イグドラシル11
「レイカ!」
オートマタの自爆に巻き込まれたレイカを目の当たりにして、夢子が絶叫する。
「目の前の敵に集中して! そいつの火力は一撃で貴女を吹き飛ばすわよ!」
動揺する夢子に星垂が檄を飛ばす。
「仲間がやられたぐらいで、取り乱し過ぎだ」
星垂の言うとおり、支配力が弱まったバルバトスは、腰の矢筒からやをとりだし、弓につがえようとしていた。
「くっ、させない!」
再び精神支配を強める夢子。
しかしバルバトスは、つがえようとした矢を太ももに刺し、痛みで支配に打ち勝つ。
「こんな事で私を抑え込めるなどと思うなよ!」
「このぉ!」
それを見た夢子は即決し、一気に距離を詰めるてバルバトスの頭を掴む。
「あたしの精神支配は距離を詰めるほど強力になっていって、今みたいな頭を掴んだ状態が一番強力になるの。もう、あんたを自由にはさせない!」
「構わん、アモン。私ごとヤレ……」
言葉を振り絞るバルバトス。
「よく言ったわバルバトス。それでこそ72使徒」
そう言って上空の赤い雲に両手をかざすと、さらに激しく渦巻きだす。
「させない!」
「ソレはこっちのセリフだ!」
アモンを止めようとする星垂とソレを阻止しようとするエリゴール。
エリゴールの槍を脇腹に受けながらも彼女を振り払い、アモンに突撃する。
「なに?!」
大業の準備でスキだらけだったアモンは顔面を掴まれ、慌てふためく。
「食らいなさい!」
星垂の、ウイルウィスプの青白い、生きた炎がアモンを包み、悲鳴を詰まらせながら炎の72使徒は炎上する。
「アモン?! キサマよくも!!」
激昂したエリゴールが、その自慢の槍で星垂を背後から貫く。
「あら、そんなに仲がいいなら同じにしてあげるわ……」
そう言って貫いた槍を掴む星垂。
青白い炎が槍を伝ってエリゴールに燃え移る。
「ザマァ見なさい……」
その言葉を残して星垂は力無く倒れる。
「あっ、アモン……」
そしてエリゴールは先に力尽きたアモンに折り重なる。
「星垂?!」
ムルムルと接戦の霧香が叫ぶ。
「くっ、ならば私自身で決着をつける……」
バルバトスの口から血が伝う。
「あんた、一体何を?!」
舌を噛み、痛みで精神支配に抗うバルバトスが自身の足元目掛けて矢を放とうとする。
「そんな事をしたら……」
「私も無事では済まないな。怖いか? なら逃げたらどうだ?」
「逃げる? みんなをおいて? バカ言わないで! みんな仲間なの……。お互い傷を舐めあえる大切な仲間なの! 見捨てるなんてできるわけ無いでしょ!」
同性を操る事ができるため、同じサキュバス達から迫害された夢子。
その翼の形状のせいで、同族のヴァンパイア達からも忌み嫌われたレイカとレイコ、羽月。
人間から産まれたにもかかわらず、魔女として迫害された紗由理。
相反する力のヴァンパイアの混血であったため、苦しんだ小夜子と、生まれながらに苦しんだ者同士、いつの頃からか絆のような物が出来上がっていた。
「そうか……。ならば共に散れ!」
(ああっ、また枕投げしたかったな……)
夢子の想い共々、バルバトスの放った閃光が全て吹き飛ばす。
「くそ……」
バルバトスの閃光を横目に、感情を吐き出す霧香。
「よそ見とは舐められたものね」
ムルムルが槍を地面に突き刺すと、その地面を伝って衝撃波が走る。
「くっ!」
辛うじてソレを回避すると、持っていた刀を投げつけ、ムルムルの元に走りだす霧香。
「悪あがきを……。 何?!」
霧香の投げた刀に気を取られているうちに、ムルムルの左右に刀を持った骸骨が出現していた。
「小賢しい真似を!」
骸骨をなぎ倒すムルムル。
しかし、骸骨達はムルムルには目もくれず、自分の刀を霧香目掛けて投げていた。
ソレをキャッチして二刀流となる霧香。
ムルムルの攻撃を身を低くしてかわすと、起きあがる勢いを利用してバッテンに斬り裂く。
「そん……な」
倒れるムルムル。
「星垂?!」
倒れた仲間を気づかう霧香だったが、何者かが背後から彼女を貫く。
「なに……。お前は?!」
ソレはムルムルが騎乗していたグリフォンだった。
二足歩行で立ち上がり、前足の猛禽類の爪で霧香を貫いたのだ。
「ヤレヤレ、お前のおかげで新しいムルムルを探さなくてはならなくなった」
「まさか、馬の方が主だったとはな……」
「まぁ、そういう事だ。そうだ、お前を倒したら新しいムルムルにしてやろう」
「それは負けられないな」
翼を広げ、空中から急降下で攻撃してくるグリフォン。
そんな中、ダメージも消耗も大きい霧香は勝負に出る。
(それは負けられないな、星垂たちのためにも)
巨大骸骨達を出現させ、それを足場に登っていく霧香。
「ふん、地面が無ければ骸骨は出せんのだろ?」
「ああ、地面さえあれば骸骨はいくらでも出せる!」
余裕のグリフォンの周囲に、巨大骸骨達が何かを放り投げる。
それは巨大骸骨達がえぐり取った地面だった。
「何?!」
えぐり取られた地面から骸骨達が出現し、持っていた刀をグリフォンに投げつける。
油断していたグリフォンは全てを避けきれず、翼にダメージを受け、飛行能力が低下する。
「言ったぞ! 負けられないと!!」
怒号と共に振り下ろされた刃がグリフォンを捉え、2人は地面に激突する。
次々と倒れていく収容組を見ていて、走矢は何もしなかったわけではない。
以前、火織を救った時のように、縁のある妖達に助力を祈ったのだが、何も返ってこなかったのだ。
「これじゃ本当にやくたたずだ……」
自分の無力さに打ちひしがれる走矢に、かすかな蒼炎の声が届く。
(走矢、何かとんでもない奴が俺達とお前の接触を阻んでいる。気をつけろ、相当ヤバイ奴が近くに居るぞ!)
「ん、私は……」
意識を取り戻した霧香。
グリフォンに貫かれた傷も癒え、とりあえず動くことができる。
「先輩、大丈夫ですか?」
「少年……。君の俊紅か?!」
走矢の手首から流れる血を見て、察する霧香。
「他の人達も一命は取り留めました。これを、もし俊紅が足りない人がいたら飲ませてあげてください」
それは血の、おそらくは俊紅のそそがれた茶碗だった。
「待て、どこに行く気だ!」
「ヤバイ奴が近づいてます。狙いは俺みたいなんで、なんとかここから引き剥がします」
「待て、少年!」
「みんなやれる事、やるべき事をやったんです。俺が何もしないわけにはいかない……」
そう言って走りだす走矢を止められるほどの回復を、霧香はしていなかった。




