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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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イグドラシル3

 もしエリスが、息子がどういう子かと聞かれたら、真面目で大人(おとな)しくて優しい子、と答えるだろう。


 それがエリスの知る走矢だからだ。


 ただ、この走矢はそれ故に、危険な選択をする事がある。


 かつてキメラ栄子の亜空間に閉じ込められたとき、桜達を助けるために大量の血液を失っている状態にも関わらず、さらに出血したりと優しさや真面目さゆえに、危険を(おか)す走矢。


 今回、命に関わるような事は無かったが、瀕死の日奈子を見て、迷わず自分の血を与えようとしたことは、想像に容易(たやす)い。


 血を与えるという行為は極論、命を削って与える行為だ。


 本来なら自分の命を削って他者を助ける行為は、賞賛されるべき行動。


 しかし、ただでさえ俊紅という、命を狙われる存在の彼が、自らその命を削るのは、母親として喜ばしいものでは無かった。


 若くして死んだ彼の父、新矢。


 せめて走矢には天寿を(まっと)うしてほしいというのがエリスの願いだった。


「走矢の事を考えているの?」


 目的地に向かう途中、不意に玲奈が話しかけてくると、エリスは静かに頷く。


「幼い頃、私が怪我とかすると、新矢はすぐに自分の血を飲ませようとしてたの。自分の手首を傷つけてね」


 それはエリスが走矢に抱いている懸念(けねん)と同じだった。


「それでね、一度だけあの母さんが新矢にもの凄く起こった事があるの。『安易に自分を傷つけてはダメ』ってね。でも私には新矢の気持ちもわかるの。守られてばかりでどこか後ろめたさのあったあの子が、少しでも何か自分にできる事をやろうって。だから私は、あの子を助けたときほんの少しだけ血をもらうことに決めたの。この牙を使えば自分を傷つける事もないから」


 それはエリスと走矢にも当てはまるモノだった。


 かつてエリスが大怪我を負ったとき、走矢は自身の手首を傷つけて、そこから流れ出る血を彼女に飲ませようとした。


 羽月のときも見かねた桜が走矢の手首を切り裂き、その血をエリスに(そそ)いだ。


 玲奈の言うように、牙を使っていれば避けられたかもしれない走矢の負傷は何度かあった。


「私達、ヴァンパイアの牙は傷つけるためのモノじゃなく、傷つけないためのモノよ。ソレを忘れないで」


「支所が見えてきたわ。いつ、攻撃を受けるかわからないから気をつけて!」


 エリスと玲奈の話が終わった頃、愛美が注意をうながす。




「私達が来たときはこの辺りで警備員に見つかったんだけど……」


 支所の入り口が見える場所で、当時の様子を話す日奈子。


「これ、血の跡? もしかして蒼条さんの?!」


 夏の痕跡らしきモノを見つけたアリス。


「入り口の方に向かっているわね」


 入り口に向かいながら、エリスは支所の鍵を取り出す。


 両開きのドアを開けると、躊躇(ちゅうちょ)なく支所に入っていくエリス。


 あわてて後を追う玲奈、アリス、そして余白が施設内に足を踏み入れると、突然ドアが閉まり、障壁を出現させる。


「しまった! 罠だわ!!」

 

 咄嗟(とっさ)に声を荒らげる愛美。


「そういう事。貴女達の相手は私達、アウトソーシング部隊がしてあげるわ」


 その言葉と共に、支所内のエリスたちの前にオルトロスが立ちはだかる。


「いつの間に?!」


 外にいるリリスも、何者かの気配に気づく。


 リリス達を囲む者達。


 そのほとんどは以前、桜達が遭遇したマミーモドキ。


「あたしにまかせて!」


 そう言って日奈子は雷撃を(まと)った翼を広げ、マミー達に(いかづち)を降らせる。


 半数のマミーはその(いかづち)黒焦(くろこ)げになり、機能を停止する。


「もういっちょう!」


 そう言って再び翼を広げる日奈子だったが、不意に目の前のマミーの顔の包帯がずり落ち、中から蒼条ソウジョウ ナツの顔が除く。


「へっ……。お夏?!」


 動揺する日奈子を夏の顔をしたマミーの包帯が縛り上げる。


「三田村さん?!」


 愛美が駆けつけようとするが、痩せこけた男が攻撃を仕掛けてくる。


「くっ、邪魔!」


 男の攻撃を避け、ハイキックを繰り出す愛美。


 男はソレを腕でガードするが、愛美は違和感を感じ、すぐに身を引く。


「これは?!」


 男にガードされた、いや、男の体に触れた愛美の右足が出血しているのだ。


「そいつはグールです。全身が餓鬼細胞という、触れただけで捕食される特殊な細胞でてきています。肉弾戦は不利ですよ」


 横目で見ていた里奈の助言。


「わかりました。離れて戦います!」


 愛美はそう言って翼を広げると、夜の空に舞い上がり、羽根弾を発射する。


「悪いが俺も距離をとった戦いの方が得意なんだ」


 そう言って男の身体が燃えだし、その炎はまるで、地獄の亡者の集合体の様な形をとる。


「俺の細胞を変化させた餓鬼火だ。いつでも腹を空かせているから、絶対に獲物を逃さないぜ」


 言葉と共に放たれる餓鬼火は、放たれた羽根弾を焼きつくしながら、愛美に襲いかかる。


「くっ!」


 間一髪、回避した愛美だったが、餓鬼火はあきらめる事なく、再び愛美に襲いかかる。


「この炎をなんとかしないと……」


 考える愛美だったが、その耳にトラックのエンジン音が入ってくる。


「しまった! 逃げられてしまう!!」


 焦る愛美に、いつの間にか接近していたグール本体が襲いかかる。


「まずい!」


「かかったな!」


 愛美が攻撃を回避したところを、餓鬼火が捉える。

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