イグドラシル6
エリス達が支所内で夏を救出していた頃、外ではまだ戦闘が続いていた。
白いワンピースの女は両手でスカートをつまみ上げ、目にも止まらない速さの蹴りを繰り出す。
「くっ?! なんて速さなの!」
愛美距離を取りながら叫ぶ。
グール、ジーンズの女、そしてマミーと、
ほとんどの敵を倒したにも関わらず、このワンピースの女1人に苦戦していた。
「気をつけてください。彼女、まだ手の内を隠していますよ」
長年の経験から、理奈が注意を促す。
「距離を取って戦いましょう。その方が攻撃も集中させやすいですし」
リリスの提案に頷き、一同はワンピースの女から距離を取って攻撃する。
リリスは伸ばした爪を発射し、愛美は羽根弾で、日奈子は雷を降らせて攻撃するが、全て華麗なステップで回避される。
「これならどうです」
理奈は手首から手を伝って流れ落ちる自身の血を、指で弾いてワンピースの女目掛けて飛ばす。
血の水滴は女目掛けてとていく過程で、網の様に広がり、広域に展開する。
「ふふっ、少しは考えた様ですね」
ワンピースの女は焦る様子も無く、華麗な足技で網をバラバラに切り裂いてみせる。
「これにも対応しますか……」
理奈にも焦りが見えはじめる。
「くっ、こうなったら!」
距離を取っているぶん、相手に対応する余裕を与えてしまっていると考えた愛美は距離を詰め、ワンピースの女のギリギリ射程外からの攻撃を目論む。
「?! いけません、距離を詰めて反応し辛くなるのはこっちも一緒なんですよ!」
愛美の考えを察した理奈が制止するが、それよりも早く敵に急接近する愛美。
羽根弾を発射して離脱するという戦法。
しかし、その前に敵の足技が愛美を捉えた。
「うそっ?! 彼女のリーチでは届かないはずなのに?!」
ふっ飛ぶ愛美と、彼女の元に駆けつける理奈。
「これは……」
咄嗟にガードした愛美の両腕を見て理奈は言葉を詰まらせる。
愛美の両腕には蹴りではつかない、獣に咬まれたような傷がついていたからだ。
「避けきれない広範囲に攻撃するわよ!」
リリスの言葉に呼応する日奈子。
2人は女の背後に回り込み、攻撃態勢を取るが、女のスカートがめくれ上がり、大量の火球が飛んでくる。
「なにこれ?!」
驚きながらも女の攻撃を回避する日奈子とリリス。
「ようやくわかりました。貴女、スキュラですね?」
スキュラとは上半身が美女で下半身が獣の集合体という怪物。
「うふふっ、ご名答」
そう言って女はワンピースのスカートをめくり上げ、下半身の獣の群れを顕にする。
「ここからが本番よ」
女がそう言うと、獣達が一斉に口から火球を吐きだし、ソレが全方位にばら撒かれる。
一同が必死に火球を回避しながら女の方を見ると、彼女は重力を無視するかのように浮き上がる。
「空中戦はヴァンパイアだけの専売特許ではありませんよ?」
そう言って上空からさらに火球を撒き散らす。
「うふふっ、本当は遠距離戦闘の方が得意なんですよ。わたし」
スキュラの圧倒的な火力に成す術が無いリリス達。
「こうなったら……」
日奈子は翼を広げて急上昇して、スキュラの頭上に陣取り、攻撃態勢に入る。
「真上が死角だとでも思いましたか?」
そう言うと、女の身体が縦に裂けはじめ、ソレが獣の姿となり、スキュラは獣の集まりと化す。
「えっ?!」
上半身が変化した獣達は、群れから分離して日奈子に襲いかかる。
「危ない!」
そう叫ぶと同時に、リリスが日奈子を引っ掴んで攻撃を回避する。
「もう、何でもありですね……」
スキュラの猛攻に思わず言葉を漏らす理奈。
その時、何かのメロディが鳴り響くと、上半身が女の姿に戻ったスキュラがスマホを取り出す。
「ふぅ、今宵はここまでのようですね」
女がそう言うと、下半身の獣が2匹分離してダウンしていたグールとジーンズの女を加えて戻ってくる。
「では、ごきげんよう」
その言葉を残して、スキュラは夜空に消えていく。
「見のがされた……」
「悔しいけど、そのようね」
日奈子の呟きを、愛美は肯定する。
「奥の手を使わずに済んだと言うべきか、奥の手を使ってでも倒しておくべきだったと反省するべきか……」
理奈は自問自答する。
その頃、走矢の自宅には清十郎や上沢高校を寝所にする面々が集まっていた。
「すまんな走矢。夜遅くに押しかけるような真似をして」
「気にしないでください。一大事なんですから」
「あの、お茶をどうぞ」
「あっ、ごめん小夜子ちゃん。本当は俺がやらなきゃいけないのに!」
「気になさらないでください。私は何かやっていないと落ち着かない性分なんで」
走矢から状況を聞いた清十郎は、集まってきた戦力を2つに分ける事を考えた。
1つは支所への増援。
もう1つは不足の事態への保険だ。
エリス達が上沢支所を不法占拠していた虚空を取り逃がした場合、ソレを追うための部隊。
また、虚空の動きに合わせて、72使徒が行動を起こす可能性もある。
本音を言えば全戦力を支所奪還に投じたい清十郎だったが、今この街に潜伏しているモノ達の事を考えると、慎重にならざるを得なかった。
火織や羽月、紗由理は神崎 裕翔らと共に、支所への増援として出発した増援部隊。
その中には人間である夏の治療を考慮して呼ばれた、咲花も入っていた。
「火織さんも母さん達も無事なら良いんだけど……」
窓越しに夜空を見ながら、走矢は呟く。
上沢支所から離れていく、運送業者の箱型トラック。
運転手の中年男の他に、男女が1人ずつ。
「間一髪だったなぁ」
計3人が乗るトラックにて、見た目一番年長者の運転手の男、九骸が口を開く。
「だから、あんな綱渡りみたいな場所じゃなくって、最初っからちゃんとした所を隠れ家にすれば良かったんですよ」
運転手の九骸に突っ込むのは虚空の新人、連条 灰。
「灯台もと暗しって言うだろ?ああいうのが良いんだよ。こう言うのはなぁ、下手に色々考えると逆にすぐ見つかるモンなんだよ」
一緒に乗っていた女が大声と身振り手振りで持論を述べる。
その時、トラックのフロントガラスに何かが着地して中をのぞき込んでくる。
「見つけたぞ、九骸、虚空! 王は返してもらうぞ!」
「……。だれだ?」
「72使徒の……。ベリトとか言う人だったと思います」
「よし、灰。行け」
女に促され、渋々運転席の屋根に乗り、ベリトと対峙する灰。
「お前が相手か!」
ベリトが叫んだ瞬間、トラックの進行方向で爆発が起こり、トラックもろともふっ飛ぶ。




