ソロモン王5
「こいつはアタシらの同胞なんだ。代わりにアタシが仇を討ってやる」
地上ではボーイッシュな栄子が悦子の仇を取らんと、勇魚と対峙していた。
「その人、72使徒も虚空も裏切って、何か企んでいるみたい。気をつけて!」
走矢の言葉にリリス達も気を引き締める。
一方、エリス達正面組も地上に出て、壁を突き破って現れたレイカと再会していた。
「バティンとか言ってたわね。あの瞬間移動女。眼が見えないえない死角みたいな場所にばかり瞬間移動するから、誘導して1発良いのをくれてやったわ」
「くそ、やられたから逃げたわけじゃないぞ。仲間を回収するように言われたから引いただけだ!」
「何1人でブツブツ言ってるのよ、バティン」
「とうとう、見えないお友達を作っちゃったとか?」
「うるさいぞ、ハルファス、マルファス! 瞬間移動するからつかまってな!」
レイカとの戦闘をフォルネウス指示で切り上げたバティン。
悦子が死亡した事でハルファスの石化が解け、マルファスも元に戻っていた。
「くそっ、12年前と違って主力を投入したってのに、敗走かよ」
バティンはボヤきながら、生き残っている仲間の元に跳ぶ。
「一体全体、どんな心境の変化があったの?」
王への攻撃に参加するアガレスに、八重子が問いかける。
先程の態度から、アガレスに何かがあったのは八重子にも感じ取れたし、その理由にも心当たりがあったが、それでも裏をとる必要があった。
「貴女には関係ない事です」
「関係なくは無いと思うんだけど? 結局、私達はこの王様にふり回されたんだから」
「…………あの王は偽者です。私のよく知る72使徒の体が、パーツとして使われていました」
アガレスの言葉に、全く動揺する事のない八重子。
彼女の態度の変化から、その可能性は考慮できたからだ。
「偽者?! あの王が? そうか、それでリミッターが弱かったのか! 王の自滅は初歩にして最大のリスクだからなぁ」
突然、話しに割り込んできた九骸を絞め上げ、黙らせる八重子だった。
「リル、合わせて!」
「ガッテン!」
地上での戦闘、河童姉妹が同時に放った水流を、同じく水流の壁で防ごうとする勇魚だったが、2人分の水流に押し負ける。
「やった?」
「……いえ、ダメージは受けたみたいだけど、再生してしまっている。あの再生力をどうにかしないと……」
冷静に勇魚の様子を観察するリリスがルリに応える。
不死の心臓その者である勇魚を倒すのは不可能。
薄々それに気づいていたリリスは、封印術で対処するしかないと考えていた。
「このぉ!」
同胞の仇を取らんと、メデューサの蛇を伸ばして拘束するボーイッシュな栄子。
「くっ!」
勇魚はメデューサの石化を警戒し、目を背ける。
「くそ、読まれてる……」
「そこに転がっているドッペルゲンガーのお仲間でしょ? 貴女。わかっている手の内には警戒するわよ」
勇魚がフォカロルの前に取り憑いていた美原 夏美の元に乗り込んできた時、その能力を見ていた。
水流がメデューサの蛇を切り裂き、ついでにボーイッシュな栄子に襲いかかる。
「そっちも!」
刃のような鋭利な水流が、河童姉妹にも飛んでいき、姉妹が作った水の壁を斬り裂く。
「あのねぇ、傷が治るだけで普通に痛いのよ。攻撃を食らうと!」
「いまだ!」
勇魚が感情的になっている今がチャンスと、封印術を仕掛けるリリス。
5本の爪を伸ばし、勇魚の胴体に撃ち込まんとするが、あと一歩のところで気づかれ、水流のカウンターを食らう。
「おばあちゃん!」
「リリスさん!」
ふっ飛ばされたリリスだったが、すぐに上半身を起こし、右手で印を組むと、勇魚の腹部に刺さっていたリリスの爪が反応する。
「なっ?! いつの間に!」
水流でふっ飛ばされる直前に爪を発射していたリリス。
「これで終わり。貴女を封印するわ!」
「まだだ……。まだだぁ!!」
叫び声と共に、勇魚の胸が裂け、血流と共に何かが飛び出し、リリス目掛けて飛んでいく。
「おばあちゃん、危ない!!」
走矢が叫ぶと同時に、何者かが勇魚とリリスの間に立ちふさがる。
「ブエル、ようやくお目覚め?」
「私はずっと目覚めていましたよ。体の自由が効かなかっただけで」
ダンタリアンの皮肉に、ため息まじりで応えるブエル。
土製のゴーレムに閉じ込める事で、勇魚の支配下から一時的に開放し、その間に自身の心霊手術で凶月を取り除いたブエル。
彼の右手には勇魚の本体、不死の心臓が握られていた。
「さて、どうしましょうか。この心臓」
「潰してしまいなさい。残してもいいことなんて無いわ、きっと……」
そうですね、とブエルが言いかけたとき、床を突き破って伸びた手が、彼から心臓を奪い取った。
「しまった! 下の階には王が!!」
おそらくここまでが勇魚の狙いだったと理解したダンタリアン。
「アイツは貴方に埋め込んだものと同じ臓器を王に入れようとしていた。おそらく今の王はアイツに操られている状態。そしてアイツの本体は王に渡ってしまった……」
「王を乗っ取ると?!」
「ブエル、私を動けるようにして。私の封印術で王を止める」
ダンタリアンが言い終わる前に治療を始めるブエル。
「封印術なら私が……」
フォカロルの体を封印したリリスがもうしでるが、
「距離を詰めなければ使えない、貴女の封印術はリスクが高いわ。加えて勇魚はそれを見ている。なんにせよあいつを封印するにはもう一枚、カードが必要だわ」
ダンタリアンは最後の力を振り絞って立ち上がる。
「コイツ、さっきから上に行ったり下に行ったり!」
「何か様子が変わってませんか?」
「ああ、たぶん勇魚の本体が入ったね。これで数的制限なしの、完全な不死身だ」
『はぁ?!』
王の挙動に苛つく八重子、変化に気づくアガレス、そして疑問に応える九骸の発言に2人は声が裏返る。




