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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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夜明け

 72使徒の隠れ家からの撤収が始まった頃、とある事件が起こった。


「うわぁ、シェルター。久しぶりに見たわね」


「エッ、エリスちゃん。落ち着いて」


 眼鏡の位置を直しながら感嘆の声をあげる春香と、娘の素行に動揺するリリス。


 翼がある妖が、何か大切な物を抱えて自分ごとその翼で包み込む行為をシェルターと呼ぶ。


 これは地域や時代によって呼び名が変わったりもするのだが、大体シェルターと言えば通じる。


 主に小さい子供が、お気に入りの玩具などを取られないために使う事が多いのだが、今エリスは、走矢を抱きかかえてシェルターに()じこもっていた。


「恥ずかしいから、やめてよ姉さん」


 アリスが説得を試みると、エリスの翼の内側から、


『ヤ〜』


 と言う声が聞こえてきた。


「籠城でもする気?」


「もしかしてエリちゃんの最終形態が見れるかも」


「やめなさいって……」


 呆れる玲奈に妙な期待を(つの)らせる直、それをたしなめる春香。


「ここのところ忙しくて、走矢ちゃんとの時間を取れなかったから……」


「そこへ来て今回の事件だったから、限界を突破しちゃったのね」


 エリスを擁護するリリスとアリス。


「このままではらちが明かないから、巨大骸骨にでも運ばせるか」


『あれ、そういえば……』


 霧香の発言を受けて、走矢が羽の中で何か話を始める。


ウチ(自宅)、穴になってたんだ』


はひほ、ははっへ(なによ、穴って?)


「あ〜、エリちゃん中で甘噛みしてる〜」


 翼の中から聞こえてくる、母と息子のやり取りを聞いて、直が指摘する。


「そうかエリスさん、支所から戻ってまっすぐ走矢くんを追いかけたから自宅の状況を知らないんだ」


「自宅に1回も戻らないでこの作戦が始まっちゃったから、アレを見てないのね」


 走矢とエリスの住む部屋はバルバトスの先制攻撃で吹き飛んでおり、とても部屋と呼べる状況ではなかった事を、火織と羽月が伝える。


『|はひほへ、ひひへはひんはへほ?!《何それ、聞いてないんだけど?!》』


「ちょっと待って、それってウチも被害出てない?!」


「そういう事になるわよね……」


 火織達から自宅の状態を知り、エリスだけでなくアリスや玲奈も驚きの声をあげる。




「やってくれたわね、72使徒」


 自宅の様子を見に戻ったエリスは、顔を引きつらせながら呟く。


「本当に穴になってるわね……」


「とっ捕まえた72使徒に修理代、請求するようね」


 同じく、自宅の惨状を見たアリスは呆気にとられ、玲奈はアガレス達に矛先を向ける。


「今、清十郎さんに相談したんだけど、とりあえず今夜は学校の分室に泊まれるようにしてくれるって」


「もうすぐ夜が明けちゃいますけどね」


 リリスの言葉に、理奈が茶々を入れる。




「お邪魔しますよ〜」


 もうすぐ夜が明けるという時間に、呉夫の工場に現れた男は申し訳なさそうに挨拶をする。


「おや? 柚木島さん。お久しぶりです」


「この姿の時は柚木島じゃなくって、連条 灰(レンジョウ カイ)てお願いしますよ」


 呉夫の工場に現れたのはつい先程、人妖機関の支部に連行されたはずの連条 灰(レンジョウ カイ)だった。


「いや〜、ここの心臓を新しいのにかえておこうとおもって」


 そう言って、透明の筒状の容器を取り出す。


「力場の更新でしたか」


 よく見ると、筒の中には心臓らしき物が鼓動をうっている。


 灰が工場のある場所に手をかざすと、床が台座のようにせり上がっていき、そこには灰が持っているのと同じ円筒上の容器と心臓が確認された。


 結界が範囲を閉じる事で効率や効果を高めるのに対して、力場は閉じることなく開放したままになるため、非常に効率が悪いとされる。


 72使徒が使った龍脈の上書きというのも、力場の形成に分類される。


「日本全土を(おおう)う柚木島の力場。はたして気づく人はいるんでしょうかね」


「ははは、気づかれないように上手くやっているんですけどね」


 そう言って、手早く作業を済ませる灰。


「ここ最近の騒ぎを奴が嗅ぎつけてくる可能性があります。一応、気をつけておいてください」


「わかりました。おや? もう帰られるのですか?」


「ええ……。実は今、人妖機関にとっ捕まって、収容されている最中なんですよ。そろそろ戻らないといけませんので、これで失礼します」


 そう言い残して、(はい)になって消える(カイ)


 灰の消えた中空に向かって、呉夫は何かを呟く。




「ふう、こんな時間になっちゃったわね」


 ため息をつくエリス。


 すでに夜が明け、朝になっていた。


 上沢高校の旧校舎。


 その一室に寝泊まりすることになったエリス一行。


 同じ様に、旧校舎に寝泊まりしている収容組はテンションのスイッチが入ったままなのか、枕投げが始まっていた。


「騒がしいわね……」


「いっときのテンションに任せてバカやっていると、後に響くわよ」


 アリスが呟き、玲奈が呆れる。


「ごめん、ちょっとこっち泊めて」


 こっそりとドアを開けて入ってきた紗由理が申しでる。


「ここに来てから、毎晩あんな感じなんだ……」


「よく飽きないわね」


「今日は特にテンション上がりっぱなしみたいで……」


 紗由理の話を聞いて呆れるエリス。


 そんな中ふと隣で寝息をたてている我が子に気づく。


「この騒音が気にならないなんて、相当疲れていたのね……」


 我が子の寝顔を見て微笑むエリス。


 しかしすぐに妙な違和感に気づく。


「なに、このイビキ……」


 走矢の足元の布団をめくると、そこにはイビキをたてて爆睡する余白の姿があった。


「また、この娘はいつの間に……」


 騒げば息子を起こしかねないと、見てみぬフリをして布団を戻す、エリスだった。

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