部屋割り
アリスと玲奈によって、理奈が速やかに撤去され、走矢達はリビングに通される。
「いらっしゃ〜い。なんかバタバタしててごめんね」
家電も家具も設置され、すでに使用可能になったいるリビングで、リリスが麦茶を出してくれる。
「え〜とね、エリスちゃん達が来る少し前に、ルリちゃん達が来たんだけど、これから一緒に生活するうえであの格好はどうなの? って話になったのよ……」
死んだ目で麦茶に口をつけるエリスに、必死になって説明するリリス。
「それで気がついたら理奈さんが、貝殻ビキニになっていたのよ。ちょっとしたホラーだったわ」
戻ってきたアリスが事の続きを話す。
ほんの少し前、走矢に『命の繋がった家族』と言ったエリスだったが、今その発言を後悔していた。
母よりも年上で多くの実戦を経験してきた理奈は、有事の時とても頼りになる存在だ。
しかし、走矢に対してただならぬ想いを秘める理奈は、時に自身が有事になる事がある。
「あの程度で済んでるうちはまだいい方よ」
戻ってきた玲奈がさらに追い打ちをかける。
「まぁ、それはそれとして、アンタ達家の中では服着なさいよ」
河童姉妹にアリスが矛先を向ける。
「これから一緒に住むんだから、そのへんは改善してもらいたいわね」
と…玲奈も続く。
「あ〜、でもアタシ達、服を着るってことに慣れてなくって……」
「でも、学校じゃ制服着てるよね?」
「走矢は気づいてないだけで、人目を避けて結構、脱いでいるわよ。この娘達」
なんとか弁明するルリ、学校での事を思い出す走矢とその真相を話すエリス。
「校舎裏とか女子トイレとか。たぶん、桜達は知ってるわよ」
と、補足をするアリス。
「まぁ、ルリ達の言い分も分かるんだけど、走矢とも一緒に暮らすんだし、彼に迷惑をかけないためにも少しづつ改善していこ」
雪那の彼に迷惑をかけないためにも、というワードにハッとなるルリ。
走矢の父、新矢に大迷惑をかけた負い目が彼女にはあり、その息子にまで迷惑をかけるというのは、彼女的にはあってはならない事だった。
「部屋の中では好きな格好でいいからさぁ、部屋から外にでる時は……」
「わかりました。ご子息様にご迷惑はかけられません。リル、着替えるよ」
走矢の名前を出したのが効いたのか、ルリはあっさりと折れて、服装の問題は片付いた。
「じゃあ、次。部屋割りね」
呆気にとられた雪那が次の議題を提示する。
「この家にはリビングの他に、1階に4部屋、2階に4部屋の計8部屋があるの。誰がどの部屋かこれから話し合います」
「随分と部屋数が多いわね」
「元は機関職員の寮的なモノだったそうよ。今はちゃんとした寮もあるから、しばらく使われていなかったんだって」
雪那の説明に質問者のアリスが納得する。
「部屋の話だけど、まず、走矢が1階なのは決定ね」
「えっ、1階?! 俺2階が良かったな。ずっと1階暮らしだったから……」
「駄目よ。もし、この間みたいに害意のある妖に襲われた時、2階じゃ逃げ場が無くって追い詰められる事になるわ。1階ならとりあえず外に出れればいいわけだし」
「たしかに1階の方が色々と都合が良いかもね」
「私も走矢は1階が良いと思うわ」
エリスの意見にアリスや玲奈も同意する。
「で、母親の私も当然、1階になるわね」
「ちょっと待って?! 母親だからって、それは横暴じゃない!」
エリスの意見に噛みつく玲奈。
「横暴なんかじゃないわ。アタシは走矢が産まれた時から一生守るって決めたの。アタシがこの子のそばにいる事は使命よ。この使命は姉さんにだって譲れないわ!」
いつになく強い口調のエリスに、玲奈は黙り込む。
「じゃあ、残りは2部屋ね。私とルリ達は2階でいいから、貴女達な中から決めてね」
雪那の言葉を受けて、部屋の争奪戦が始まった。
玲奈、理奈、アリス、リリスの4人のうちから2人が走矢と同じ、1階の部屋に住むわけなのだが、その執着が最も強いのが玲奈と理奈の2人だ。
走矢に対して強い想いを持っているこの2人だが、それ故の問題点もかかえている。
特に理奈は何をしでかすかわからない怖さがある。
そう考えると、アリスとリリスも黙ってはいない。
激しい争奪戦が繰り広げられる中、最終的に雪那の案でクジ引き手決める事になった。
「よし!」
ガッツポーズの玲奈。
「あっ、当たったわ」
と、アリスがクジを見せる。
「そんな〜」
と、嘆く理奈。
(理奈さんを監視するには丁度いいわね)
リリスは結果に満足する。
それぞれの部屋が決まり、走矢が自分の部屋に入ると、そこには余白ハウスが置かれていた。
「ちょっと、女狐! ここは走矢の部屋よ!」
「そういや余白の事、忘れてた……」
玲奈が叱りつけ、アリスが余白の部屋について頭を悩ませる。
「僕は走矢のペットだから、走矢と一緒に住む!」
余白の発言を受けて、走矢は取り乱し、玲奈は顔を真っ赤にし、エリスはため息をつく。
「そう言えばアンタ、新矢にも同じ事を言ってたわよね」
言った直後にしまった、と後悔するエリス。
「なんですって?!」
予想通り、玲奈が恐ろしい形相で反応する。
「とっ、とにかく余白、アンタはアタシの部屋に来なさい。アンタ女の子なんだから、走矢と一緒の部屋はまずいわ」
そう言って余白ハウスを自分の部屋に移動させようとするエリスだったが、まるで狐につままれた様な事態に固まる。
いつの間にか余白ハウスの横に同じ様な黒い犬小屋の様な物が置いてあるのだ。
「なに……。コレ……」
近づこうとするエリスの肩を掴む玲奈。
彼女は無言でエリスに、窓を開けるよう指示を出すと、黒い犬小屋を外に向かって蹴り飛ばす。
『あうっ?!』
と、理奈の声が聞こえると、ソレは隣とのしきりのブロック塀にげきとつ、四散し、中に入っていた妖狐のコスプレをした理奈が姿をあらわす。
「ほっ、本当にホラーだわ……」
絶句したエリスが、必死に言葉を絞り出す。




