イグドラシル14
「いきますよ」
アガレスの言葉と同時に、槍状に隆起した物が次々と発射される。
「くっ!」
「なんて数だ!」
何とか回避する桜と春香。
それを見たアガレスは拍手を送る。
「素晴らしい反応速度ですね。でしたらもう一手加えましょう」
笑顔で右手を桜達の方に向けると、ビー玉ほどの妖力弾を大量に出現させる。
アガレスがそのうちの1つを指で弾くと、その1つが次々と他の妖力弾を弾き飛ばし、高速で桜達に迫る。
「桜、絶対に食らっちゃ駄目よ。見た目に反してとんでもない妖力を圧縮してあるわ!」
「わかってる! 一発でも食らったらアウトだ!」
槍と妖力弾を必死に回避する2人。
「桜、ハルちゃん! そこまずい、逃げて!!」
走矢を抱えて離れて見ていた直が叫ぶ。
ちらりと横目で直を見ると、上を指差しているのが分かる。
2人はハッとする。
地上から発射された地面、つまりは土の槍はどうなったのか?
2人は恐る恐る視線を上にやる。
「くそっ! 何が素晴らしいだ!」
「最初からこれが狙いだったのね」
桜達の上空には彼女達がかわした槍が、尖先を向けて待機していた。
「素晴らしいと言ったのは本心ですよ。ただ、私も負けられませんので、色々と手は打たせていただきます」
アガレスの妖力が高まっていくのがわかる。
「ソウちゃん、ちょっとゴメン!」
「俺は大丈夫だから」
走矢は直にしがみつき、手の空いた直は両手を桜達の方にかざすと同時に、槍と妖力弾が彼女達を襲う。
直が使う亜空間の糸。
これは亜空間結界を糸状にした物で、触れたものを亜空間に捕らえ動けなくするという物。
この亜空間を閉じる事によって、捕らえた部位を破壊したりできるのだが、直はこれを好まない。
そして今、桜達を守るためにこの亜空間結界を展開し、代わりに攻撃を受けさせようというのだ。
「コイツは直の?!」
「これなら何とか……」
希望が見えた2人だったが……。
「これでは面白くありませんね」
アガレスが直に向けて、妖力弾を発射する。
「へっ?!」
高速の妖力弾は直を貫き、一瞬遅れてそれに気づき、墜落していく。
「直!!」
「守りが無くなるわ、こっちに集中して!」
春香の言うとおり、亜空間が消え、アガレスの容赦無い猛攻に晒される。
「くそっ!」
直と共に墜落した走矢は、手首に巻かれた春香のスカートをとって、傷口から流れる自身の血を直に飲ませようとする。
しかし、そんな彼の足に魔法でできた鎖が巻きつく。
「悪いけど、拘束させてもらうわよ」
それはダンタリオンの仕業で、彼女の持つ1冊の本から鎖が伸びていた。
それでも必死に抗い、直の口に手首の傷をつける走矢。
上手く血を飲ませられたか不明だが、足に絡みついた鎖に引きづられ、直から引き離される。
「アガレス様。佐伯走矢の確保、完了しました」
「そうですか。こちらも丁度終わったところです」
地に伏す桜と春香を見ながら、アガレスは微笑む。
「お手を煩わせて申し訳ありません、アガレス殿」
「構いませんよ、フォルネウス。それにダンタリオンも。積もる話は落ち着いた場所でしましょう」
「そうですね、長居は無用です」
そう言ってダンタリオンはもう1冊本を取りだし、それに触れると突然、亜空間が出現する。
「行くわよ、佐伯走矢」
ダンタリオンは冷たくその名を呼ぶ。
しかしその時、走矢は聞き慣れた声を聞く事になる。
「待ちなさい! 走矢は連れて行かせないわよ!!」
「母さん!」
何とかガミジンの妨害を振り切って、エリスが息子の元にたどり着いたのだ。
必死に抵抗する走矢。
しかしそんな彼に音も無く近づいたアガレスが耳打ちする。
「もし大人しくついてきてくれるなら、貴方のお父さんの死の真相を教えてあげます」
その言葉を聞いて、走矢の動きはとまる。
「走矢ぁ、そんな奴の言う事を聞いちゃ駄目よ!」
「ても、父さんの……」
「母さんの言う事を聞かないと釣り天井固めよ!!」
ひいっ、と小さく悲鳴をあげる走矢。
「あらあら、おっかないお母さんね」
アガレスは微笑みながらダンタリオンに指示を出すと、亜空間が広がり、走矢とアガレス達を包もうとする。
それでも必死に手を伸ばす走矢、それを掴もうとするエリスだったが、あと一歩及ばず我が子は亜空間に消えていった。
その場には、息子を掴みそこねた自分の手を握りしめる母親の姿だけがあった。
その頃、佐伯本家ては清十郎が、佐伯家家宝、霊刀星元を抜き、ガミジンの分体と彼が従えたアンデッド達を斬り伏せていた。
「お見事です」
呪符を使う職員が清十郎の活躍を賞賛する。
「だいぶ足止めを食らってしまったな……。他の状況はどうなっている?」
「それが……。佐伯走矢君が敵に連れ去られたそうです……」
その報告を聞いて、清十郎は家宝の刀を落とす。
「ここがあいつらの根城ね……。ん? あの子は……。そうか、俊紅だから何かに利用するために連れてこられたのね」
上沢高校を抜け出した南沢 悦子は美原家を調べていて、屋敷を後にするフォカロルを見つけた。
そのフォカロルを追って、72使徒の拠点を見つけ、そこで囚われた走矢を見つけたのだ。
「一応、連絡しておいたほうがいいかしら」
そう言って悦子はスマホを取り出す。




