俊紅の王11
「私、思ったんだけど。フェニックスって処○膜も再生するのかしら」
朝の登校時、教室で春香がどうしょうもない事を口走る。
「よし走矢、眼鏡を狙え、眼鏡だ」
「ちょっと! 眼鏡と書いて本体ってルビ振らないでよ!」
問答無用で眼鏡を狙おうとする桜に春香が抗議する。
「わかった、本体だな」
「逆もいや!」
「処女○って何? フェニックスが再生って、舞が怪我とかしたの? だったら私が……」
「ほれみろ! ややこしい事になった!」
反応した咲花を他所に、桜は春香をヘッドロックで締め上げる。
「おはよ〜ございま〜す」
桜と春香をスルーして、気の抜けた声と共に見慣れない女子生徒が教室に入ってくる。
その女子生徒、そもそも着ている制服が上沢高校の物とは違う、白いセーラー服。
青味がかかった銀髪の美しい少女で、注目を集める中、走矢の机に着席する。
「あ、あの〜。そこは俺の席なんですけど……」
「ええ、知ってるわよ。貴方の匂いがするからここに座ったの」
その言葉に一同は沈黙する。
「貴方の、走矢の席なんでしょ? ほら、座りなさいな」
そう言って見ず知らずの少女は自分の膝をペチペチと叩く。
「ちょっと貴女! そこは走矢君の席だって言ってるの! 貴女の席ではないし、走矢君が困っているでしょ!」
桜達が何か言わんとするより早く、火織が謎の少女を叱りつける。
「冗談よ」
少女はそう言って席を立つと走矢に座るように促す。
一件落着と思いきや、席に座った走矢の膝に、その少女が腰掛け、火織は烈火の如き怒り狂う。
「貴女! 一体どういうつもり!!」
少女に掴みかかる火織だったが、走矢がそれを止める。
「キミ、もしかしてあの時の……」
少女に触れた時、何かを感じとった走矢は彼女の正体に気づく。
「元気そうで何よりだわ、火織。助けたかいがあったってものよ」
少女は自分に掴みかかる火織を見ながら、コロコロと笑う。
「この女性はあの時の氷の妖力を引き取ってくれた妖だよ」
その言葉を聞いて、火織はフリーズする。
「ええ〜っ。じゃあ、オリちゃんの命の恩人の妖?!」
「見方によっては、小夜子ちゃんの恩人でもあるのよねぇ」
直と春香の言葉を聞いて、突然土下座する火織。
「しっ、失礼しました! そのせつは命を助けていただき、大変感謝しております!」
「いいのよ、気にしないで。大したことしてないんだし、困ったときはお互い様でしょ?」
再びコロコロと笑う銀髪の少女。
「オリちゃんって目上の人にはあんな感じになるんだぁ」
「体育会系のノリね。案外、桜と気が合うんじゃないの?」
「俺は言うほど体育会系じゃないぞ……」
「あの、それで……。ここには一体どんな用事で? 走矢に会いに来たとか?」
「それも、もちろんあるんだけど。今回この学校に転校してきた理由は別にあるの。ああ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は柊 雪那。雪女よ、よろしくね。呼び方は雪那でいいわよ」
『ええ、そうでしょうね』
雪女という紹介のところで全員が思った言葉だ。
「私がここに来た理由は、妖の血に目覚めた綾瀬 舞って娘の指導をするためよ。私も元々は人間だったから、元人間視点で色々と教えられるわ」
「え〜、セッちゃんって人間だったの?!」
すでに春香達と同じ距離感で接する直。
「そぉなのよ〜」
手クビを前後に振る、オバサンみたいな仕草をしながら応える雪那。
「まぁ、そんなわけでよろしくね」
そう話す雪那のそうやに対する距離がやけに近い。
「あ、あの……。雪那さん、その距離が……」
「呼び捨てでいいってば。あと、私の事は同性の友達みたいに思っていいのよ? 人間だった頃は男の子だったんだから」
『えっ?!』
雪女のカミングアウトに全員がフリーズする。
「あははっ、やっぱり驚くんだ。雪女の血が目覚めたから雪女になっちゃったのよ。雪男だったら多分性別そのままだったわよ」
オバサン仕草で三度コロコロと笑う。
「ふぅ、今日もお嬢様のご機嫌伺いとまいりますか」
そう言ってフォルネウスをお兄様と呼んだ女性、フォカロルは立派なお屋敷の敷地に入っていく。
「それにしてもあの2人、全く連絡が取れないなんて……。本当に人間の雄は使えないわね」
ブツブツと言いながら奥に通されるフォカロル。
どうやら顔パスのようだ。
「見つけた、あの女だわ……」
フォカロルを憎悪の目でおう南沢 悦子は敷地の入り口に近づいていく。
美原 夏美。
それがあの日、車から一歩も出ることなく、結果的に両親を死にいたらしめた首謀者の名。
男2人の記憶を読んでわかった事。
男達はあの日、たまたまトライブがしたいという夏美のワガママのためにフォカロルに誘われただけの存在。
あの女は夏美の側近の様なモノで、どういう関係かは知らないが、お嬢様のワガママを叶えるのが役目らしい。
古川 泉。
それがここでのフォカロルの名前。
美原夏美に近づくために名乗った偽名だ。
「不死の心臓の正体は俊紅の心臓だ」
王の遺体が置かれた上沢支所の地下シェルター。
その遺体を前に、虚空に所属する男、九骸が不死の心臓について、講釈を垂れる。
聞き手は虚空に入って日が浅い連条 灰。
「俊紅の肝は心臓にあると言われている。どんな血液も俊紅の心臓を、通す事で俊紅の血になると。これにマミーに使われるような『生命活動を封印する術』を使い不死とし、あらゆる細胞を侵食する妖の細胞とワンセットにした物が、不死の心臓だ」
「なるほど。結局、俊紅が必要になってくるんですね」
話を聞いていた新参の男が要約してみせる。
「まぁ、そうなる。だが、不死の心臓を作るのに必要な技術は勇魚と共に失われてしまった。仮に俊紅を手に入れても再現は不可能だ……。つい最近までそう思っていた」
「つい最近まで?! それは一体……」
「あったんだよ。現存する不死の心臓が。勇魚の奴が昔、金に困って、とある富豪に売ったヤツがあったんだ。ソロモンの連中はそれを知って今回、遺体を持って日本に来たってわけさ」
「…………。九骸さん、その情報流したのって……」
「些末なことだ。気にするな。そして連中が心臓を手に入れたら、俺達で横取りすればいい」
そう言って九骸は笑う。




