理由
「ちわ〜っす」
部屋割りが決まり、引っ越しが一段落した頃、桜達が走矢の新居に訪ねてきた。
「桜、皆も。いらっしゃい」
「コレ、たいした物じゃないけど……」
桜が代表して走矢に手渡した紙袋。
中にはノートや筆記用具が入っていた。
「なんか色々とダメにされたっていうから、学校で必要そうな物、見繕ってみたの」
「あとコレ、私が昔使っていたヤツ。カバンとかもダメになっちゃったんでしょ? よかったら使って」
そう言って春香は通学用のリュックサックを手渡す。
「ありがとう、助かるよ」
「傷はどう? 前にも言ったけど、私の力じゃ傷はふさげても失った血は元に戻せないんだから無茶はしないでよ?」
72使徒との戦いの直後、走矢の傷の手当をした咲花が強い口調で言う。
「あっ、うん……」
押され気味に返事を返す走矢。
「あら〜、いらっしゃい。麦茶を出すから上がってって」
リリスが出迎え、桜達をリビングに通す。
「いらっしゃい」
リビングではアリスや理奈達の他に、雪那が出迎える。
「同居人ってセッちゃんの事だったんだ〜」
「そうよ〜。女性ばかりだと走矢も気疲れしちゃうでしょ? それで私が呼ばれたったわけ」
雪那の言葉に乾いた笑いしか出てこない一同。
昔はともかく、今はどこからどう見ても女性の雪那。
男だった頃のノリで接される方が、走矢的には気疲れするのでは、と。
「あっ、お客さん?」
そこに入ってきた少女2人。
「あっ、どうも」
「えっ、ルーちゃん、リーちゃん?!」
「意外な妖が同居人なのね」
「おじゃましてます」
それは雪那から借りたシャツとスカートを、水着の上に着た河童姉妹だった。
「水着じゃないと一瞬誰だか迷うね、ルーちゃん達」
「こら直、失礼でしょ」
一応、社交辞令的に注意する春香。
「でもやっぱり落ち着かないなぁ。なんかヒラヒラしてて恥ずかしい……」
「水着姿よりも、服を来ている方が恥ずかしいって、ヤッパ変わってんな」
「あら、見えない事によって想像力が働くって事は有るわよ?」
落ち着かないなリルに突っ込む桜と、独特のフォローをする春香。
『見てない事によって……。想像力?!』
その言葉に瞬時に反応した玲奈が、理奈を取り押さえる。
「玲奈! まだ何にもしてないわよ!!」
「されてからじゃ遅いでしょうが!!」
玲奈の怒号が新居に響き渡る。
「じゃあ、また明日な」
帰路につく桜達を途中まで見送った走矢と河童姉妹。
その頃、新居では雪那が自分達が同居する理由を説明していた。
「リリス達には先に説明していたんだけど、改めて説明するね。私やルリ達が同居するのは、走矢の護衛のためよ。聞いていると思うけど、すでに復活していたソロモン王に、逃げ延びた72使徒達。コイツらが走矢を襲う可能性があるわけで、それにともない、彼のガードを固めるって事になったの」
つい最近に走矢がさらわれた事を考えれば、彼の家族が今回の同居に反対する理由はなかった。
「これって由利歌さんの指示なの?」
「ええ、そうよ。そもそも私が上沢に呼ばれた理由が戦力の補強。ルリ達や梨央達も同じ理由よ」
エリスの疑問に応える雪那。
エリスは走矢の遠い祖先になる由利歌の事を信用していた。
故に、彼女がここまでする事にきちんとした理由があるとすると、それは走矢に危険が迫っているとも取れる。
雨上家本家、当主の間。
そこに座る2人の女性、早川 由利歌こと雨上 由利歌と八岐大蛇、櫛名田 八重子。
2人は対面し先日、アガレスから得た情報について話し合っていた。
「新矢くんを襲ったとされる3人組、一応信頼できる者達に調べさせているわ」
「信頼できる者達、ね……」
由利歌の言葉に微妙な反応で返す八重子。
そもそもこの話し合いを人妖機関の施設ではなく、雨上家本家て行う事自体、機関を信用していない事になる。
「アガレスの言うとおりよ。人妖機関は大きくなりすぎた。その結果、影のような部分も大きくなったしまったわ」
「まぁ、私はあくまでもあの女から伝言を頼まれただけだし、あの情報をどう扱うかは貴女に任せるわ」
あの情報とはアガレスが話した、走矢の父、新矢を殺害したと言われる3人の妖、リャナンシー、チュパカブラ、トレントの事。
そして、それらに指示を出していたという人妖機関内の謎の勢力。
「アガレスは走矢くんをさらった時、父親の死について教えるって約束したらしいの。私にこの情報を託したのはその約束を守るためよ。ただ、私はこの情報を迂闊に走矢くんに話すべきじゃないと思っている。だから貴女に丸投げすることにしたの」
「迂闊に話すべきじゃないって言うのは同意よ。もしあの子が新矢くんの死の真相を調べ始めたら、その暗躍している連中にまで狙われる事になるわ。まだ王の件も片付いていないのに……」
由利歌は深いため息をつく。
「いない……」
その日の真夜中、目を覚ましたエリスが余白ハウスの様子を見ると、余白がいないことに気づく。
「まったくあの娘は……」
こっそりと走矢の部屋に様子を見に行くと、彼の足元で丸くなって眠る余白を見つける。
こっそりと連れ出そうとした時、余白が寝言を漏らす。
「そうや……エリス姉。ごめん……ボクが新矢から離れなければ……」
その寝言を聞いて、エリスはハッとなる。
あの日、新矢と余白は別行動を取っていた。
いや、何者かの陰謀で、分断されたのだ。
結果、余白の知らないところで新矢は殉職し、余白も心に深い傷を負った。
きっと新矢を守れなかった分まで、走矢を守ろうと言うのだろう。
余白の気持ちを察するエリスだったが……。
「走矢……僕が守るよ……。僕が絶対に守るから…………僕の番になって……」
その寝言を聞いて、一気に緊張感が高まるエリスだった。
「大人しく走矢から離れなさい!」
「やだ〜。走矢は僕が守るの〜」
「なに〜? いったい何があったの?」
「女狐、また入り込んでいたの?」
騒ぎでアリスと玲奈も起きてきて、各々感想を述べる。
次の瞬間、エリスは部屋の入口の方を見て固まる。
入口にはアリスと玲奈が立っているのだが、その後ろにバニーガール姿の理奈を確認したからだ。




