空亡という少女
一方その頃、本性を現した空亡によって、上沢学園は壊滅的な状況に追い込まれていた。
「お姉さん、走助の事知ってるんでしょ? 嘘ついても駄目だよ? 私には分かるの。お姉さんから走助の気配がするから」
幼い少女は、愛美の顔を鷲掴みにして、屈託の無い笑顔で問いただす。
最初に少女に向かっていった愛華は倒され、地に伏している。
この場から離れるように言ったあの女子生徒達の安否も気になる。
そして、走助と言うのが誰なのかはわからなかったが、それが走矢の事なのではとう想像は働いた。
「このぉ!」
最後の力を振り絞って、至近距離から羽根弾を見舞う。
しかしそれは全て、少女の纏う妖力に阻まれ、地に落ちていく。
それでも羽根弾を撃ち続ける愛美。
自分がこうしている間、この少女の動きを止められる。
そうしている間に人妖機関が対処する時間を得られると考えていたからだ。
そして、妖力が尽きた状態でこの少女の攻撃を受ければ、自分はひとたまりもないだろうと。
(もしここで私が終わったとしたら……。向こうでシンと再開したら、今度はもっと素直になれるかしら。死んだ後なら死ぬ気で自分の想いを……)
意識が薄れていく愛美。
しかし、何かが少女と愛美の間に割って入り、彼女を救出する。
「大丈夫?! 愛美ちゃん!」
見た目は女子高生くらいのヴァンパイア、この学園の理事長である上沢 エリザが愛美を救出した。
「理事長、生徒と負傷した教員の避難、完了しました」
校長であり、エリザの娘の上沢 ルカが現状を報告する。
この上沢親子以外に10数人の教員のヴァンパイアが学園に残り、空亡を包囲していた。
この場に残ったヴァンパイア達は全員、理事長に認められた実力者達。
人妖機関の支部レベルの精鋭と比較しても見劣りしない者達ばかり。
逆にこの面子で抑えられなければ支部レベルでは対処不能の存在という事になる。
近くに待機していた医療スタッフのヴァンパイアに愛美を託し、空亡を睨みつけるエリザ。
「行くわよ!」
号令と共に、空亡に襲いかかる。
「しかし走矢少年を守ると言っても、我々にできる事なんてあるんですかねぇ」
呉夫の所有する軽自動車のバンに乗り込み、走矢の居る上沢高校に向かうラードン一味と深完。
その中で運転手の房士がボヤく。
「いざとなったらこの車に乗せて逃げるとか。なんにせよ、世界が滅びるかどうかって話なんだから四の五の言わないでアクセル踏んで!」
房士の後ろの席で発破をかける深完。
「呉夫さんは封印兵器の調整をしてからあのキメラ達と一緒に来るそうですが……」
「随分と用意がいいですね。まるでこの日が来るのがわかっていたみたいです」
「そりゃ、こんな日に備えての柚木島だからね」
総士とラードンの疑問に深完が応える。
「私達、柚木島は灰が日本中に作った力場の拠点を管理、守護するために配備されているの。記憶操作はその任務を円滑に行うために与えられた能力なのよ。ま、貴方達にはピンとこないかもしれないけど」
「その柚木島というのは、貴女のようなクグツを配備しているという解釈でいいのですか?」
「いや、私みたいなのはとか別で、ほとんどは灰の分身みたいなのが管理している。私は走助くんの生まれ変わり、走矢くんの身近の柚木島って事でこうなったの」
「日本中に力場を作るとは、なかなかとんでもないことをしますね。一体何が目的なんです?」
「目的は2つ。1つは空亡を監視するため。ずっと姿を消していたアイツを探して、もし動き出したらすぐに感知できるようにしていたの。なんかこの街に突然現れたから意味なかったけど。もう1つは走矢くんを空亡から隠すため」
「それも結局意味無かったというわけですか……」
「いや、意味はあったんだけど……」
ラードンの言葉を遮り深完は続ける。
「走矢くんを守るために、より強力な結界を作ったんだけど、上沢高校に住み着いたオリジナルの浪川 栄子がそれに気づいて灰の分身、と言っても灰で作った人形なんだけど、ソレを取り込んで勝手に使いだしたのよ。私が配備された理由の1つがソレ。で、栄子ちゃんを敵とみなした走矢くんの仲間が結界を解いちゃったのよ」
「それで空亡に、彼の居場所がバレてしまったわけですか」
「そういう事」
最後に総士の言葉を肯定する深完だった。
「なに、このとんでもない妖力は?! エリスちゃん?!」
車でエリスを送ってきた由利歌だったが、上沢の異常を感知し絶句していた。
その横で後部座席のドアを開け、外に飛び立とうと翼を広げるエリスがいた。
「良くない予感がします。先に行かせてください!」
そう言い残してエリスは飛び立って行く。
由利歌の見立てでは正直な話、エリスが1人行ったぐらいでどうにかなる相手ではなかった。
「もしもし、私よ。人妖機関総本部長、雨上 由利歌として命じます。人妖機関、最精鋭を直ちに上沢市に集結させて。緊急事態よ!」
由利歌は電話を切ると次の協力者を探す。
「温羅さん、八重子、葬魔……。清十郎くんにも連絡を、あと支部長!」
慌ただしく各方面に連絡を取る由利歌。
それでもこの得体の知れない相手にどこまでやれるのか、全くの未知数だった。
「こんな時、あの子がいてくれたら……」
天才、歴代最強と呼ばれた双子が由利歌の脳裏をよぎった。
「この気配、間違いありません。兄上が命を落とした時に感じたモノです」
オルトロスの中に宿る、雨上 蒼水が声を荒らげる。
「どうしたんだ急に?!」
「この妖力の主に心当たりでもあるのか?」
行動を共にするトン助とケン太も声をあげる。
やはりこの妖力は無視できないようだ。
「コイツが蒼炎を殺したのか?」
やはり行動を共にする少女、リュカが蒼炎の死と蒼水の発言を結びつける。
「おそらく……。コイツは私が仕留めます。必ず……」
そう言って蒼水を宿したオルトロスは、飛び出していく。




