第13話「避難所にて①」
いつもより明かりも少なく、うす暗くなった町を歩く。
今の季節は夜は少し涼しげで、気持ちのよいくらいの気温だが、人の気配もなく、しんみりとした夜の町を歩くのは、少し不気味だった。
彩佳は
「ねえ、避難所ってどこ?」
と、添島に尋ねた。
「あっ、もうすぐです。すぐ近くのスーパーをお借りして、避難所にお願いしてあります。食料品もそろっているので、後で役場で支払いも出来ますし、協力していただくことになったんです」
こんな人の声もない、しんみりした町では、ここでの会話も闇の中で響くような感じだ。
拓也達のスニーカーはともかく、桃子達の靴音もコツコツと夜の中に響いている。
不安な空気を一掃するように拓也は
「食料あるナラ、イイナ。みんなでちょっとパーティー気分ジャン」
と笑った。
翔太郎も
「そうだな。ろくなもん食ってねぇもんな」
と同意した。
桃子は、いつも自分を守るように、周りに気をつけながら歩いてくれている拓也に、寄り添うように歩いている。
スーパーにはすぐに着いた。
スーパーの中は補助灯で照らされ、うす暗いが、商品は棚に陳列されている。
チルド品なども、きちんと冷蔵されているようだ。
「お借りしたのはバックルームの方です。こちらですよ」
六人は階段を下り、一つの扉の前に立った。
藤田がドアをノックした。
「小谷さーん、お願いしていた役場の者でぇーす。開けてくださいよぉ~」
中の覗き穴から、こちらを覗いている気配がする。
ガシャ
鍵を開ける音がして、ゆっくりと扉が開いた。
ひょろ長く、顔色の悪い男が、ギョロギョロとこちらをうかがうように見ている。
これが、スーパーの店長・小谷である。
「役場の人だね。早く入って。閉めないと危ないんだからさ」
うす暗い部屋の中へ六人は入って、ドアを閉めた。
「お世話になります。小谷さん。よろしくお願いしますね」
部屋の中には食料品や、医療品が備蓄されている。
部屋の隅にはテントが一つ設置してあった。
そして、既に、一人の避難者が座っていた。
小谷は六人をジロジロ見ていたが、途端に叫び声を上げた。
「ワァ~!! 怪人だ! 怪人がいる」
すると添島が
「あ~、小谷さん、落ち着いてください。彼は、中身は全然怪人になっていません。理性を保っています」
と説明した。
「何を言ってんだ! 怪人から避難しているのに、怪人なんか中にいれてたまるか! コイツがこずるくて、そういうフリをしているかもしれないだろ。絶対に追いだせ!」
翔太郎は拓也を擁護した。
「見た目で判断するな。拓也は完全に理性を保ってるし、これまでだって、ずっと俺達を守って戦ってきてくれたんだ」
彩佳も黙ってない。
「そうよ。ここはみんなの避難所でしょ。おじさんに追いだす権利ないわよ」
小谷は見識張って怒鳴った。
「ふざけてもらっちゃ困る。役場から頼まれて協力したが、ここは私のスーパーだ。言うなら、私が責任者だ。みんなの安全を考える責任がある。とにかく彼をすぐさま追いだせ! そうでなければ、全員出て行ってもらう!」
「なんてひどいの……」
桃子は震えた。
「おい、おっさん。お前、言っていいことと、悪いことあんだろ。その歳でみっともねぇぞ」
翔太郎がすごむ。
一触即発のその空気に、拓也が割って入った。
「言ってること、ワカルヨ。怪人といたら、怖いダロ。オレ、出てくヨ」
翔太郎は拓也に背を向けたまま
「行くな、拓也」
と拓也を止めた。
拓也は笑って、翔太郎の肩にポンと手を置くと、出て行った。
外には少し前から、激しい雨が降ってきている。
拓也はびしょ濡れになってしまうだろう。
小谷は「フゥ……。これでやっと落ち着ける」と言って、自分のテントに一人で入り
「さあ、私の愛読書、哲学の本でも読むかな。こういう時は、平常心でいるのが一番だ。最近、死についての哲学も読んでいるのだよ。君達には分からないだろうが、死について考えると、生について考えることに行き着くからねぇ。君達もたまには、哲学書でも読みなさいよ」
すると、翔太郎が問いかけた。
「おっさんさぁ、アンタ、家族かなんかいないのかよ? 家族が怪人になっても、アンタあんな風に言うのかよ」
小谷は
「私の妻は“完璧な妻”でね。しっかり家を守って、怪人になんかやられんのだよ。ご心配なく」
「そうかよ。だけどな、哲学書もいいけど、おっさんがやってること、全部クソだぜ」
翔太郎は怒りがおさまらない。
彩佳も
「死について考えるよりも、本当に体験できるかもね」
と毒を吐いた。
小谷は二人の言葉を無視し、自分のテントの中だけランプをつけ、哲学書を読み始めた。
桃子はいても立ってもいられず
「私、拓也くんの様子見てくる。帰ってきたら、三回ノックするから、開けて」
と、出て行った。
今まで黙っていた小谷は
「出て行くのは勝手だが、鍵だけはしっかり閉めなさいよ!」
と怒鳴った。




