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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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俊紅の王12

 自室にて、妻子が写る写真を見ながら呉夫は12年前の出来事をおもいだしていた。


 突然、ソロモン72使徒が工場に押しかけて来ると、自分たちに協力して従えと言ってきた。


 呉夫は当然の様に断ったが、彼らは呉夫の妻の純華(スミカ)と娘のナナを妖力抽出機にかけて、妖力石にしてしまった。


 呉夫は(いきどお)る仲間たちを必死に抑え、72使徒に忠誠を誓うことを決めた。


 そもそも72使徒は自分達(グレムリン達)ちを生かしておくつもりは無かった。


 彼らが必要としていたのは、呉夫が保有する工場や施設で、グレムリン達は必要では無かった。


『ほう。妻子を殺されても理知的な判断ができるか。少しは利用価値がありそうだな』


 その場を仕切っていた使徒の男がそう言って、グレムリン達ほ生きながらえた。


 バタン、と部屋のドアが閉まる音で呉夫は我に返る。


 慌ててドアの方を見ると、そこには眼鏡をかけた栄子が立っていた。


 彼女がうつむき、再び顔を上げると、その顔は写真に写っていた女性のモノになっていた。


「純華……」


 つい、亡き妻の名を呼んでしまう。




 妻子を失い、72使徒が日本から撤退した後、柚木島と名乗る人物が呉夫の元を訪ねてきた。


 柚木島は妻子を生き返らしてやると、呉夫にとある話を持ちかけてきた。


 この柚木島の妻子を生き返らせる方法。


 その1つがまだ何者にも擬態できないドッペルゲンガーに妻の妖力石を埋め込み、石に残る妻の人格を移植するというモノだった。


 ドッペルゲンガーは妻の姿と記憶、人格を写し取り本当に妻が蘇ったかのように振る舞った。


 しかし呉夫はすぐに後悔した。


 妻を生き返らせたいという自分の欲望のために、1人の妖の人生を奪ったのだ。


『私達ドッペルゲンガーはそういう妖だから……』


 呉夫の懺悔を拒否するドッペルゲンガー。


 その表情は呉夫を励ます妻のソレだった。




「つうか、人妖機関の職員兼ねてる人達はほとんど授業、出てねぇな」


「まぁ、私達だけでもマミーやらメデューサの能力を持ったキメラやらチーム浪川やらと遭遇してるしね。何か起こってるんでしょ? 走矢君は何か聞いていないの?」


「母さんも理奈さん達も何も言ってない。って言うか、チーム浪川ってなんだよ……」


「だってあんなにいたらもう、チームでしょ。浪川栄子」


「でも、眼鏡してたり口調とか結構個性があったよね。チーム浪川」


 春香に続いて直までチーム呼びする。


 その時、突然交差する道から表れた女性が、力尽きたかの様に走矢によりかかる。


「な、な、な?!」


 動揺する走矢を尻目に、女性の顔を覗き込む春香が叫ぶ。


「この人……、あの時のメデューサ?!」




「結論から言うと、ドッペルゲンガーだね。この(ひと)


 『あの時のメデューサ』こと、南沢 悦子(ミナミサワ エツコ)


 走矢達は迷った末に、分室である学校に連れて行く事になった。


 制服の上から白衣を羽織った紗由理が保険医として対応し、知り得た事を話し出す。 


「彼女はおそらく、浪川栄子の細胞を取り込んでいる。獣人達の拠点に現れたヤツ。アレの情報と一致するんだ」


「え〜っ?! じゃあこの人もチーム浪川?」


「まぁ、そうなるね」


「あっさりチーム浪川受け入れたな……」


 桜が小声で言う。


「それでもう1つ。この人の人間としての身元がわかったの。南沢悦子って言うんだけど、3ヶ月ぐらい前に事故で亡くなっているのよ。こっちのドッペルゲンガーの方が運転免許とか持っていたから、事故現場に居合わせて盗んだのかもね」


「盗んだんじゃない、それは私のものよ! 自分の物を拾っただけなのに、泥棒扱いしないでよ」


 いつの間にか目が覚めていた悦子が『盜んだ』という発言に食って掛かる。


「でっ、でた〜?!」


「ここまで連れてきてそれは無いんじゃない」


 びっくりして、桜の背後に隠れる直に春香が突っ込む。


「怪我の方は大丈夫ですか? あの、もしよろしければ何があったのか教えてもらえますか? この街で何が起こっているのか……」


貴方(あなた)、公園で会ったわね……。そう、貴方達がここに連れてきてくれたの……。私は南沢悦子。あいつらに殺されたお父さんとお母さん、そして私自身の(かたき)をとるためにこの街に来たの」


 走矢の質問にポツポツと応え始める栄子。


「死んだ()の人格が強く出ているんだね。まぁいいや、(かたき)の話はとりあえず後回し。で、君に、南沢悦子にあんな大怪我を負わせたのは一体誰なんだい? あたしの見立てじゃ、君も浪川栄子と同じくらいの強さのはずなんだけど、それをあそこまでダメージを与えるって、相当なもんだよ? 決して放置はできない」


「この傷はその(かたき)にやられたのよ。君、この街で何が起きているのかって言ったわね。応えてあげたいけど、私にも何が何やらわからない事が起きている。これが現状ね」




「おなつ〜、何もこんな時間に行かなくっても〜。明日でいいじゃ〜ん」


「別について来なくてもいいってば。ちょっと資料を取りに行くだけだから」


 機関職員、蒼条 夏(ソウジョウ ナツ)三田村 日奈子(ミタムラ ヒナコ)は取り壊し予定の上沢支所に訪れていた。


 その日報告されたとある事件。


 心臓がくり抜かれた死体が発見されるという怪事件を受けて、夏は過去に似た事件があったのを思い出し、その資料を探したのだが、見つからなかった。


「以前、支所を改装したとき、一部の資料を地下のシェルターに移動して、その後も使用頻度の低い物は地下に置いたままになってるって。例の事件の資料も多分、そこじゃないかって清十郎さんが言ってたけど……」


 すでに夜も()け、支所に人気(ひとけ)は無い。


 このシチュエーションに日奈子は完全にビビっていた。


「何か、オバケ出そう……」


「あのねぇ、ヒナ! ついこの間まであたし達が働いていた場所だよ? 残業や徹夜だって何度も経験したでしょ? 怖い事なんて一度も無かったじゃない!」


 勝手についてきて怯える日奈子に呆れる夏。


「ひっ?! なちゅぅ?! 今、人かげが!!」


「まったく……?! ヒナ、隠れて! アレは生きた人間よ……」


 支所の入り口に集まる複数の人影。


 そこから死角になる場所に移動して、様子を見る夏と日奈子。


「資料や機材のほとんどは運び出したから、今は民間の警備会社が外を見廻るくらいのはず。けどアイツら、警備会社の制服も着ていないし、中に入ったりはしないはず」


「でもアイツら、入り口開けちゃったよ……」


「支所の鍵だって術で作られた特別な物で、簡単には空けられないはずよ。アイツらこそ泥なんかじゃない! 術師か妖! 無人の支所で何かやっているんだわ。すぐに清十郎さんに知らせなきゃ……?!」


「ここは立入禁止ですよ」


 突然、夏達にライトの光があたり、何者かの声がする。


 それは警備会社の制服を着た人物で、身を隠していた夏達を不審に思い、声をかけてきたのだろう。


「あっ、あの、これは……」


「1人なんてすか? 2人1組で行動するって聞いてたんですけど?」


「あら、そうだったの……」


 そう言って一歩、二歩と近づいてくると、ツインテールの警備員の顔が見えるまでになる。


「警備会社もグルだったって事……。逃げるよ、ヒナ!」


「1人ならあたし達で……」


「1人のわけないでしょ! ここはもう、あたし達の職場じゃない、。アイツらの根城なんだ!」


 日奈子の(えり)を引っ掴んで、来た方向へ逃走を図る夏。


 しかしそれを水流が捉える。


 直撃を受け、吹っ飛ぶ夏。


「お夏?!」


「いいから行って、ヒナ! みんなに知らせて!!」


 日奈子を庇うように立ち上がら夏。


 そんな彼女にいくつもの水流が襲いかかる。




「1人、逃してしまったわね」


「しかたないわ。足止め役にああもしぶとく粘られては。まぁ、あの怪我なら長くは持たないと思いますけど。九骸は中にいるのかしら? 呼んでもらえる?」


 突然現れた水を操る女、フォカロルの言葉に、どちら様と返す、警備員の服を着たオルトロス。


勇魚(イサナ)が帰ってきた、と言えばわかりますわ」


 かつてフォカロルだった女は妖しく微笑む。

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