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クラスメイド  作者: 新切 有鰤
7/12

クラスメイドとお掃除と 前編

「暇ですね」

「そうだなー。こんな日が続くといいよな」


土曜日の昼。佐折と出会ってからほぼ一週間がたった。

もはや彼女が家にいる状態に慣れた翼は、リビングのソファの上でぐてーっとだらけていた。


「そうですね……掃除でもします?」


これまた唐突な、と思ったが、たしかにこの陽気なら掃除日和と言っても差し支えないだろう。一つ頷いて答える。


「いいじゃん、掃除」

「じゃあ、やりましょうか」


佐折はメイド服の裾をはたきながら立ち上がり、小首をかしげる。

その仕草もとても可愛らしく見えて、翼は俯いた。赤くなった頬を隠すためだ。

どうもこの前の清瑚が訪れたときから、佐折を細かいことで意識してしまう。それは佐折がとても可愛いと認識してしまったが故なのだろうか。


「若狭さん、掃除用具ってどこに……若狭さん?」

「あっいえ、なんでもないです」

「なんで敬語なんですか?あと、答えもヘンですよ」


めちゃめちゃに不審がられた。ジト目でこちらを見られたことで、頭を冷やせた翼は慌てて聞かれたことに答える。


「掃除用具なら階段下の物置にあります」

「まだ敬語……分かりました。とってきますね」


まだぎこちなさが抜けない翼の様子を半目で見ながら、とてとてと小走りでリビングを出ていった佐折。そしてすぐに手に掃除機とワイパーを持ってきた。


「若狭さん、バケツと雑巾持ってこれますか」

「……分かった」


今度はうまく返事できたと内心ガッツポーズをとりながら、リビングを後にした。


じゃあじゃあと流れる水を見ながら、彼女について考える。

なぜこんなにも彼女の笑顔に見とれてしまうのか。なぜ彼女の一挙手一投足に注目してしまうのか。

いくら考えても答えは出ない。あれから3日ほど立っているが、ずっとそんな風な態度をとってしまう。

揺れる水面には全く答えが浮かぶ気配もない。

そして水をタポタポに入れたバケツを持ってして、リビングへと帰還する。


「ちゃんとできたようですね」

「もしかして俺のこと赤ちゃんか何かかと思ってる?」

「いえ、最近なにか上の空と言うかふと態度がヘンになるときがあるので心配だったんですよ」


どうやら慮ってのことらしい。それなら良いと頷く。


「それは、多分大丈夫だから」

「ホントですか?私のせいで体調を崩したなんて、笑えないことやめてくださいね」

「いや、それはないと思うんだ」

「じゃあ、とりあえず、掃除しましょう。二階から行きますか」

「おーけー。……二階?」


そっちはまずい、と遅ればせながら気づいた翼なのだった。

 @


「これはひどいですね……」


二階の翼の部屋を見た第一声がそれだった。その一言が自然と漏れ出るくらい、翼の部屋はやばいのだ。自分でもそう思っているが、片付ける時間も余裕もなかったので、凡そ3年以上片付けられていない。机の上にはごちゃごちゃとペットボトルやチラシが林立していて、床には脱いだままの服がゴロゴロと。ゴミ箱からは溢れ出るティッシュがオーラのようなものを放っている。


「まずなにか匂いませんか?」

「多分ペットボトルだと思います、はい」

「ゴミ袋足りますかね……」


確かに佐折の手に持っているサイズのゴミ袋では少し心許ないかもしれない。しかし取りに行くのも面倒ではあるので、後回しにして中に入る。


「足の踏み場があることが一番の幸いですね」

「そうっすね、はい。まず大きめのゴミを袋に入れますか?」

「そうしましょう」


ちなみに、なぜ翼がまたも敬語になっているのかと言うと、マジの申し訳無さによるものである。自分が原因で散らかっているのに掃除してくれる彼女に頭が上がらない。

彼女は慣れた手付きでゴミをポイポイと袋に入れている。


「掃除、上手いね」

「ええ。私結構綺麗好きなんですよ。料理はあんまり上手くないですが、これは胸張って言えますね」


意外であった。料理の不器用さからして、掃除もできないと思い込んでいたが、それは大きな失礼だったようだ。

その後も机の上にあるペットボトルを袋に入れ、紙を束ねていく彼女。

翼もただ見ているだけではなく、洗濯するために服を手にとる。放置された服をそのまま畳むと皺になりかねない。

 

 @


階下に降りていくのを尻目に、佐折はチラシをまとめ終え、今度はうず高く積み上げられている本を手に取る。


「これは……ラノベ、っていうやつでしょうか?」


本にはあまり明るくない佐折だが、そのイラストのテイストや本自体の大きさなどから、聞きかじったことのあるラノベだと推測する。

こういうのが翼は好きなのだろうか。そう考えて、何故か嬉しい気持ちになった。

彼女は気づかない。翼の好みを知れて嬉しいという心の奥底の本音に。


「なんでですかね……」

「どう、作業進んでる?」

「ひゃっ……って、若狭さんでしたか。びっくりさせないでくださいよ」


 @


唐突に声を掛けたせいか、彼女は大きく驚いてしまったようだ。嬉しそうな後ろ姿に声をかけづらかったので、静かに近づいたのが仇になってしまったようだ。


「ごめんごめん、脅かすつもりはなく……って、その本は」

「すいません、机の上に置いてあったのが気になって」

「別にいいよ、興味持ってくれたの?」

「はい。あまり私本を読まないので……」


珍しい、と。それなら。


「どうせなら貸すよ?読みたいんならさ」

「え、良いんですか?」

「うん、これくらいは全然。全巻揃えてるから、大丈夫」


軽めにそう言うと、彼女の切れ長の目がキラキラと輝き始める。

どうやらそれほど嬉しかったらしい。そんな様子をされると、こちらまで嬉しくなってくる。


「ありがとうございます!読み切ったらすぐに返しますね」

「それはいいよ。良いんだけど、そろそろ再開しよう?」

「あっ」


顔を赤くして、照れる佐折なのだった。


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