狙うは俊紅
「血が減っているね。目眩がしたのはこれが原因だね」
謎の黒ずくめの女に襲われた走矢。
桜達は彼を連れて上沢高校に戻り、保険医でもある紗由理に彼を診てもらったのだ。
「話からして、彼を襲ったのはチュパカブラかもね。アイツらの結界は、他者の血を吸う能力がある。その女の影っていうのが結界だったんだろうね」
「でも、ソウちゃんはあの女の影には触れてなかったように見えたよ?」
「もしかしたら本体じゃなくって、影の方に触れられたんじゃない?」
「それで走矢の血を?!」
「あり得るかも。呪術寄りの妖術だったのかもね。呪いの藁人形とか、当人に見立てた『何か』に干渉する事によって、本体に影響を与えるってヤツ」
春香の仮説を肯定する紗由理の説明に、一同は納得する。
「それで、走矢くんを襲ったのはチュパカブラの可能性が高いって事なの?」
走矢が襲われたことを知った由利歌は、彼を診た紗由理に見解を問う。
『アタシは直接ソイツを見てないからなんとも言えないんだけど、高い吸血能力から思いつくのがチュパカブラなんだよねぇ』
通話を切った後、由利歌は考える。
新矢を襲った妖3人組の中にもチュパカブラの名があった。
これは偶然が、それとも……。
「由利歌様、佐伯エリス様がいらっしゃいました」
由利歌の側近がエリスの来訪を伝える。
「すぐ行きます」
足早にエリスを待たせている当主の間へ向う由利歌。
アガレスから得た情報をどうするか、昨日から悩んでいたが、走矢の一件で全てを伝える決心がついた。
「12年前と今回は明らかに状況が違うの。どう違うかわかる?」
黒ずくめの女、チュパカブラの質問に、茶髪の少女、リャナンシーは眉間にシワを寄せて考え込む。
「12年前はターゲットの者属する組織に協力者が居たけど、今回、そういった人物はいないわよね」
着物姿の女性、トレントが代わりに答える。
「そう、12年前はその協力者がお膳立てをしてくれたけど、今回はそれも私達がやらなきゃならないの。はっきり言って、12年前の時より、今回の方が難易度は桁違いに高いわよ? ざっと調べただけで、あの子の周りで3つぐらい大きな事件があったみたいで、あの子もあの子の周りの妖達も、警戒心がとても強いわ」
「だから私は、安請け合いしないほうがいいって言ったのよ?」
穏やかな笑みを浮かべながらトレントは言う。
「安請け合いはしてないわよ? 前金もたんまりもらっているし。まぁ、必要経費なんだけど」
負けじと悪戯っぽい笑みを浮かべるチュパカブラ。
「誰か賄賂で動かせそうな人でもいるの?」
「あの子と親しい人の中にはいないわね。使うなら外注部隊」
「傭兵を使うって事? 大丈夫? あてになるの?」
トレントとチュパカブラの会話に入ってくるリャナンシー。
「あの子を守る妖が多すぎるわ。分断するだけでも頭数が必要よ。貴女の手駒の調達も重要になってくるわ」
「今、10人ぐらいね。アタシがマーキングしたの」
「足りないわ。倍は欲しいわね」
チュパカブラの言葉に、リャナンシーはため息で返す。
「新矢を殺したかもしれない妖が走矢を?!」
由利歌からアガレスの情報と自分の留守中に走矢が襲われた事を聞いて、エリスは激しく動揺する。
「話すべきか迷ったんだけど、もし走矢くんを襲ったヤツが新矢くんを襲ったヤツの1人なら、12年前の事件も避けて通れないと思ったの」
由利歌から見ても、エリスが必死に平常心を保とうとしているのが伝わってくる。
「何で……。何で走矢が狙われなきゃいけないんですか?!」
「混血が産まれない妖と人間の間に産まれた子供は、どちらか一方の親のコピーとして産まれてくる。この時、元となった親の記憶を受け継いでくる場合があるの。犯人はその記憶が蘇るのが嫌なのかも……」
「走矢が……。新矢の記憶を?!」
「希にそういう事があるっていうだけよ? そうしょっちゅう、記憶が蘇ったりなんてしないんだから」
「それでも……。それでも犯人は走矢が何か知っているかもって、考えているわけなんですよね? だからあの子に刺客を差し向けた……」
反論できずに頷く由利歌。
「どうしてあの子がこんな目に……」
「エリスちゃん! 人間を愛した自分を責めちゃ駄目よ。貴女が新矢くんを愛し、走矢くんを愛する心はとても尊いものなの。ソレをよく思わない者、利用しようとする者達こそが許してはいけない存在なのよ。気をしっかり持って、貴女も走矢くんも1人じゃないんだから」
由利歌は優しくエリスを抱きしめて諭す。
「それで、72使徒の残党は?」
呉夫の工場にて、ラードン達は呉夫と今後の計画について話し合っていた。
「ワイバーンとナーガが張り付いていますよ。向こうも今は情報収集のターンみたいですね」
「しかし王が偽者だったとは……」
「偽物でアレなら本物はどれだけヤバイんだか」
総士の言葉を受けて、合流したケルベロスがグチる。
「龍脈による強化を差し引いても相当なものでしたからね。72使徒が騙されたのも理解できますよ」
「まぁ、ソレをほぼ一方的にボコった温羅や八岐大蛇って奴がいるんだけどな」
ケルベロスはラードンの発言に乗っかって再びグチる。
「どうしました、ケルベロス? 覇気が無いというかネガティブというか……」
「お前も見ただろ? あの八岐大蛇って奴は母様に匹敵する力を持っていたデルピュネをあっさりと食い殺していた。温羅って奴もそのレベルの強さ。仮に母様を復活させても、アタシがどこまで力になれるのか……」
「自信喪失というわけですか。まぁ、言いたいことはわかりますよ。そのための俊紅です。乱戦になれば必ず僕達にもチャンスが来ます。その時を逃さないためにも備えておくのですよ。先ずは僕とヒドラの復活です」
「情報収集と言っても、フォルネウスの魔法生物ぐらいしか使い物にならないだろ」
72使徒の残党、フォルネウス達の隠れ家にて、瞬間移動能力を持つバティンがため息をつく。
「俺のオートマタもいるぞ」
「あれ? ベリト縮んだ?」
「あ! ホントだ!」
少女の姿に戻ったベリトにハルファスとマルファスが絡んでくる。
「うるさい、失せろ。あの姿だと消耗が激しいんだ。戦闘のとき以外は使い物にならないんだ!」
「キャハハ、ちびっ子共は元気だね」
「テメエには言われたかねぇ!」
「ホントホント」
「ホントだよねぇ」
茶化すヴェパルとそれに反撃するベリト達。
そんな72使徒達のやり取りを見て、ため息をつくアンドラス。
「やっぱり俊紅の心臓が欲しいわね……」
翼持つ女剣士は誰に言うでもなく、虚空に呟く。




