桜花と走助
「まさか貴方が加勢してくれるなんて。助かったわ、葬魔」
「おいおい、俺も手伝ったんだぞ」
「ああ、そうだな。後で飯でもおごってやるよ」
倉庫街での戦闘。
思わぬ伏兵の襲撃に苦戦していた由利歌達だったが、駆けつけた雨上 葬魔と何故かくっついて来た火頭魔の加勢で撃退に成功した。
「しかし、王には逃げられてしまったな」
「仕方ないわ。王との戦闘は最初っから想定してなかったし」
「けどよう、アレが本当に王なら、俺達は完全に茶番に付き合わされたって事だよな? なんか腹立つな」
火頭魔の言葉に苦笑する葬魔。
「まぁ、そういう事もあるさ。おそらく王の一派は他の72使徒達も欺いてたはずだ。あの九骸が乗せられるくらいだからな」
「敵をあざむくには、ってやつか……」
ため息まじりに火頭魔が言う。
「ただ、なんのためにそんな事したのかしら? 72使徒の目的って、ソロモン王の復活なんじゃないの? 外に漏れないようにするなら分かるけど、仲間にまで秘密にするなんて……」
「そもそも、仲間として見てなかったという見方もある。まぁ、王や72使徒を作ったソロモンが謎の多い組織だからな。至高の王と言っても、具体的に何をするのかさっぱりわからん」
葬魔の言葉に、由利歌はそうね、と添えるにとどまった。
「あの娘、桜花の記憶が蘇っていたのか?」
72使徒の隠れ家にて、走矢の体を借りた蒼炎が八重子に話しかける。
「あっ、役立たず。今頃重役出勤とは恐れ入るわ」
「それを言うんじゃねぇ! アイツらが龍脈を上書きしたせいで、力場がおかしな事になって、干渉できなくなってたんだ。お前だってそんなんだから直接で剥いて来たんだろうが!」
「冗談よ、よっぽど心配だったみたいね。で、なんの用? 私に何か用事があって話しかけてきたんでしょ? 桜花の、いえ桜のこと?」
「いや、走矢の前世、走助の事だ」
まだ雨上 蒼炎が生きていた時代、俊紅の我が子を惨殺された悲しみから怪物となった母親、桜花。
そんな母を止めてほしいと当時、雨上家の当主である由利歌の元に桜花の子、走助の幽霊が現れ嘆願した。
走助を惨殺した村人達の願いは聞かなかった由利歌だが、母を思う走助の頼みは断れなかった。
「終わったな。桜花の最後だ」
息子の亡骸を取り込み、巨大な肉塊となった桜花が崩れ落ちて行く様を、高台から見守る蒼炎が呟く。
「とんでもないヤツでしたね。術も斬撃もまともには通じない上に、生き物もそれ以外も取り込んで強くなる……。文字通り怪物ですね」
「ああ、そうだな。雨上の者に犠牲が出なかったのは、不幸中の幸いだな」
双子の弟、蒼水の言葉に同意する蒼炎。
そんな蒼炎は、母である由利歌の様子がおかしいことに気づき、声をかける。
「おい、ババァ。どうした?怪我でもしたのか?」
蒼炎達に背を向けたまま一言も発しないその姿に、不安を覚え近づいていく蒼炎。
しかし、手が届くところまで近づいたとき、由利歌に足を踏まれ、自分が罠にかかった事を理解する。
「全くこの子はババァババァと。今日だけでいったい、何回言ってるのよ!」
「248回」
「何数えているのよ!!」
「兄上、嘘はいけません。367回です。」
「あんたも数えてたのか!!」
蒼水にもブチ切れながら、蒼炎の顔面を鷲掴みにする早川由利歌。
「蒼水、助けろ!」
「そうですねぇ、『本当はお母さんの事、大好きなんだけど、素直になれなくてごめんね』とか言ってみたらどう……」
蒼水が言い終わる前に、2人は顔面蒼白で四つん這いになっていた。
「想像しただけで鳥肌立っちゃったじゃない!」
「俺は2つの意味で息の根が止まりかけたぞ……。おぞましい呪詛を吐き出しやがった」
「助かったんだからいいじゃないですか」
にこやかな蒼水に、怨嗟の念を向ける蒼炎と由利歌。
「それにしても、気になるな……」
「気になるって、桜花の変貌ぶりに?」
「それはまぁ、説明がつく。俊紅を殺した後、妖にその遺体を食われないように、毒で満たした容器に入れて埋めるってのが俊紅を殺した後のやり口だ。毒は当然、妖にも効果のある物」
「その毒の影響で、ああなってしまったと?」
「まぁ、そんなところだろう。俺が気になったのはその事じゃなくって、走助っていう子供がバラバラにされて埋められた場所を結ぶと、六芒星になることだ」
「それじゃあなに?! あの子は何者かの陰謀で、あんなむごたらしい殺され方をしたっていうの?!」
「その可能性があるって話だ」
蒼炎は淡々と淡々と語る。
「じゃあ何? 走矢くんの前世は何者かの陰謀で死んだっていうの?」
「俺はそう見ている」
「それで、私になにをしろって言うの?」
「やることは今までと変わらんよ。ただ、そういう奴がもしかしたら走矢を狙っているかもしれないって、頭の片隅にでも入れておいてくれ」
「わかったわ。一応、他の子にも伝えておく」
「なかなか良い逸材が見つかりましたね」
隠れ家から撤収するフォルネウス達を観察していたラードンが呟く。
「なんの話ですか?」
「あの、白い翼が生えた少女が見えますか? アレは72使徒のハルファスと言う者で、即席でホムンクルスを生み出す力を持っています。彼女を母上の新たな肉体にできれば、素晴らしい事になるでしょう」
ラードンは嬉しそうに熊田兄弟に語った。




