総力戦7
かつて勇魚が開発した特殊臓器、『凶月』。
平時は休眠状態なのだが、生命活動が低下すると覚醒し、この臓器を移植された者を狂戦士へと変える。
走矢拉致作戦に参加した72使徒の中で最もダメージが大きかったエリゴールとアモンに移植されたこの臓器は、彼女達を勇魚の駒として操る事が可能で、宿主のデータを集め進化する。
「凶月が起動したようね。良い実験データが取れるといいんだけど」
フォカロルがバーサーカーの気配を感知し、嬉しそうに話す。
「バーサーカーを作るのに臓器移植は手間がかかり過ぎなのでは?」
「アレの最終形態はバーサーカーなんかじゃないわ。凶暴化はよりデータを集めるための基礎システムよ」
ブエルの疑問に嬉しそうに応えるフォカロル。
「幸運な事に、その実験相手があのヘルマリナだなんて、これも日頃の行いの賜物ね」
今にも踊りだしそうなほど、上機嫌なフォカロル。
「やはり自分の発明品というのは思い入れが違いますね」
それを見たブエルがポツリと呟く。
「ええ、そうね。王は確かに素晴らしい発明品だれども、ここまで感情的にはなれないわ。やっぱり自分の手で生み出した物は感動が違うわね」
心臓を移植して身体を乗っ取るという行為。
それは脳を含む相手の身体を使うため、脳が持つ情報や性格を容易に再現できる。
そのため勇魚は普段、フォカロルを完全再現する事で、他の72使徒を欺き、暗躍し、ブエルを支配下に置いた。
しかし今、この場ではかなり強く、勇魚の部分が顕になっていた。
「九骸達が王を守り抜いても良し、奪われても良し。どう転んでも私に利がある展開よ」
大はしゃぎする勇魚を見て、ブエルは自身の胸に手を当てる。
そこは不意打ちで移植された、凶月のある部分だった。
狂戦士と化したエリゴールとアモンの猛攻に苦戦する理奈。
当初は凶暴化の類と見ていた理奈だったが、戦っているうちにその考えを改めていた。
「動きの精度が上がっている?!」
最初は凶暴さにまかせた力押しの戦い方だったのが、時間が経つにつれて、冷酷な戦士の戦い方に変化していった。
流れ出る血を槍状にして構えるエリゴール。
炎を纏い、自在に変化させるアモン。
単純に能力が跳ね上がっているだけではなく、再生能力まで身につけた2人は、理奈からみても手強い相手だった。
「仕方ありませんね」
そう言って自ら手首を傷つけ、流れ出る血を頭から浴びる。
理奈の切り札、血粧を使った動きはデータにないはず。
初手でどちらか1人でも倒せれば。
滴り落ちる血を指で弾いて敵に向けて飛ばすと、ソレは網状に広がり、2人を拘束する。
炎で焼きつくし、すぐに拘束を解いたアモンに対し、エリゴールの脱出は少しだけ遅れる。
この時間差を狙いアモンに仕掛ける理奈。
先程のように血を飛ばすと、今度は隙間の無い風呂敷の様に広がり、アモンを完全に包み込む。
「捕えた!」
そう言って左手を強く握りしめると、それに合わせるように、アモンを包んだ血がアモンごと圧縮していく。
それに対してアモンも炎で抵抗するが、先程の網よりも血の密度が高いため、すぐには焼きつくせない。
「やらせません!」
理奈な右手が、アモンを自身の血ごと貫き、元凶の臓器を引きずり出す。
「何とも禍々しい臓器ですね……」
そう呟くと、凶月を握り潰して四散させる。
「これで1対1になりましたね」
血の網から脱出したエリゴールの方を向き、構える理奈。
しかし次の瞬間、その顔が青ざめる。
四散した禍々しい臓器が床を這って集合し、再生したのだ。
「そんな……」
呆気にとられる理奈の前で臓器は肥大し、アモンの形になる。
アモンとエリゴールの2人による連撃。
もう、血粧の動きに対応している2人の攻撃に、防戦一方の理奈。
「こうなったら切り札を……」
理奈の切り札とは、自らに呪いをかけて暴走状態になると言うもの。
肉体にかかる負担や体力の消耗、それ以上に危惧すべき問題が、暴走状態から元に戻れなくなるかもしれないという事。
決して血粧やリリスたちが使うリミッター解除の様に、頻繁に使えるモノではないのだ。
「それでも、この不死身モドキを野放しにはできない……」
理奈が意を決した次の瞬間、エリゴールとアモンの動きが止まり、鋭い斬撃が2人を薙ぎ払った。
「異様な気配がしたのでな。増援の投入だ」
「なに、コイツら?! 精神がグチャグチャ何ですけどぉ」
現れたのは、待機部隊に所属していた霧香と夢子だった。
「気をつけてください、まだ全てがわかったわけではないんですけど、かなり不死身に近い敵です」
「なに不死身って?!」
「ほう、面白そうだな」
驚く夢子に興味深そうな霧香。
「ちょっと、感心してないで何とかしてよぉ。コイツら、長くは抑えてられないわよ!」
「フッ、大丈夫だ。すぐに終わる」
そう言って刀を地面に突き立てる霧香の背後で、骸骨を模した鎧を纏った巨大武者が立ちあがる。
「外連餓者髑髏、とくと見よ!」
霧香の号令と共に、巨大武者が不死身の敵を迎え撃つ。
アモンの炎が巨大武者を包み込み、エリゴールの槍が受けた左腕を破壊する。
と、同時に巨大武者は右手に持った刀でエリゴールを斬りつける。
そのまま地面に叩きつけられるエリゴール。
本来ならこれで勝負がついていそうなモノなのだが、持ち前の再生力で回復し、巨大武者の刀を押し返す。
そしてアモンも炎を纏って巨大武者の頭部を殴りつけ、ひるませる。
「ぐうおぉぉぉ!」
雄叫びとも悲鳴とも取れる声を出すと、巨大武者は刀を押し返しているエリゴールを蹴飛ばし、フリーになった刀でアモンを斬る。
その一撃で上下に分断されたアモンだったが、何事もなかったかのように両手を巨大武者の顔面に向けると、最大火力の火炎術を放つ。
その燃えさかる頭部めがけて、エリゴールが槍を振り下ろすと、巨大武者は縦に両断される。
「フッ、見事だ」
「まどろっこしいわね。自爆とかできないの?」
「戦う事自体が封印の儀式のようなモノだからな。仮にできても封印の力が弱くなるってしまうだろうな」
霧香と夢子が話している間に、倒された巨大武者は呪詛の紋様となり、エリゴールとアモンの身体に刻まれる。
「ガッ、ガガガッガァ!!」
断末魔をあげる2人を紋様は押しつぶしていき、最後は呪詛の刻まれた臓器だけが残った。




