子は真紅の翼を広げ走矢を担ぐと、低空飛行で移動する。
「高く飛ぶとすぐ見つかるかもしれないんで、これで支部を目指します」
校門を出て少しした頃、何かが膨れ上がるのを感じた。
妖力を感知できない走矢が感じたモノ。
それは大気の圧迫。
「振り向いちゃ駄目です! 飛ばすんでしっかり捕まっててください!」
言うと同時に、金平糖の様な物体が小夜子だけを器用に貫く。
勢いそのままに墜落し、アスファルトの上を転がる走矢と小夜子。
襲撃者の正体も目的もわからないと言うのが小夜子達の事前の認識だったが今、走矢を連れた自分が襲われた事で、襲撃者の目的が彼だと小夜子は確信した。
「走矢さん、逃げて……。襲撃者の目的は貴方……です」
「小夜子ちゃん」
そう言って小夜子を背負う走矢。
「駄目です、走矢さん……。私の事は放っておいて……」
「駄目だ、小夜子ちゃん。駄目だ」
「走矢さん私、走矢さんの足手まといになりたくない……」
そう言って、走矢の背中から降りようとする小夜子。
「足手まといなんて言うな! そんなこと言ったら俺なんて……」
「走矢さん……」
走矢を気遣ったつもりで彼を傷つけてしまったと、自分の発言を後悔する小夜子。
「ごめんなさい……」
走矢の背中で、小夜子は強く彼を抱きしめる。
しかし、この状況が絶望的な事には変わらない。
(偉そうなことを言って、結局何もできないのか……)
そんな彼の前に、1台の軽のワゴンが止まる。
「乗りなさい」
何やら見覚えのある少年が手を差し伸べる。
「早く乗って」
「とっとと乗れっての!」
見覚えのある少年の奥から深完が手を伸ばし、いつの間にか後ろに立っていたケルベロスが小夜子と一緒に車内に押し込む。
「出せ!」
ケルベロスの怒号を待たずに、アクセルを踏む房士。
「あっ、貴方は!」
「その節はどうも」
以前に人妖機関、上沢支所のシェルターにまで攻め込んできた、獣人の房士の顔を覚えていた走矢。
そんな彼に親しげに挨拶する房士。
「色々と言いたいことはあるでしょうが、今は僕達の話を聞いてください。君達を襲ったのは空亡と言う、最も危険な妖です。そしてアイツが君を取り込んだら世界が滅びます。君が世界を、大切な人を守りたいならなんとしてもアイツから逃げきる必要があります」
「あんた、舞ちゃん達の……」
「殴りてぇって言うなら後でアタシも協力してやるから、今は逃げきることだか考えな」
ラードンの正体に気づいた走矢をケルベロスがなだめる。
「来る! 右、左、もう一丁左!」
突然深完が叫ぶと、彼女の言った方向に金平糖が出現し、房士はそれを必死に避ける。
「いつまで続くんですか?!」
「ん? アレは!」
悲鳴をあげる房士を他所に、ケルベロスは軽のワゴンとすれ違う1人の少女に目を奪われる。
「オルトロス?!」
「謎の術師に身体を乗っ取られた、あのオルトロスですか?」
ケルベロスの叫び声に反応するするラードン。
「ああ、間違いない……」
それが妹であると、断言する。
「やっと会えたな。兄上の敵」
空中に浮かぶ、空亡の少女と雨上 蒼水が対峙する。




