総力戦12
コンコンと、走矢がとじこめられている部屋の戸がノックされる。
「ダンタリアン、非常事態よ。王が暴走状態で隠れ家に転移してきたの。巻き込まれる恐れがあるから、彼を避難させることになったわ」
部屋に入ってきたのはフォカロル。
王の気配はダンタリアンも感知していたため、フォカロルの言葉に疑う余地など無かった、が。
「…………。珍しいわねブエル、貴方が真っすぐ私の目を見るなんて……」
フォカロルの影に隠れるように立つ、小柄な男にダンタリアンは問う。
「ブエル?! どうしてここに! 部屋で待っているよう、言ったのに!」
背後を振り返り、動揺するフォカロル。
そのスキに、ダンタリアンはフォカロルに触れると、その情報を読み取り、突き飛ばす。
「貴女、フォカロルじゃないわね。虚空の勇魚。いえ、虚空も出し抜くつもりね」
走矢を庇うように立ちはだかるダンタリアン。
「本当に嫌になっちゃう。王もブエルも貴女も、全然思い通りになってくれないんですもの」
フォカロルの顔で、フォカロルが絶対にしないような狂気じみた表情を見せる勇魚。
「彼には指一本、触れさせないわよ」
そう言ってダンタリアンは魔導書を取り出し、戦闘態勢に入る。
「王が帰還なされたか。しかしこの気配、正気ではないな」
ポツリとグラシャラボラスが呟く。
「ソロモン王が復活しちゃったの?! 走矢くんは……」
「あの子はまだ大丈夫よ。ただ、このままだと、どうなるかわからないわね……」
動揺する日奈子をなだめるエリス。
「何なのよ、それ?」
マルバスの戦斧を構える羽月に火織が尋ねる。
「戦利品」
誇らしげに返す羽月。
「戦斧なんて使ったことないでしょ? 大丈夫?」
火織の問に空いた方の手で親指を立てて見せる羽月。
それを見てため息をつく火織だったが、気を取り直してグラシャラボラスに仕掛ける。
「いくわよ!」
先程と同じ様に炎の矢を放つ火織。
「ふん、懲りないバカめ」
そう言って右手に持つ剣を高速で回転させ、攻撃を防ぐグラシャラボラス。
羽月はそれを見て、回転する剣の方に回り込み、戦斧を振り下ろす。
「小癪」
そう言い放つと、回転する剣で戦斧を弾き、反対側の手に持つ剣を回転させる、グラシャラボラス。
炎の矢も戦斧も防いだ彼だが、そこに日奈子の雷が落ちる。
「ぐはぁ?!」
予想外の攻撃にダメージを受けるグラシャラボラス。
しかし、倒れる事はなく両手の剣を振り上げ、同時に振り下ろす。
斬撃は衝撃波となり、火織とその後方にいる日奈子の左右を通りすぎる軌道で走る。
「まずい?!」
咄嗟に叫ぶ星垂。
赤い炎の灯籠と2人を入れ替えると、入れ替わった灯籠はしに触れてもいないのに粉々になる。
「あの衝撃波が結界みたいなものなのよ。挟まれたら粉々になるわ」
「ふん、少しはできる奴がいたか。だが次はそうはいかんぞ!」
「こいつ!」
ブネと戦うエリスだったが、余白、春香の援護を受けてなおも劣勢だった。
「てぇい!」
余白の木の葉が鎖のように連なり、ブネに巻きつき、鎖に変化する。
「今度こそ!」
そこに春香の羽根が飛ぶが、怨霊を思わせるブネの不気味な妖力に阻まれ、彼女には刺さらない。
「ふふ、非力ね」
「このぉ!」
あざ笑うブネの顔面に回し蹴りを見舞うエリスだったが、春香の羽根の様にブネの妖力に止められてしまう。
「今度はこっちの番よ」
そう言って、いとも容易く余白の鎖を引きちぎると、既のところで止められたエリスの足を掴んで、春香の方に投げつける。
「いや〜、やってるね〜」
緊張感が漂う戦場に、何とも不似合いな気の抜けた声が響く。
「ヴァサゴ殿」
「何しに来たの。暇つぶしなら他所でやって」
声の主の遊び人風の男に、思い思いの言葉を投げかけるグラシャラボラスとブネ。
「酷いな〜。援軍に来てあげたのに。決して王が怖くてにげてきたわけじゃないよ?」
「そう。王様が怖くって逃げてきたのね」
ブネの方はこの男に容赦が無いようだ。
「やはり王が……。どうやら正気ではないなないようだが、何か手を打たなくて良いのですか?」
「ああ、とりあえず俊紅の彼でも与えておこうかなと。たぶん、長い眠りで消耗しきっているのが原因だと思うから」
その言葉にエリスの顔色が変わる。
自分の腕を噛み、本日2度目のリミッター解除。
が、それと同時にヴァサゴに飛びかかる桜がいた。
「てめぇ、走矢は今、どこにいる?! 返せ! アイツは餌でも回復アイテムでもねぇ!!」
「うひ〜、こわい〜!」
桜の攻撃を回避したヴァサゴだが、それを見た者は違和感を感じた。
「なに?! 瞬間移動の様にも見えるけど……」
何とも不思議な感覚に包まれる春香。
「逃げるな!」
「逃げますって!」
「あら、そんなに元気なら私と遊びなさいよ」
桜とヴァサゴのやり取りに割って入るブネ。
「邪魔するな!」
「するわよ。一応、上司なんですもの」
「邪魔……しないで。あの子が……走助が」
桜の口調がいつもと違う事に春香やエリスが気づく。
「また、私からあの子を奪うの!!」
桜の翼が真紅に染まり、怒号と共に放った拳は、ブネの妖力を貫通し、深々と腹部に突き刺さる。
「がはぁ!!」
断末魔のような音を響かせるブネ。
さらにもう一発、反対側の拳がブネの顔面にめり込み、ピンポン玉のように吹っ飛ばす。
「2度もあの子を死なせるもんですか!」
桜の咆哮にグラシャラボラスとヴァサゴまでもが怯む。
「血桜、久しぶりに見たけど……」
春香がポツリと呟く。
「血桜? なにそれ?」
春香の呟きに食いつくエリス。
「桜が本気で切れるとあの子の翼が真っ赤になって手がつけられなくなるんです。それでついたあだ名が……」
「血桜ってこと?」
エリスの言葉に黙って頷く春香だった。
その時、ガッシャーンと、音をたてて空間を突き破ってくるママチャリが1台。
「やっと着いた!」
「お疲れ様」
ママチャリをこいでいたのは雪女の柊 雪那、後の荷台には黒いセーラー服を着た櫛名田 八重子がいた。
「雪那さん。これはいったい……」
「ああ、これはね、走矢との繋がりが不安定になっていつもみたいに彼を介して顕現てきなかったから、直接来てもらったの。温羅さんと、八重子さんにね」
やり遂げた、と言いたげな笑顔の雪那。
『温羅さん?』
しかし彼女以外、全員がくびをかしげる。
「あの……。後ろには八重子さんしか居ないんですけど……」
申し訳なさそうに真実を伝える春香。
「へ……?!」
笑顔が一気に引きつる雪那。
「えっ、えっ? えぇぇぇぇ!!」
「だから私が言ったじゃないの」
激しく動揺する雪那にあっけらかんと物申す八重子。
「いつ、いったいいつ言ったんですか!!」
「『あっ』って言ったわよ。私」
「『あっ!』で、わかるわけないじゃないですかぁ!!」
「『あっ!』じゃないわよ、『あっ』よ」
「ちょっとは驚いてくださいよぉ! って、どっちでもいいです、そんな事は!!」
「うっ、温羅さんどこかに落としてきちゃったんですか?」
雪那と八重子のやり取りを見て、恐る恐る尋ねる春香。
『そうみたい』
2人はハモって応える。




