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同葬会  作者: 真夜航洋
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第4話

 慎二と彬が同時に顔を上げる。

「覚えとるか?落合紗栄」

「ああ。確か…〝ミス二中”やな」

「キレイ系の落合、癒し系の真弓。わが校が誇る二枚看板やわな。このキレイ系が健介に片思いしとったらしい。つまり…」

 慎二が紙ナプキンに「落合紗栄→三島健介→真弓→堀口彬」と書きつける。

「見よ。このくんずほぐれつの四角関係」

「いや、ありえんって。そもそも…」

「ちょっと待て。じゃあ中学時代に修羅場ランババンバが?」

「うむ、あったに違いない」

 彬は呆れかえって吐息を漏らした。

「四角も三角もないわ。健介と真弓は中学からずっと両想い。示し合わせて高校も大学も一緒にするくらいの徹底ぶり、っておめえらも披露宴で聞いたろ?」

「なんや。修羅場はなしか。あ、でも落合さんは…」

 慎二がスマホを出し、SNSのサイトを開く。セレブ然としたドレスにモデルのようなスタイルの紗栄の写真が出てきた。

「旧姓落合…現・榊原紗栄はやな…中三の冬から東京に転居、大学卒業後も都内の製薬会社に勤務、33で取引先の病院院長と結婚…今じゃ可愛い息子もいて、豪邸で幸福な生活を送っている…とさ」

 盛大な結婚式や海外旅行、豪邸の前での家族写真などがスクロールされていく。

「ほええ。ミス二中は、大人になってもリア充ちゅうわけか」

「ん?おまえ何で落合さんのSNSなんかチェックしとるん?」

「ああ。あの子の実家って、うちのはす向かいでタバコ屋やっとるんだわな。それが今日昼過ぎやったかな、彼女らしい女性を見かけて。ちょっと気になったもんやから調べてみたんだわ」

「そら実家ぐらい帰ることあるやろ」

「ま、そうなんやけど…さてと…癒しのお姫様も寝てまったし、そろそろお開きにするか。おい、勘定」

 奥にいる息子に声をかける。充が奥から来て、卓を片付け始める。  

「ええ?あした定休日やろが。もそっと飲もまい」

「あかん。防犯協会の用事がある」

 そう言いながら、慎二はさっき亘が書いたナプキンを前掛けのポケットにしまった。

「ああ、青年団でパトロールとかするやつか。ご苦労なこっちゃ」

「葬儀屋、不倫は今や立派な犯罪や。おまえらをラブホとかで見かけたら…逮捕しちゃうゾ」

 と、彬の手首に手羽先で手錠をかけた。

「だからあ!」


 ビジネスホテルの固いベッドに寝そべる紗栄の傍らには、赤ペンで様々な情報が書き込まれたコピーの束がある。

(A組は八人…二、三万ってとこ?)

 あらためて卒業アルバムを開く。文化祭の頁には「ザ・二中ズ」の写真が載っていた。

「青春してるでしょ?てか」

 さらに、文化祭のイベントらしい「ミス二中コンテスト」のスナップも見てみる。優勝者の襷と紙製ティアラを被った、若き日の自分の写真に思わず微笑む。

 だがその隣に目をやると、「ベストカップル賞」の健介と真弓の2ショット写真だった。顔を寄せ合い仲睦まじいふたり。

 紗栄は不快そうに鼻を鳴らす。

「頼むから、ふたりとも不幸になっててくれよな」


 夜の田舎道を霊柩車が走る。

 助手席には半寝落ちした真弓が乗っている。

(癒し系アイドルが、なんで葬儀屋の息子にチョコを?か)

 今さら照れくさくなった彬の顔がにやつく。

「…霊柩車で送ってもらうなんて、一生に一度の経験かもね」

 さっきの顔を見られたか、と慌てて平静を装う。

「起きてたんか?」

「今日は楽しかった…あ、お葬式に出て楽しかった、はないか」

「標準語に戻ったな」

「え?ああ、みんなと喋る時は出ちゃうよね、方言って」

 しばらく黙るふたり。

 彬は昼間の違和感の正体を知りたくなった。

「なんで…」

「実家に戻ったか?」

「うん」

 窓外の流れる夜景を見ながら真弓が告白する。

「出版社に勤めてたダンナがね、早期退職を受け入れたの。いま出版不況でしょ。でも意外と退職金いっぱいもらえて…これからはふたりでいろんな所旅行できるなって。健ちゃんずっと仕事仕事に追われてたから…やっとのんびりできるねって…」

 ぎょっとした。真弓の目から涙が流れている。

「彼、壊れたの。知ってる?うつ病って赤ちゃんに戻っちゃうんだよ。何もできないでずっと布団の中で丸まってるの。百八十センチ七十キロの大の男がよ」

「…」

「僕は会社に捨てられたって、いつかおまえも僕を捨てるんだろって、三歳の子供みたいな滑舌で何度も何度も…しまいには私の方がブルーになって、実家に助けを求めた。情けない妻だよね」

 沈黙。

「アッキーはどうなの?家庭円満?仕事は順調?しあわせ?」

「…カミさん、咽頭癌で死んだんだわ」

「…ごめん」

「いや、もう六年になるし…それに娘を遺してくれたから、不幸せではない。健介はさ…」

「…」

「生きてるやろ?」

「そう…だよね」

 霊柩車が、銀河鉄道のように夜の闇の底を滑って行った。



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