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同葬会  作者: 真夜航洋
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第6話


「ウチの塾から東大理三入学者が出る。その後研究所に入って、なんたら細胞を発見してノーベル賞を獲る。そして記者会見でその子が言うわけや―全て井上先生のおかげです。この賞を先生に捧げます、てな」

 彬は開いた口がふさがらない。

「でな、俺らが幹事やっとる二中の同窓会。今年は形を変えて、私井上亘の生前葬を兼ねてやってみてはと考えたわけよ」

「ほお。つまり教師を辞める前に、これまでの地元への感謝を同窓生に伝えたいと」

 少し感心した表情になる。

「いや。年齢的に同窓生の子どもには中高生が多いやろから塾の宣伝になるやん。この計算力…やっぱ俺、数学の鬼軍曹やわ」

「…それは計算じゃなく打算やろ」


 岐阜県警西濃署・駐車場慎二のバンが駐車場に入っていく。車体には「手羽先しんちゃん」のロゴと「防犯パトロール中」のステッカーが貼られている。

 生活安全課会議室の表に「西濃地区防犯協会定例会」の札が掛けられている。室内には慎二たち協会員が集まっていた。

 白板の前で生安課・川端が説明する。

「ではみなさん、お手許の資料をご覧下さい。これは先月、わが西濃エリアの大野中学区で起きた特殊詐欺の事例報告です」

 慎二が資料を見ると、詐欺の手口がイラスト入りで描かれている。

「典型的な“振り込め詐欺”でした。被害に遭ったのは82歳の女性で、現金200万円を騙し取られました。実はこの

手の犯罪集団は、一度成功したエリアで再犯を重ねるケースが少なくありません。実行犯が土地カンをつかむようになる

からです。こちらをご覧ください」

 白板には詐欺グループの組織図。

 (元締→リクルータ→掛け子、受け子)

「こうした詐欺グループは分業制をとっており(図を指して)“リクルータ”と呼ばれる連中がネットなどで名簿を買い取り、そのデータをもとに“掛け子”たちが電話をかけていきます。類似した未遂事件から鑑みて、今回の情報源は大野中学の古い卒業アルバムではないかと見られています」

(卒業アルバム?)

 卒業アルバムを持ってタクシーに乗り込んだ紗栄の姿が、慎二の脳裏にフラッシュバックする。

「ああ。今どきは個人情報にうるしゃあけど、昔のアルバムは平気で住所とか電話番号載せとったわな」

「嘘でしょ?怖すぎるて」

 若い協会員が驚く。

「先ほど申しましたように、詐欺グループが西濃エリア一帯をターゲットにしている可能性があります。そこで協会員の皆さんには、今後高齢者の住む家庭への巡回を強化していただくよう…」

(まさか、リア充の紗栄が?)

  

 数日後。彬は本村家を訪ねる際、ビジネススーツと軽装の青年ふたりとすれ違った。

「おまえ、お線香息で吹いて消したやろ。チョー恥ずいわあ」

「普段着で来た奴に言われたないわ」

「なあ、やるだけやってみいせん?俺らが公平先生の最後の教え子なんやで」

「俺はええけど…」

 ふたりが出てきたのは、本村家のようだ。

(ん…後輩か?)


 公平の遺影に線香を上げさせてもらう。

 ちゃぶ台では、教子が老眼鏡をかけて請求書を確認している。

「その後、お気持ちの方は落ち着かれましたか?」

「ええ。その節は堀口くんにはすっかりお世話になったわねえ」

「いえ、至らないことがありましたらお詫び申し上げます」

「あれ?堀口彬くんってこんなに謙虚な子やったかねえ?確か音楽の時間にリコーダーでチャンバラするような生徒やったと記憶しとるんだけどね(笑)」

「響子先生、それは言わんとって」

「それとこの請求書、こんなに安くてええの?前にうちの母親の葬儀で、他の葬儀社に頼んだらこの倍以上かかったはずやけど。恩師だからって無理してるのなら…」

「いえ。特別扱いではないです。うちはこれぐらいが相場でして」

「ふうん、良心的やね」

「実は家内を六年前に亡くしまして」

「あら。お若いうちに?」

「はい。がん病棟の看護師をしていたんですけど、子育てやら店の手伝いやらでつい検診を怠って、結局はそのがんにやられました」

 口には出さないが、ご愁傷さまと言うように響子が頭を下げる。

「当然自分で弔うわけにもいかず、よその大手の葬儀会社に頼んだんです。そしたら見積もりはいい加減だし、ろくに説明もせず遺族を無視して自分たちのペースでさっさと進める、感じの悪い同業者でして…」

「ああ、多いって聞くよ」

「一番ひどかったのは、通夜ぶるまいの席で皿を落とした仕出し業者を当たりかまわず怒鳴り散らした事です。『おめえんとこなんか金輪際使ってやらん!あとで社長に謝罪させろ』って、まるでヤクザみたいに凄んで。会葬者が見てる前でですよ」

「業者いじめだ」

「家内の親族たちに、これが葬儀屋の姿なんだと思われたらって堪らなかったです」

「…それで、人のふり見てわがふり?」

「ええ。うちは娘も手伝ってくれるし、儲けは二の次、地元密着型の“町の葬儀屋さん”で行こうって決めたんです」

 響子はまじまじと彬を見て、微笑んだ。


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