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クラスメイド  作者: 新切 有鰤
12/12

クラスメイドとデートと 前編

「やっと夏休みだあああああああ!!」


歓喜の雄叫びをあげながら、フッカフカのリビングのソファにダイビングする翼。その行動はまさに、今の翼の心情をこれ以上ないほどに表している。

そのことは佐折もわかっているのだろう。苦笑はすれど、明確に怒るということはなかった。


「テストも無事に通りましたね。良かったです」

「マジで苦労の甲斐あったよ……。平均点思ったよりも高かったのが不安だったね」


何はともあれテストは無事通過したのだ。後に待ち受けるは自由の世界、夏休みのパラダイスである。

ちなみに翼佐折二人共部活は入っていないので、夏休みは完全フリーと言った感じだ。フリーと言っても翼の父を養う必要があるが、それも二人で協力すれば自由時間はたっぷりあると言っても良いだろう。


「というわけで、俺は少し出かけてくる」

「お出かけですか。お一人です?」

「ああ。めっちゃ久しぶりにゲーセンに行こうかなって」

「げ、げーせん……」


行ったことがないのだろうか、佐折は不思議そうなイントネーションで口の中で言葉を反芻した。

翼はヤングケアラーになる前は結構なオタクというか、そういう事象に詳しい人種だったのだ。息抜き的に行こうかなと思っても家事に追われてしまって余裕ない、といったことが続いていたため、暇がある今日、久しぶりに行ってみようという気分になったのだ。

ついでに言うと、クレーンゲームとかでお世話になっている佐折になにがしかのプレゼントをできたらいいな、という願望もある。

なので一人でいこうかなという旨を告げたら、何故か佐折が思案げな顔をしている。

そして。


「──私もついて行っていいですか?」

「え?」

「ですので、私もついて行っていいですかと」

「別にいいんだけど……急にどうしたの?」

「げーせんに私も行ってみたかったんです。前々から存在自体は知ってたんですけど、あまりそういうことに縁がなくて」

「だから知るために行ってみたい、ってことね。まあ、うるさいとは思うけど」


というわけで、二人でのゲーセンデートが始まるのだった。

本人はデートと気づいていないのが、鈍感なのかわざとなのか……──。


 @


数十分後。二人は隣町のさらに隣町のゲームセンターに来ていた。

なぜこんなに離れた場所に来たのかと言うと、クラスメイトに見つかりでもしたら面倒な事態になることが明白だからだ。

それに、スーパーでの買い物と違って、高校生なら普通にゲーセンに来るので隣町程度じゃ安心できない。なので、ここまで離れた場所まで来たのだ。

今日の佐折の出で立ちはラフなカーゴパンツにパーカー、いつもの丸メガネをかけたスタイルだ。遠目に見ると、誰かわからないだろう。

自動ドアをくぐり、懐かしい共騒が耳に入ってきた。

どこからか聞こえる電子音、メダルゲームによるジャラジャラと言った音。

少し横の様子を伺うと、目を開いて瞳を輝かせていた。

まるで少年がカブトムシを見つけたような、まさにワクワクという擬音が最も合うようなその様子に翼は思わず苦笑した。


「わ、あ……。ここがゲームセンター……」

「そんなに喜んでもらえるなら連れてきてよかった」


先のラノベの話といい、彼女は結構オタクの素質がありそうだと感じる翼。

佐折はそのまま近くにあるクレーンゲームやガチャガチャといった機体を物珍しそうに近づいて見たりしている。


「適当にぬいぐるみでも取りますか」


そう独りごちて、目についた最近流行っているパンダのキャラのぬいぐるみが入ったクレーンゲームに100円硬貨を放り込む。

ちなみに翼のクレーンゲームの腕はかなりうまい。料理をしていることからもわかるであろうが、手先は器用な方なのだ。

2種のボタンをポチポチ押して微調整をする。横移動は少しづつ動かしていくのがコツだ。


「よし、もう少しだ」

「いけますよ、若狭さん!」


降りてきたクレーンがぬいぐるみの首を上手くホールド、しっかりと持ち上げて出口に落とした。手を入れて、パンダを取り出す。

いつの間にやら近くで見ていた佐折が手を叩いて翼を褒める。


「手際いいですね……」

「ま、伊達に昔に結構行ってたからな。……──やるよ、これ」

「え、良いんですか!?」

「ああ、取ったは良いけどキャラじゃないしな」


翼は手に入れたパンダのぬいぐるみを彼女の顔の前でフリフリと振って、自分はいらないからという題目を付けて、あげると言った。本心はいつもお世話になっているお礼なのだが、それを口に出すには些か恥ずかしいので言えないのがお約束だ。

予想外のことを言われた彼女は目を見開いて、その瞬間美しい相貌を崩した。


「ありがとうございます……!」

「他に欲しい奴見つけたら言ってくれ、多分取れると思うから」


その後も目を輝かせながら欲しいものにベッタリとくっつく可愛らしい佐折の行動に着いていったり、お菓子の山から取るタイプのクレーンゲームで大量にお菓子をゲットしたり……。


「いやー、楽しいですね、ゲームセンター」

「付いてきてよかったか?」

「ええ!」


佐折は相当テンションが上っているのだろう、語尾がいつになく上がっている。

そんな彼女のことしか見ていなかったので、翼は気づかなかった。

声が聞こえた。


「────あれ、翼?」


酷いデジャブを感じながら、ぎこちなく振り返る翼。

そこには、学校の友人その2こと換流がいたのだった。

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