総力戦6
72使徒の隠れ家。
その一室にて王の期間に備えて準備をする小柄な男、ブエルにフォカロルが話しかける。
「首尾はどう?」
「上々ですよ」
「例の2人は?」
「そちらも問題ありません」
小柄な男は淡々と応える。
エリゴール、アモンと交戦する別働隊A。
敵2人のコンビネーションに手こずりながらも、押し気味の展開だった。
「くそっ!」
前衛のエリゴールが吐き捨てるように言う。
アリスと玲奈の猛攻に、エリゴール1人では耐えきれず、後衛のアモンが十分に機能しないなだ。
「エリゴール!」
「すまない、アモン。今度は通させない!」
気合を入れ直すエリゴールだが、アモンにはこの戦いに勝ち筋が見えなかった。
エリゴールと対峙するアリスと玲奈は、ざっと見ても単体でエリゴールと同じくらいの強さ。
ソレを2人同時に相手するというのが、無理な話なのだ。
加えて相手は、理奈と梨央という、余力も残している状態。
『ここは一旦引いて』と、喉まで手かかるが、それができない事情があった。
ここまでに2度、敗走しているアモンとエリゴール。
さらに2度目の敗走時には第ダメージを受け、ブエルに手間をかけさせてしまっている。
何とかここで取り返さないと、72使徒内での立場が危ういと考えているのだ。
「今だ、アモン!」
エリゴールの声で我に返るアモン。
何とか2人を押さえ込んでいるエリゴールの姿を見て、咄嗟に強力な火炎妖術を発動させる。
「させない!」
そう言うと、玲奈はエリゴールを押し返し、一瞬のスキをつくる。
そのスキを逃さず、エリゴールな脇を抜けていくアリスは翼を広げ、低空飛行でアモンに突進する。
「くっそぉ! アモン!!」
「よそ見とは余裕ね!」
アリスとアモンに意識が向いてしまったエリゴールに、玲奈の膝蹴りが決まる。
「かはっ?!」
乾いた悲鳴をあげるエリゴールを、玲奈は巴投げで後方に投げ飛ばし、アモンと引き剥がす。
一方、アモンとアリスの方は、アモンの火炎妖術が完成する前にアリスの突進が決まり、アモンをふっ飛ばす。
「いい加減、諦めなさい。あの子が待ってるの。あんた達なんかにかまっている場合じゃ無いのよ!」
かつてアリス達の父、走司が命を落とした時、母のお腹の中にいた新しい命も失われた。
アリスはこの、産まれてこれなかった命が帰ってきたのが走矢だと信じていた。
叔母さんと呼ばれたくないと言うのも本音だが、彼の事を本気で弟だと思っているからこそ、自分を姉と呼ばせているのだ。
「あの時のアタシは、父さんも母さんもあの子も守れなかった。だから鍛えたの、残った家族を守るために!」
倒れて動かないアモンに、アリスが咆える。
その咆哮を聞きながらエリゴールに猛攻を仕掛ける玲奈にも思う所があった。
玲奈の父親、燈矢が何者かに殺害されたとき、その原因がかつて、あちこちで問題を起こしていたジブンニあるのでは、と考えた母親、理奈は双子の弟の新矢を佐伯家に預けた。
母は新矢のため、もう2度と彼に関わらないと決めていたが、その新矢が何者かに殺され、息子の走矢までが死にかけたと聞き、彼のもとでその命を守ると誓った。
そこではじめて新矢の死を知った玲奈はひどく落ち込んだが、彼に息子がいたことを知り、母の後を追って走矢の前に現れた。
大事な下の兄弟を守れなかったという点と、それ故に走矢を守るという点で、この2人は共通していた。
「せぇい!」
掛け声と共に放った右後ろ回し蹴りが、エリゴールの槍をへし折り胴体に深々と突き刺さる。
「ぐっ……」
必死に断末魔を押しとどめながら、立った状態を保たんとするエリゴール。
そんな彼女に玲奈は翼を羽ばたかせ、着地することなく追撃の左回し蹴りを顔面に炸裂させる。
「ふうっ、思ったより手こずったわね。先を急ぎましょう……?!」
エリゴールを撃破した玲奈が、倒れた2人の異常に気づく。
2人の気配が消え、別の気配、妖力が強くなっているのだ。
「なに? 何が起こっているの?!」
動揺するアリスの足首をアモンが掴む。
「まずい」
それまで静観していた理奈が飛び出し、アモンの手を蹴飛ばし、アリスを引き離す。
「なっ?!」
アリスを逃したアモンの手が床に触れると、ジュッと音をたててソレを蒸発させ、それを見たアリスが驚愕する。
起き上がった2人を見て一同はさらに驚く。
エリゴールとアモンの目には白目も黒目も無く、全てが赤く染まっていた。
本来の戦闘スタイルを無視して飛びかかってくる2人に、冷静にカウンターをキメる理奈。
「この2人は私が相手します。貴女達は先を急いでください」
アリス達に背中を向けたまま理奈は指示を出す。
「でも……」
言いかけたアリスを玲奈が制す。
「多分それが最善。任せて良いわよね? 母さん……」
玲奈の言葉に微笑んで返す理奈。
ソレを確認して奥に進む玲奈と梨央。
その後を追うアリス。
ソレを阻止するように飛びかかるエリゴールとアモン。
おそらく動くものに反応しただけで、知性による判断ではない。
無防備な2人の背後を掌打で襲い、地に伏せさせる理奈。
「走矢を頼むわね」
そう呟き、バーサーカー2人の相手を決意する。
レイカは走矢の俊紅狙ってい頃、彼の前で倒れるふりをして知り合うキッカケを作った時の事を思い出していた。
平和ボケした馬鹿な人間。
ソレが当時の走矢に対する評価だった。
しかし。彼の事をよく知るようになると、その考えは大きく変わった。
なんの力も無く、妖に狙われるだけの存在。
母や桜達のような妖に守られなければ何もできない自分を否定するかのように、彼が血を流している様に見えた。
きっとあの時も、倒れる自分を放っておけなかったのだろう。
常に助けられている自分は誰かを助けなければならない。
そんな強迫観念が常に彼を支配しているのではないのか?
そう考えると、彼も自分達と種類が違うだけで、苦しみを背負いながら生きてきたのではないか?
そしてついさっき……。
『良かった、意識が戻ったんだね。妹さんの方も大丈夫だよ……』
「バッカじゃないのぉ! つい最近よ、命を狙ったのは! それを!!」
魔法生物達との戦闘中に突然叫ぶレイカ。
「あっ、姉貴?!」
「どうしたのよ、いきなり……」
突然の絶叫に目を白黒させるレイコと星垂。
「何でもないわ!」
そう叫ぶと背中の羽を震わせる鱗粉を撒き散らすレイカ。
その鱗粉は中空に羽と同じ眼の模様を描き、それを見た魔法生物達はレイカの意のままに操られる。
「さあ、道を開けなさい」
そうレイカが命じると、操られた魔法生物達が後続の同胞に襲いかかる。
「きっと貴方みたいな人間は、簡単に他人の命を選択するんでしょうね。自分の命より……」
「姉貴……」
「何でもないわ。さぁ、借りを返しにいくわよ」
俊紅でパワーアップした力で道を切り拓く




