ソロモン王6
「いくわよ!」
愛美の掛け声と共に攻撃を合わせる河童姉妹。
水流と羽根弾が同時に王に降り注ぐ。
『あの臓器に操られた経験から申し上げますと、王に取り憑いたからといって、完全に操るのは不可能と思われます。それほどまでにあの臓器による凶暴化は強力でした……』
直前に受けたブエルの助言。
「でも作った本人なら、何らかの制御方法を持っててもおかしくないのよね」
王の背後に降り立ったリリスが伸ばした爪を王に向けると、それに反応したかの様に振り向く。
「グガガガガァ!!」
奇声を発しながらリリスに襲いかかる王に。
「不完全な制御ならできるって事ね」
リリスまであと数歩のところで、王の動きが止まる。
「これで動きは封じたわ」
真央が張った亜空間の糸に、王は絡めとられていた。
「今よ!」
リリスが叫んだ時にはすでにダンタリアンの封印術が発動していた。
王の周囲に魔法陣が展開し、足元から石化していく。
「よし、これで……?!」
勝利を確信したリルだったが、王は絡めとられた手足を引きちぎり、魔法陣から脱出をはかる。
「ヤバイ?!」
ルリが叫んだ時、再び王の動きが止まる。
「梨央!」
合流した別働隊Aの梨央の糸が王の胴体に巻き付いていた。
別働隊Aの他の面々に加えて霧香が王を取り囲む。
「こりゃ、勝負ありましたね……。どうしたんてすか、九骸さん?」
「いやぁねぇ、勇魚って奴は他人を有益か有害かの2種類にしか分別できない奴なんだ。彼女達みたいに協力するっていう選択肢が無い奴だったんだわ」
「信用できないって事ですよね? だから勇魚さんが言ってた隠れ家じゃなくって、ホテルの地下に駐車場なんかに身を隠したんでしょ?」
まあね、とだけ九骸は応える。
「ガ、ガ、ガァァァ!」
断末魔とともに王の胸が裂け、何かが飛び出してくる。
それを見た九骸は近くの瓦礫を心臓の軌道上に転移させると、ソレは心臓の中に出現し、四散させる。
「九骸さん……」
「まぁ、夫婦だったよしみだ。あの姿で封印され続けるのはさすがに辛いだろ?」
「え?! 夫婦って、結婚してたんですか?! 勇魚さんと?!」
「あれ、言ってなかったっけ? まあ、あれが結婚生活と言っていいモノかどうか、疑問が残るところだが……」
(元夫婦のよしみで助けてやったんだ。感謝しろよ。といっても無駄か……)
勇魚の心臓が飛び出した時、すでにその心臓も石化が始まっており、封印は免れなかった。
「どうした、アンドラス?」
「いえ、何でも……」
(九骸め、貸しを作ったつもりか……。まぁ、覚えていたら返してあげないこともないけど)
勇魚が凶月を仕込んでいたのはアモンとエリゴールだけではなかった。
そして凶月には支配、凶暴化の他に勇魚のバックアップという機能があった。
最初に倒されたアンドラスをあえて凶暴化させずに、バックアップ様に残していた勇魚は彼女に成り代わり、隠れ家から脱出する。
「僕達72使徒は王に不測の事態があったときのためのスペアパーツだったのさ」
秘密の地下通路からの脱出を図るヴァサゴとブネ、グラシャラボラス。
「逆に言えば、王が完全に覚醒すれば僕達は用無しどころか邪魔者になる。王をもう一体作れるわけだからね。だからその時、72使徒を始末する72使徒が存在したわけだ。僕達のように……」
「しかしあの王は偽者……」
「僕達にはわかるはずだ、本物の王がすでに目覚めている事が。たがらシトリーを殺し、ヴィネまで手にかけようとしたんだろ? すでに君達は本来の役割に目覚めていたのさ」
言いかけたブネに真の王の復活を告げるヴァサゴ。
「我々はこれからどうすれば……」
「決まってる。残りの72使徒を全員殺害し、最期に僕達も消える。それが僕達に与えられた役割さ」
グラシャラボラスの言葉に、少し悲しそうに応える。
「どうだった?」
「ダメだ、敵の数が多すぎて救出は不可能だ」
フォルネウスの問に応えるバティン。
ダンタリアン達の救出を試みるも、温羅やリリス達の存在に諦めて戻ってきたのだった。
「そうか……。アガレス殿も覚悟の上でああ言ったのだろう。残った者達でアガレス殿のおっしゃった真相を確かめるしかない」
そう言ってフォルネウスは、脱出した仲間の顔を見渡す。
「ハルファス、マルファス、アンドラス、ベリト、ヴェパル。それに俺とお前の7人か……」
とある倉庫内で72使徒筆頭、バエルと思われる人物と対峙する由利歌。
フード付きのローブを身に纏ったその人物は、由利歌の放つ五芒星の紋様を打ち消し、無効化する。
「やっぱり一筋縄じゃ行かないわね」
そう言って数枚の呪符を取り出す由利歌。
その呪符をバエルに向かって放つと、呪符は狼に変化して襲いかかる。
向かって来る狼に手をかざし、五芒星のときの様に打ち消そうとするバエルだが、狼は受け付けず、その四肢に食らいつく。
「そのまま拘束して!」
由利歌が叫ぶと、狼は五芒星の模様になり、その場にバエルを拘束する。
とりあえず動きを封じた由利歌は、より強力な拘束術を発動させようとする。
しかしその直後、バエルの妖力が膨れ上がり、五芒星を消し飛ばし、由利歌を倉庫の外までふっ飛ばす。
「やってくれるわね……」
上半身を起こしながらバエルの方を見る由利歌。
「……?! 違う……」
倉庫から出てくる人物の素顔を見て由利歌が呟く。
72使徒筆頭、バエルは女性のはずなのに今、目の前にいるのは男性。
「まさか……。ソロモン王?!」
『なんだ、コイツらは?!』
『囲まれているぞ!』
『いつの間に!!』
倉庫を包囲しているはずのリザードマン兄弟達の声が倉庫街に響く。
「なに?! 一体何があったの!!」
目の前の王と周囲の状況に困惑する由利歌。
「うぉりゃあぁぁぁぁ!!」
その時、リザードマン兄弟の二郎が大剣を振るい、何者かをなぎ倒す。
「これは……?!」
それを見て言葉を詰まらせる由利歌。
「アンデッドだ。ネクロマンサーがどこかで糸を引いているな」
状況を説明する一郎だったが、とあるアンデッドの姿を見て言葉を詰まらせる。
「親父……」
「何者か知らないけど、随分と用意周到ね……」
追い詰めたつもりが実は誘い出されていた?
「上等よ、返り討ちにしてあげるわ!」
嫌な予感を振り払い、由利歌は気を吐く。




