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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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ソロモン王

「だっ、大丈夫なんでしょうか。温羅さん」


「温羅さんは大丈夫。絶対に大丈夫」


「心配するなら温羅以外よね」


 春香の疑問に応える雪那と八重子。


(ぼーん)って、凄く取り乱してたし……」


「ずっと後ろでうるさかったわね。鬼族って情が深いから、大切な人が窮地に陥るとだいたいあんな感じになるのよ」


「貴様ら、いつまてくっちゃべっている? それ以上続けるなら、地獄でやれ!」


 そう叫んで二刀流を振り下ろすグラシャラボラス。


 迫る衝撃波と破壊の結界。


 しかし、それは一同に接触する前に凍りついたように止まる。


「なに?! 何だこれは!」


「そうね、貴方の言うとおりね。とっとと走矢を助けに行かないと。貴方達ごときなら最悪、私と八重子さんだけで十分だし」


 一瞥もくれず、背を向けたまま挑発する雪那。


「きさま?!」


 言いかけたグラシャラボラスが突然、吹っ飛ぶ。


「なんだ?! 一体何をした?!」


「立てよクソ野郎。テメェはこれから、俺に泣かされるんだ」


 雪那は男だった頃の口調に戻り、グラシャラボラスを挑発する。


「くそ、くそくそくそぉぉぉ! ヴァンパイア風情がよくもぉ! 思い知らさてやる、私が最強のネクロマンサーだと!!」


 桜にぶっ飛ばされたブネは、悪霊のような妖力を集中させて放つ。


 桜はソレを回避し、一気に距離を詰める。


「バカめ、悪霊から逃げ切れるとおもったのかぁ!」


 ブネの言葉通り、回避したはずの妖力弾がUターンして戻ってくる。


 しかし桜は背後から迫る妖力弾を裏拳で(はじ)き、その拳をそのまま振り下ろし、ブネの顔面にめり込ませる。


「じゃあ、私の相手は貴方って事になるわね」


「お手柔らかに」


 ヴァサゴの前に立つ八重子にふざけた調子で応える彼に、


「地獄を見せてあげるわ」


 と、言い放つ。 


「地獄を見せるか、知らないとは幸せな事だな」


 立ち上がったグラシャラボラスがあざ笑う。


「ヴァサゴ殿の能力は、過去を改変して未来を変える。先程のヴァンパイアの攻撃も、過去を移動したと改変したため攻撃を避けたように見えただけの事。ヴァサゴ殿だけではない、アガレス殿、そして我らの筆頭バエル殿達、3大使徒は皆別格の力を持っているのだ!」


「ぐゔぉあぁぁ?!」


 聞いた事が無い声を出しながら悶絶するヴァサゴ。


 グラシャラボラスは一気に血の気が引く。


 と、同時に見えない拳のような物に殴られ、再び吹っ飛ぶ。


「なんだ? いったい何をしている! 卑怯だぞ!!」


「うるせえな。わかったよ、わかりやすく見せてやる」


 雪那がそう言うと、大気中の水分から氷の拳を作り出し、グラシャラボラスの腹部を殴って大気中に戻っていく。


「これを高速でやってるだけだ」


 そう言うと、グラシャラボラスの周りに、無数の氷の拳が出現する。


「泣いて後悔しろ」


 その言葉と共に、氷の拳が一斉に襲いかかる。


「ぐぼぉぼぼぼぼ……」


 四方八方から殴りかかってくる拳の群れに、吹っ飛ぶ事も倒れる事もできず、直立不動で攻撃を浴びるしかないグラシャラボラス。


 そんな彼に、雪女はボキボキと指を鳴らしなが近づいていく。


「俺が助けにいっても、アイツが笑顔で迎えてくれることはねぇ。いつだって申し訳なさそうな顔して出迎えるんだ。アイツは……、アイツラはなんにも悪くねぇのに!!」


 雪那の脳裏には、かつて絆を結んだ俊紅の少女の姿が思い浮かんでいた。


 その鋭い眼光を前に、グラシャラボラスは自分が狩られる側だと、ようやく理解した。


「うらぁ!」


 振り下ろした拳は、グラシャラボラスの顔面を捉え、地面まで持っていき、突き刺す。


「馬鹿やんなきゃアイツの顔が見れねぇんだよ……」


 誰に言うでもなく、言い放つ雪那だった。


「ぐはぁっ!」


 桜の膝がブネの顔面にめり込み、彼女は鈍い悲鳴を上げる。


 桜はそのまま、ブネの頭上を越えて、頭から落下する体勢で彼女の首を掴むと、自分の体ごと上下反転させ、地面に食い込ませる。


「走助、まってて。すぐに助けるから」


「やっぱり桜花の記憶が(よみがえ)っているのね」


 桜の口から出た言葉を聞いて、八重子は呟く。


「せめて……。せめて、敗因だけでも教えていただきたいですね……」


 満身創痍のヴァサゴ。


 その姿を見てため息をつくと、八重子は口を開く。


 「私の名前、八岐大蛇の八岐とは、分岐(ぶんき)を意味してるの。分岐、つまり可能性。さらには平行世界よ。私の大蛇はその平行世界、全てに存在している。貴方がどれだけ過去を改変しても、全ての改変された未来で、大蛇は鎌首をもたげて追い詰めるわ」


「なるほど、最悪の相性だったと言うわけですか……」


「傲慢だわ、まるで相性が悪くなければ何とかなったようなもの言いね」


 八重子の影が八岐大蛇を形作り、鎌首をもたげる。


 今まさにヴァサゴにとどめを刺そうとした時、亜空間が消滅し、通常空間に戻る。


「おや、お客さんのようですよ」


 そこは王と九骸達、そしてアガレスの戦場だった。


「ヴァサゴ、ここから離れなさい。貴方達まで王の糧になってしまうわよ」


「逃がすと思っているの!」


「逃してみせます、九頭龍!」


 アガレスが叫ぶと、地面が盛り上がり、九つの首を持つ龍、土製の九頭龍が出現する。


「頭はこちらの方が一つ、多いですよ」


「なに? 私の頭が足りないとでも言いたいわけ?」


 八重子の語気が強くなる。


 そんな八重子に、王の妖力が触手のように伸びてくるが、


「邪魔!」


 八重子の怒号と共に大蛇が消し飛ばし、ついでに王までふっ飛ばす。


「王?! 何ということを!!」


 取り乱したアガレスが、八重子に襲いかかる。


「ここは私がなんとかするわ。他は全員退避して。あの女も王も、普通じゃないから」


「私だけでも残った方が良くない?」


 雪那の問に首を横に振る八重子。


「はっきり言って過剰戦力よ」


 八重子が言うと同時に、何かが屋敷の壁を突き破って入ってくる。


(ぼん)、どこだ?! 俺がきてやったぞ!!」


 現れたのは額に二本の角を生やした、着物姿の大柄な女性。


 鬼族の長にして女傑と名高い温羅である。


「過剰もいいところですね……」


 ぼーん、と叫ぶ温羅を見ながら、雪那が呟く。

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