俊紅の王5
日の暮れた住宅街、その一画で激しい戦闘が繰り広げられていた。
一方は玲奈とアリスの『お姉ちゃんコンビ』。
もう一方は桜達が遭遇したのと同じ、マミーモドキ。
肉弾戦は不利と見るや、マミーモドキは桜達にしたのと同じように、帯状になって2人を攻撃する。
「あの娘が言っていたのはコレね。レクチャーした手前、逃がすわけにはいかないのよ!」
そう言って帯状のマミーモドキを掴むと、桜に教えたように妖力を流し込み、マミーモドキを散り散りにする。
「さすがねぇ、この長さのヤツを一発で塵に変えるなんて」
「まぁ、確かにコツがいるわね……。一発で倒そうとせず、数回に分けててもいいから、焦らずに対処しろって言っておけば良かっわね」
玲奈の手際の良さに感心するアリス。
それを受けて桜へのレクチャーが甘かった事を反省する玲奈。
『玲奈さん、アリスさん、聞こえますか?』
右耳につけた通信機のイヤホンにオペレーターから通信が入る。
「はい、こちら雨上 玲奈」
『今、玲奈さん達のいる場所の近くにマミーが出現したと言う報告がありまして、至急向かってほしいのですが……。その……3ヶ所なんですけど……』
「わかったわ。一か所ずつ対処していくから、一番近い場所を教えて」
「ふた手に分かれる? この程度なら1人でも十分じゃない?」
「単独行動は控えるように言われているでしょ? 面倒でも一か所ずつ対処していった方が無難だと思うわ」
アリスを説得し、その場を立ち去る玲奈達。
『アレが人妖機関に属する、この国の妖……』
『かなりの手練って印象だったけど、もし機関に属する妖が全員あのレベルだと、厄介ね』
陰からマミーモドキとの戦闘を観察していた者達が玲奈達の戦いぶりを評価する。
「では、知っている事を話してもらえますか? もちろん、洗いざらい」
呉夫の石化を解いたラードンは多少回復した妖力で少年の姿になり、呉夫を尋問する。
「僕達が運んだ荷物。あれは一体何だったんですか?」
「あの……、話してもいいんですが、他の従業員も元に戻していただけないでしょうか?」
「もちろん、戻しますよ。ただ勘違いしないでください。従業員全員を解呪しないのは僕の妖力が足りなくて回復待ちだからです。その間に色々と聞かせてもらえればと思いまして」
異様なプレッシャーを発するラードン少年に気圧され、呉夫は口を開く。
「皆さんに運んでいただいた荷物の中身は私も知りません。『虚空』という組織からの依頼で、その指示に従っただけです。嘘ではありません! 私達は逆らえないのです……」
呉夫の言葉になるほど、と一応納得してみせるラードン。
「ラードンさん、呉夫さんはこういう事で嘘をつく人ではありません。つきあいの長い私が保証します」
「わかりました。では次の質問なんですが、スマホに登録されていて最近、よく連絡を取っていた『72』と『空』とは何者なのですか?」
一瞬ためらった後、口を開く呉夫。
「『空』は虚空。『72』はソロモン72使徒です。私達はこの双方に脅されて使われています」
「なんと?!」
わかりやすく驚く総士に対してなんのリアクションも無いラードン。
彼にとって、別段、驚くようなことではないようだ。
「呉夫さん、お互いもう少し腹を割りませんか?」
ラードンは呉夫の立場、立ち位置を理解しとある話を持ちかける。
「こんな時間にこんな所で何やってんだ走矢?!」
時刻は夜の19時。
近くのコンビニに訪れた走矢を、聞き慣れた声が呼び止める。
場所はコンビニの入口付近。
「桜、春香に直も。いや、母さんが今日は遅くなるっていうから晩飯を買いに。桜達はどうして?」
「この娘がどうしても特訓したいって言うから付き合わされてんのよ。ここへはエネルギー補給のために来たのよ」
「特訓は言うなよ!」
咄嗟に春香の口を塞ぐ桜。
走矢に『自分のために特訓している』と思われると、気負わせてしまうと考えたからだ。
「エミちゃんは用事があるのと遠いのとでパスね」
いつもの調子で話す直。
しかし走矢も特訓の意図を察し、反応に困る。
「か、勘違いすんなよ? 俺は負けっぱなしなのが気に食わないだけだから。別に誰かのためとかじゃねぇから!」
桜の気遣いが余計に走矢の心を曇らすが、彼女のためにも必死でそれを隠す。
「んな事より、リリスさんとかもいねぇのかよ? 昼間あんな事があったのに大丈夫か?」
「みんな今日は忙しいみたいで遅くなるって。どうも昼間の事件が絡んでいるみたい」
「そうか……。だったら早く飯買ってこいよ。その後、家までおくるからさぁ」
「えっ?! いや、悪いよ……」
「そんな事言って、走矢君がさらわれたりしたら、寝覚めが悪いでしょ?」
「…………。ソウちゃんさぁ、この後時間ある? もしあるなら特訓見てく? ソウちゃんの感想とかも聞きたいな」
突然の直の発言に驚く桜と春香。
しかし春香はすぐにその意図に気づく。
「まぁ、私の失言が原因だしね……」
「俺も……桜の特訓、見たい!」
「はい、決まり〜。じゃあご飯食べて特訓の続きね」
直に仕切られ一同はコンビニに入っていく。
「この工場よ、武藤 呉夫の居場所は」
呉夫の工場に忍び寄る2つの人影。
その1つがもう1つに説明する。
「呉夫とその仲間の従業員……。ああ、従業員は全員グレムリンだから、正体を隠す必要は無いわよ。隠す必要は無いけど利用価値のある連中だから、あんまり殺しちゃ駄目よ?」
「誰に言ってやがる、お前じゃあるまいし……」
呆れながら返すもう1人はケルベロス。
行き場が無かった彼女は昔の仲間のヘルハウンドを頼り、今はソロモン72使徒の手下として活動していた。
「じゃあ、行くわよ」
そう言って説明していた方、ヘルハウンドは工場の戸を蹴破る。




