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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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俊紅の王3

 現在人妖機関上沢支所の分室として機能している学校に戻る走矢達。


 つい先程の出来事を報告するためなのだが、桜には別の目的があった。


 旧校舎の一室で、走矢からの報告を受ける愛美とエリス。


 現在、この旧校舎と本校舎の一部を支所分室として使っている様なのだが、人妖機関の職員はこの旧校舎に集中している様だ。


 ミイラことマミーに敗北した桜の目的は、誰か戦い方を教えてくれる、師匠を探す事だった。


(相沢先生とエリスさんは忙しそうだよなぁ。西蔵先生とかも教員の仕事もあるし……。あっ、あの人なら……)


 報告を他の者に任せて、その人物に接触する桜だった。




「私に戦い方を教えて欲しい?!」


 旧校舎の廊下で突然、桜に土下座され困惑する玲奈。


「なるほど。今、エリス達が受けている報告がそれなのね。まぁ、レクチャーぐらいならしてあげるわ。ついてきなさい」


 そう言うと、桜を校舎の外に連れ出す。


「まず、今の貴女(あなた)の段階を説明すると、生まれ持ったヴァンパイアのスペックだけで戦っている感じね。次の段階に行くにはまず、妖力のコントロールを覚えないと」


 そう言って水の入ったバケツを、桜の目の前に置く。


「そのバケツの水を妖力だけでかき混ぜてみなさい。手本を見せるわよ」


 そう言って、玲奈がつま先で軽く地面を叩くと、バケツの中の水が渦巻き始める。


「これは?!」


「なんの事は無いわ。地面を伝って妖力を水の中に流し込んでいるだけ。これができれば、そのマミーモドキぐらいならなんとかなるわ。バケツに触っていいからやってみなさ……?! って、ちょっと渦巻きすぎよ! 止めて止めて!」


 すぐに玲奈の真似をした桜だったが、地面を伝った妖力は水柱を上げさせ、周囲に飛び散った。


「わっ、わり……スイマセン……」


「いいわよ別に、このくらい。でも今のがマミーモドキ対策よ。動く相手に地面を伝っては難しいから、直接掴んで妖力を流し込むのが現実的ね」


「ありがとうございます。……あの、マミーモドキってどういう事なんですか?」


「貴女達が遭遇したのはマミーじゃないわ。本物のマミーって言うのは生きた人間の生命活動を封印して、その生命エネルギーを動力とする『生きたアンデッド』の事を言うの。貴女の話からすると、マミーを模した使い魔とか式神と言うのが正体よ」


「生きたままアンデッドに……」


「そう。死体を使役するゾンビとかと違って、一線を越えた所業だと、私は思っているわ」


 そう言って腕時計に目をやる玲奈。


「とりあえず今日はこんな所かしら。もし何かあったらまた相談に乗るから、実戦で無理しちゃ駄目よ」


 そう言い残して立ち去る玲奈の後ろ姿に、深々とおじぎをする桜だった。




「あの〜、ラードンさん。そろそろ呉夫さんの石化、解いていただけないでしょうか……」


「房士さん、そっちのタブレットも調べてみてください……。総士さん、まだです。石化を解く前に彼が一体どういう人物からあの依頼を受けたか調べるんです」


 ラードンは呉夫という人物を信用しておらず、あの依頼も何か裏があると呉夫のスマホやパソコンを調べていた。


 呉夫の事務用のデスクには彼のパソコン以外に、2台のスマホがあった。


「個人用と仕事用で分けているんでしょう。私もそうしてますから」


「2台じゃ足りないんです。この2台、調べましたが、数日前に連絡を取った貴方の通話履歴が無いんです。おそらく3台目があるはずなんですよ……」


 そう言って、作業着の姿のまま石化された呉夫に近づくラードン。


「これですかねぇ……」


 そう言って、作業ズボンの右ポケットを突くと、そこだけ石化が解ける。


「房士さん、このポケット調べてください」


 言われて手を突っ込む房士が3台目のスマホを見つける。


「パスワードが設定されていますね。他の2台には無かったのに。彼に縁のある数列を試してみますか」


「しかし、あのメデューサ。あの男に何の用があって執拗に追いかけてきたのでしょうか? 呉夫さん達もそれに、巻き込まれた訳なんですよねぇ」


「あの女はメデューサではありませんよ。ドッペルゲンガーです。メデューサの能力を得たね」


「ドッペルゲンガー?! なるほど、それなら話が見えてきますね。取り込んだ人間とあの男に、何かトラブルがあったとか」


「まぁ、そんなところでしょうね。大方女性問題のもつれとかでしょう。全く馬鹿な事を……」


 女性問題に関しては、貴方も人の事を言えないのではと聞こえないように呟く総士。


「総士さん! 何か呉夫さんがパスワードで使いそうな数列、知りませんか?」


 聞かれたのかと慌てる総士。


 必死に呉夫の記憶をたどる。


「そうてすねぇ、わかれた奥さんとの結婚記念日とか離婚記念日とか……」


「離婚記念日とは言わないでしょう。って言いますか、結婚していたんですか、彼」


「ええ、同じグレムリンの女性が。娘さんもいましたし。もう30年……、もっと経ちますかねぇ……」




「『ソロモンの72使徒』と『虚空(こくう)』。元々ソロモン王の遺体を保管していたのが72使徒で、今回それを強奪して国内に持ち込んだのが虚空って組織。72の方は理想の王を創り出すことで全人類が幸福に支配される世界を創ろうとしているの。虚空はマッドサイエンティストみたいな術師の集団で、思想とかとは縁もゆかりもない連中。どちらかが相手を罠にはめるために、この偽者を仕込んだんだと思うの」


 隠れ家のアパートで石化した包帯を眺めながら、眼鏡をかけた栄子が解説する。


「ソロモンの方、どんどん省略していったな」


「長いのよ。もう、72でいいでしょ」


 ボーイッシュな栄子のツッコミに淡々と応える眼鏡の栄子。


「とにかく、私達の狙いは上手く漁夫の利を得る事。まともに戦うにはどっちも厄介なんだから」


「あのトラックが荷物を受け取った所から(さかのぼ)って調べてみるわ」


 リーダー格の言葉を受けて、眼鏡栄子が提案する。




「じゃあな、ケン太、トン助」


 人妖機関、上沢支所に訪れたゴブリン兄弟。


 玲奈達との戦闘後、機関に拘束され取り調べを受けていたオークの奥井 トン助(オクイ トンスケ)とコボルドの小久保 ケンコクボ ケンタ


 リザードマン兄弟の2度目の襲撃の時、二郎の大斬波に巻き込まれ、この2人は行方不明となっていた。


貴方(あなた)達ってそういう関係だったの?」


「そんなんじゃねぇ。(つら)を合わせりゃ喧嘩ばかり……。似た者同士の同族嫌悪ってヤツだ」


 付き添いの由利歌の質問に応える兄ゴブリン。


 瓦礫の撤去作業が始まり一部、民間企業が出入りする上沢支所。


 彼らが最期に確認された取り調べ室にパンと牛乳を置いて立ち去る一同。


「花束とかじゃないの?」


「食えない物なんてよこすなって枕元に立つぞ、そんな物供えたら」


 苦笑する由利歌と共に部屋を出るゴブリン兄弟。


「ああ、すまねぇ。この部屋に置いてきたお供え物、邪魔なら片付けちまってくれ」


 通りがかりの作業員にそう伝えて、兄弟は建物を出ていく。


「ちゃんと2人分、置いてあらぁ」


「くそっ、なにが似た者同士だよ……」


 取り調べ室に入った作業員2人。


 その1人がボヤき、もう1人がポロポロと涙をこぼす。


「泣くんじゃねぇ。ほら」


 そう言って作業員の服を着たトン助がパンと牛乳をもう1人の作業員、ケン太に渡す。


「あら、素敵ね。男同士の友情ってヤツ?」


 部屋の入り口に立つ、作業着を着たオルトロスがからかうように言う。


「そんなんじゃねえ。ただ、俺達オーク、コボルド、ゴブリンってのはいろんな種族や組織に下っ端扱いされてこき使われて消費されてく身分だ。似た者同士で傷を舐めあっているだけさ」


「からかってごめんなさい。でも、今は任務の最中よ。感傷は程々にね」


 そう言って先に部屋を出るオルトロス。


「わかってる。助けられた分はちゃんと返すさ」


 そう言ってトン助が部屋を出て、ケン太が後に続く。




「ビンゴです、娘さんの誕生日でしたね」


「これで情報が得られるといいのですが……」


 呉夫の3台目のスマホのロックを解除した総士達。


 まずは通話履歴を確認する。


「ありましたね、私の電話はこのスマホで受けていたのですね」


「何でしょうこれ? ここ最近、頻繁に連絡を取り合っていますね。『72』と『空』? 何かの略語でしょうか」

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