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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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俊紅の王10

「全員、引き上げるわよ。フォルネウスも落ち着いて」


 ソロモン72使徒のフォルネウスと虚空の雨上 葬魔(ウガミ ソウマ)にらみ合う中、ダンタリオンが撤退を表明する。


 ダンタリオンが中空から1冊の分厚い本を取り出すと、何かを念じる。


 するとアモンやケルベロス達が光に包まれ、どこか別の場所に転移される。


「ワームまで回収するのか?」


「ガミジンが有効活用してくれるわ」


 淡々と応えるダンタリオン。


「お前らは逃さんぞ!」


 葬魔がそう叫ぶと、巨大な渦が槍状になってフォルネウスに襲いかかる。


「危ない?!」


 ダンタリオンは咄嗟に別の本を取り出すと、防壁を出現させ、直撃を防ぐ。


「長居は無用だ、引くぞ!」


 フォルネウスがそう言うと、地上にいる者達の足元が水浸しになり、その水位が一気に全身を(ひた)すまでに上がる。


「ちぃっ!」


 葬魔が気合とともに手印を組むと、水は一瞬で消滅する。


「逃げられたか……」


「なんだ、今のは?」


「ヤツの……、フォルネウスの簡易結界だ。発動コストも時間も少ない代わりに解呪も容易だ。焦らず結界用の対処をすればいい」


 火頭魔の疑問に応える葬魔。


「今日はこれでおひらきだね〜」


「そうみたいね……」


 完全に戦意を喪失したリーダー格の栄子を見て、蠱毒の姫は深完に同意する。


「結局逃げられちまって収穫無しか……」


「そうでもないさ。アモンにエリゴール、ダンタリオンにフォルネウス。あとガミジンの名前も聞けた。少なくともこの5人が日本に来ているのが分かった」


 ボヤく火頭魔を励ます葬魔だった。


「でもあんまり強そうじゃなかったね。葬魔はともかく、火頭魔にやられているようじゃ、大したことないんじゃないの?」


「いや、おそらくアモンとエリゴールは万全ではなかった。あの程度だと思っていると痛い目を見るぞ」


「そういやアンタは12年前、あいつらと戦っているんだよな。どんな感じだった?」


 深完に釘を刺す葬魔に火頭魔が尋ねる。


「強かったぞ。当時の虚空のメンバーや人妖機関の精鋭にも犠牲が出るほどにはな。当時の奴らの目的は俊紅と『不死の心臓』というマジックアイテムだ。これは勇魚(イサナ)という虚空に所属していたヤツが造った物なのだが、現物と設計図。そして勇魚自身も失われ、作り出すことが不可能になった」


「死んだのか? その勇魚って奴?」


「ああ、72使徒は現物か設計図かあいつの脳を奪おうとしていたんだが、『お前らには死んでもやらん』と言い残して自爆したんだ。使徒も巻き込まれて4、5人死んだはずだ。もし、機関職員が気づいて結界を張っていなかったら、もっと倒していたかもな」


「まてまて、いったいどんな自爆をなされたんだ。その勇魚様はよぉ」


「あいつにとって研究やその産物は恋人みたいなモノだったからな。他人に奪われるくらいならいっそひと思いに……。そんな感じだろう」


「イカれてんな……」


「あははっ。(はた)から見ればアタシ達全員、同類扱いじゃん」


「つぅか深完、口調変わってんぞ。そっちが素か?」


「はわっ?! …………。私は柚木島深完。クールな美少女クグツです」


「自分で自分の事を美少女とか言うんじゃねぇ」


「何をやってんだか……」


 火頭魔と深完のやり取りを見て呆れる蠱毒の姫。


「とにかく、前回と決定的に違うのは連中が王の遺体を国内に持ち込んできた事だ。何か大きな計画が進行しているかもしれない」


「確かに興味深いですね。あの方たちがどんな手段で何を成そうとしているのか……」


 眼鏡もかけていないのに、それの位置を直すような素振りを見せる深完。


 かけてねえぞ、という火頭魔のツッコミは当然無視する。


「それにしても……。アイツら、遺体を奪った連中はどこに隠れているんだ? アタシらにも秘密にして……」


「王様の解剖に没頭してんだろ。基本、何も考えてねぇからな」




「予定していた場所への『種』の配置は完了している」


 72使徒の隠れ家にて、エリゴールが活動内容の報告をしていた。


「そうか。ガミジンの報告によると、ワームの蘇生に成功したようだ。引き続き彼と『イグドラシルの種』の配置を進めてほしい」


 了解した、と手短に応えるエリゴール。


「フォカロル、例の心臓の持ち主はどうだ?」


「とりあえず、接近する事はできましたがあの女、何を考えているのか全くわかりませんわ。お兄様」


「そうか、ただの人間が意図せず不死になったとしたら、まともな精神状態では無いのかもしれんな。ひき続き監視を頼む」


 フォルネウスを兄と呼んだ20歳前後の女性はそれを了承する。


「あとは俊紅ね」


「ああ、そうなのだが、それが一番厳しそうだ。なにせあの少年、家族がヴァンパイアばかりのうえ周囲に護衛のような者達が多すぎる。とりあえず、後回しでいいだろう」


 わかったわ、と言って頷くダンタリオン。


「まずはイグドラシル計画の遂行(スイコウ)。次に不死の心臓の奪取だ。イグドラシル計画が進めば王の居場所もわかるだろう」


 フォルネウスは計画に優先順位を付け、今後の方針を固める。




 人妖機関上沢支所を含む18支部会議室で、支部長の根谷 篤郎(ネヤ アツロウ)と上沢支所長の村田 厚(ムラタ アツシ)が頭を抱えていた。


「まさか、私達の管轄で72使徒と虚空が争うとは……」


 厚がボヤく。


「増員の要請は出しているんですけど、他の支部も虚空、72使徒双方に警戒していて、どこも多くの人員は()けないようなんですよ」


「それでもめげずに催促してください。俊紅が狙われるのは間違いないんですから」


 由利歌の強い言葉にやむを得ず頷く支部長の根谷篤郎。


「ローラー作戦でも何でもやって、奴らを見つけ出し、先手を打たないと上沢はとんでもない事になりますよ!」


「あんまり考えたくないな〜」


貴方(あなた)は所長なんですから考えてください!!」


 由利歌の語気が強くなっていく。


「こうなったらできる限りの戦力を集めないと……」


 由利歌は密かに決意する。

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