ソロモン王3
「時間稼ぎもここまでのようね。ダンタリアン」
勝ち誇った様に、片膝をついたダンタリアンを見下ろす勇魚。
「そうね、ここまでみたいね……」
「随分と諦めがいいのね。大人しく従うなら手駒として生かしてあげてもいいわよ?」
「何を勘違いているの? ここまでなのは貴女の方よ?」
「な?!」
言いかけた勇魚の体に、何かが巻き付き拘束する。
「やっと見つけた」
それは南沢 悦子のメデューサの蛇だった。
「なっ、なぜここに?!」
「それだけフルパワーて戦えば、誰かしら感知するでしょ? まさか、貴女と因縁がある人が来るとは思わなかったけど」
「走矢ちゃん!」
「佐伯くん!」
ギリギリと絞め上げられ、部屋の外に引っ張られる勇魚。
入れ替わる様にリリスと愛美が走矢の元に駆け寄る。
「この子は?」
「ダンタリアンさん。俺を守ってくれてた」
「私は役目を果たしただけよ」
そして、部屋の外では悦子が積年の恨みを晴らそうとしていた。
「やっと、やっとお父さんとお母さん。そして私の仇が取れる……」
「冗談じゃないわ、ここまできて邪魔されるなんて」
追い詰められた勇魚は、最後の手段をとる。
「王の事ばかり気にしてられないかもよ。後付の偽物とはいえ、龍脈に匹敵するエネルギー網が崩壊すればただじゃ済まない。ましてやここはその中心部。あたしは自分の身を第一にやらせてもらうよ」
「ほら、蓮見さんもああ言ってるじゃないですか」
「あれ?! 鈴禍は? 鉄三も居ない!!」
九骸の声が裏がえる。
「その2人なら王様がピンポン玉のように吹っ飛んだの見てからそのまま穴から出てったぞ」
ケルベロスが親指でそれらしき穴を指さす。
「さすが、判断がはやい……」
感心しながら呆れる灰。
「現地解散ですね」
スキュラの言葉に、うつむいてため息をつく九骸。
「なんだ、この気配は……」
うつむいたまま呟く。
「はは……。勇魚にとって、この状況は千載一遇のチャンスってわけか……」
ひきつった笑みを浮かべながら、顔を上げる九骸。
「そこか?!」
九骸の視線が指し示す先には、大量の木箱が散乱していた。
おそらく最初からこの部屋に合った物。
それがこの戦闘で散乱したのだろう。
その中の1つ、明らかに他の箱とは異なる、装飾の施された箱を、内側から何かが突き破って飛び出してくる。
「勇魚の策、乗るべきか邪魔するべきか……」
そう言って九骸は近くの箱を飛び出してきた物、王に献上するはずだった心臓の所に転移させる。
心臓は突然出現した箱に閉じ込められる形となる。
箱にはこの一瞬で、封印術を仕込んており、心臓の遠隔操作を封じていた。
「よし、これで……」
あとは箱を自分の手元に移動させるだけ。
そう考えた九骸の目の前で、ふっ飛ばされた王が箱の上に覆いかぶさるように倒れる。
乾いた笑いしか出てこない九骸。
「九骸さん、アレ勇魚さんの用意した心臓ですよね? 今、王の所に飛んでいくの妨害しようとしましたよね? 何かヤバイと思ったから、そうしたんですよね?」
「灰くん、現地解散だ……」
九骸が言うのと同時に、王が雄叫びをあげて起き上がる。
「待ちなさい」
その場から逃げ出そうとする九骸と灰を、八重子の大蛇が絞め上げて捕らえる。
「アレは何? 王はどうなったの? 知ってる事、全部吐き出しなさい」
「九骸さん……」
八重子の問いかけに対し、情けない顔で九骸を見る灰。
自分は何も知らないというゼスチャーだ。
深いため息をついて口を開く九骸。
「アレは勇魚という術師が作った『凶月』という人造の臓器。まぁ、呪具だな。アレを入れられた者は勇魚の思いどおりに操られるんだが、肉体が一定のダメージを受けると、狂戦士化するんだ。たぶん、操るために用意しただけで、狂戦士は勇魚にとっても想定外なんだと思う」
その時、八重子の背後でとてつもない妖力の高まりを感じた。
見れば王と温羅が互いに顔面を殴り合い、温羅は後ずさり、王はふっ飛んだ。
「凶月の正体は俊紅の心臓のクローン。不死の心臓の技術が使われていて、回数限定だがアレを持つものは不死身になる」
「この暴走状態に加えて、制限ありとはいえ不死身……。回数限定ってどのくらいなの?」
八重子の問に九骸は首を横に振る。
「そもそものクローンの出来にバラツキがあって、実際殺してみないとわからないんだ」
「…………厄介ね」
そう、八重子が口にしたとき、王が天井をぶち破る。
「なに?!」
「たぶん、勇魚が呼んだんだ……」
驚く八重子に九骸が解説する。
「お前の本体はその心臓だな? これで終わりにしてやる!」
悦子が手刀で勇魚の心臓を貫こうとした時、床を突き破って何かが現れる。
それは勇魚を拘束していた蛇を引きちぎり、勇魚と悦子の両方をふっ飛ばした。
「なに?! なんで王が狂戦士化しているの?!」
切り札として呼んだ王の状態に驚愕する勇魚。
「何だこいつは! 邪魔するな!!」
突然現れた邪魔者、ソロモン王を手刀で排除しようとする悦子。
その敵意に反応した王の拳が、彼女の腹部を貫く。
「悦子さん?!」
倒れた悦子に駆け寄ろうとする走矢。
動く物に反応して攻撃体勢に入るソロモン王。
「させるもんですか!」
王を追って地下から飛び出してきた八重子の大蛇が、それを阻む。
「私の失策だわ、あの場所からコイツを出すべきじゃなかった」
倒れた悦子を見て自身を責める八重子。
「悦子さん! そうだ、俺の血を……」
ダンタリアンに手当を受けた、傷口の包帯を取ろうとする走矢。
しかしそれを制止する者がいた。
「ダメだ、あんたの血はアタシらにとっちゃ毒みたいなもんなんだ。アタシらはドッペルゲンガーであると同時に、キメラでもあるんだ……」
地下から出てきたボーイッシュな栄子は、辛そうに伝える。
「そんな……」
力無く両膝をつく走矢。
「あと少し……。あと少しなのに……」
王の後ろに隠れる勇魚に向かって手を伸ばす悦子。
程なくしてその手は力無く、床に横たわる。
「よくも……。よくも私に恥をかかせたなぁ!!」
恐ろしい形相で、八重子は王に襲いかかる。




