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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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イグドラシル12

 人妖機関第18支部の近くにある、深夜営業中のファミレス。


 そこで1人、コーヒーを飲む男の後ろの席に、子供が座る。


「ご足労いただき、恐縮です。根谷さん」


 人妖機関第18支部長、根谷 篤郎(ネヤ アツロウ)の背後の席に座った少年、ラードンが背中越しに話しかける。


「私と直接話がしたいと?」


「ええ、貴方と取引がしたくて。単刀直入に言います。エキドナ事件であなた方が回収した肋骨をこちらに返却していただきたい」


「それはなかなか難しいですね。あの肋骨を手放すと言う事は、エキドナを野に放つという事。人妖機関としては絶対に呑めない条件です……。よほどの事が無ければ……」


 そんな根谷に対し、ラードンは折ったメモ書きを2枚見せる。


「1つは虚空が奪った、王の遺体の場所が。もう1つには72使徒の拠点が書いてあります」


 それを聞いて目の色が変わる根谷。


 メモ書きに手を伸ばそうとするも、引っ込められ、お預けを食らう。


「慌てないでください。取引と言ったはずです」


 そう言ってメモ書きの1枚を渡す。


「人妖機関の職員が逃走した虚空の後を追って、見失ったはずです。その見失った近辺を捜査しているようですが、彼らはそのホテルの地下駐車場の黒いバンに、遺体を隠しています」


 メモ書きに書かれていた住所は、確かに職員が見失ったエリアからそう遠く離れていない場所だ。


「おまたせしました」


 そう言って店員がラードンのテーブルに大盛りのフルーツパフェを置く。


「僕がこのパフェを食べ終わるまでに返事をください」


「少し急じゃないか? もう少し時間を……」


「そうしたいのは山々なんですが、情報という物は鮮度が命でして、おそらく数時間後とかには価値が無くなっている可能性があるんですよ」


 ラードンの言葉に思わず振り向いてしまう根谷。


「それはいったい……」


「数時間以内に、事態が大きく動くかも知れない、という事です」


 しばしの沈黙のあと、根谷はスマホを取り出し、どこかに電話をかける。


「今すぐ来れるか?」


 ラードンは黙ってパフェを食べるのをやめ、それを向かいの席に座っていた房士の前に置くと立ち上がる。


「残さず食べをてくださいね。お店の人に悪いですから」


「私には悪いとかないんですか……」


 ブツブツと言いながらも、一瞬で平らげる房士だった。


「いきなりアレが無くなれば、大騒ぎになってしまうんだが、何か用意しているのか?」


「精巧にできた偽物を用意しました」


「そうか。今から30分ほど、ソレが置いてある部屋のセキュリティが停止する」


「なら急いだ方がいいですね」


 ラードン達は早歩きでファミレスを出る。




 敵を引きつけるために、霧香達の元を離れ、公園の木の陰に隠れて様子を見る走矢。


「蒼炎さんが言っていた、ヤバい奴ってあいつらの事か?」


 その視線の先には、上空から走矢を探すフォルネウスとダンタリオンが居た。


「信じられない。まさか全滅したうえに俊紅を取り逃がすなんて!」


 少女、ダンタリオンはブツブツと文句を言いながら、中空からかり本を一冊取り出すと、何かを念じはじめる。


「何してんだ?」


 ダンタリオンを見ながらつぶやく走矢の横に、土製のゴーレムが出現する。


「うわぁ?!」


 思わず声をあげる走矢。


「そんなところにいたの。さぁ、その子を捕まえて」


 決して足の速くない土製のゴーレムだが、数が多く走矢は追い込まれていく。


 そんな彼を何者かが掴んで空へと飛び立つ。


「大丈夫? ソウちゃん!」


「直?! それに桜に春香も!」


「直の両親が呼ばれて、咲花もなんだか治療で駆り出されてるって言うし」


「走矢くんの家の方から凄い妖力が激突しているしで、来てみたらとんでもない事になっているし?! 走矢くん、その傷……」


 霧香達に血を飲ませたとき、走矢が自分でつけた傷に、春香が気づく。


 それを見た桜と直は言葉を発さない。


 走矢がそういう人間だとわかっているからだ。


 春香が自分のスカートの裾を破いて、包帯代わりに走矢の傷口に巻きつける。


「お前はまた……」


「だまって!」


 いつものように茶化そうとする走矢を春香は一喝する。


 普段は絶対に見せない春香の態度に、走矢は目を丸くする。


「直、走矢を頼む。下はゴーレムだらけだからな」


「あっ、うん。わかった」


 空中に浮遊した状態で前に出る桜と春香。


「春香……」


 走矢に対する態度が気になった桜が小声で話しかける。


「なんだか彼が幸福の王子みたいになっちゃいそうで、耐えられなかったのよ……」


 言葉を絞り出す春香に桜は小さく頷く。


「私は走矢のツバメになるつもりはないから!」


「ああ、俺もだ!」


 数のうえでは2対2。


 桜と春香はまず、ゴーレムを操るダンタリオンに狙いを定める。


 ダンタリオンは中空から別の本を取り出すと、前方に妖力の壁を作り出す。


「てぇい!」


 と、自分の翼から抜いた羽根を投げナイフの様に放った春香。


 予想どうり妖力の壁に(はば)まれるが、彼女の目的はあくまでも自分の羽根を周囲にばら撒くことだ。


 そして、壁を除けてダンタリオンの背後に回り込もうとする桜。


「私を無視するとは……」


 そう言ってフォルネウスがパチンと、指を鳴らすと空中にもかかわらず、周囲が水で満たされる。


(なんだこりゃ!)


(この男の結界ね。なら!)


 満を持して幻影結界を発動させる春香。


 フォルネウスの水の結界が消え、桜と春香が反撃に出る。


「結界への対処が早いな」


「若いのに戦い慣れしてるのね」


 敵2人は感心しながら水と妖力の槍を放ち、桜と春香を迎撃する。


『なに?!』


 突っ込んできた桜と春香を槍がすり抜け、敵の2人は驚きの声をあげる。


(まぼろし)か!」


「正解!」


 春香がフォルネウスに応えると同時に、桜と春香の渾身の蹴りがフォルネウスとダンタリオンを捉える。

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