第21話「スパイダーレディ」
彩佳と翔太郎は、残りのライダー達を引きつけながら走っている。
車通りもなく、シンと静まった道路に、バイクの唸り声が尾を引くように響いていく。
彩佳は速度を調節しながら、皆を引きつけるようにまっすぐに走って行く。
RUCのライダー達は、いつでも攻撃が仕掛けられるように、軽く左右に移動しながら追いかけていく。
彩佳は翔太郎に
「そのベルトで私と繋いどいて。しっかり縛っとかないと、軽く放り出されるわよ」
と言った。
翔太郎は
「ベルト? あっコレ、ベルトになってんのか」
と、彩佳が作ったショルダーベルトのウエスト部分を外し、引き延ばして、彩佳と自分を結んだ。
「行くわよ!」
「OK」
翔太郎もバイクにまだかる足に力を込め、身構える。
彩佳は突如、道路を逸れ、横の高くなっている斜面を上がり、細い道を土ぼこりを上げながら、ハイスピードで走り抜ける。
先ほど、尾を引くように聞こえていたバイク音は遠ざかり、それでも、まるで蚊の羽音のように探るように鳴くバイク音は、聞こえ続ける。
彩佳は迷わず、急斜面を走り下りた。
彩佳はモトクロスの選手で、常に優勝を争ってきた。その予測不能の縦横無尽な走り方は、まるでクモの糸に吊られたようで、“スパイダーレディ”と呼ばれていた。今でも、その技術は衰えていない。
「ほら、来たわよ」
バイク音が明らかに唸りを上げて、大きく近づいてくる。
「さっきから聞こえてるさ」
翔太郎も近づいてくるバイク音で、距離を測っていた。
そして、左右の斜面からすべり落ちるように、ライダー達が下りてきた。
彩佳はさらにスピードを上げ、もう一度斜面を駆け上がり、細い道を走り抜け、遊具のある公園に出た。
少しでも追っ手を減らしておきたい。
散らばっている遊具の間をハイスピードでくぐり抜け、追ってくるバイクをギリギリのところで躱し、バイクのバランスを崩して転倒させ、双方向から向かってくるライダーの中央を突破し、ライダー同士をぶつけさせ、事故らせた。
「彩佳、やるな」
翔太郎が倒れているライダー達を見ながら言うと、彩佳は
「まだまだよ」
と、エンジンをふかした。
追ってくる二人乗りのライダーを見ると、後ろに乗っているライダーは、スティック状のスタンガンを持ち、襲ってきた。
「翔太郎、出番よ。私が飛ぶから、あのスティック野郎達をやっつけて」
「分かった」
翔太郎は背中から白樫の木刀を抜き、両手に構えた。
彩佳は遊具のタイヤや、小さなポニー、キリンなどを、ジャンプでポンポンと飛んでいく。
ライダー達も両脇から遊具を飛び越え、やって来た。
彩佳達をめがけて、ハイジャンプで飛び、両脇からスタンガンで襲ってくる。
彩佳はさらに上空を飛び越え、バイクで一回転する。
ちょうど逆さまになった時、翔太郎は二台のライダー達を木刀で捉え、叩き落とした。
彩佳は地上に戻ると、そのままハイスピードで公園の柵を飛び越え、斜面を駆け下りていった。
広い舗装された道路に出ると、さらにフルスピードで走り抜け、丘の上の研究所へ続く道へ、翔太郎を降ろした。
「翔太郎! 早く行って。あとは私に任せて」
迫ってくるバイク音を聞きながら、翔太郎を急かした。
「おう。彩佳、気をつけろよ。無理すんな。後でな」
翔太郎は丘の上へ駆け上って行った。
単身になった彩佳は、方向転換し、ライダー達の方へ向かっていく。
正面衝突しそうになるギリギリの所で、前輪を上げ、後輪で方向転換。
左右に移動し、ライダー達にピタリと付いては、前輪のみで方向転換を試みたり、ハイジャンプでライダー同士をぶつけ合うなど、次々にライダー達を倒していった。
それでもついて来る二台のバイクを引き連れ、彩佳は斜面を駆け上がった。
下に川が流れる高い丘のギリギリまで、フルスピードで突き進んでいく。
わざと、舗装されていない、剥き出しの土や石で走りづらい道を選び、駆け上がっていく。
スピードはさらに上げていく。
後ろの二台はピッタリとついて来る。
もう、丘の頂上だ。
逃げ場はない。
彩佳はギリギリの所でブレーキをかけた。
バイクは横すべりして、かろうじて止まった。
追跡してきたバイクは、ブレーキのタイミングを外し、バイクごと川に落ちていった。
彩佳は
「あたりまえよ。私がブレーキをかけた所が最後よ。あれから0.1秒でも遅れたら、マシンごと落ちるのよ」
バイクを降り、軽く伸びをして「フッ」と深呼吸すると
「さっ、翔太郎を迎えに行くか」
と、バイクにまたがった。




